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第68話 ゴブリンテイマー、戦いを見守る

「な、なんだてめぇ!!」

「いつの間に」

「さっきまでこんなガキはいなかったぞ」


 せっかく僕が詳しい話をしてあげようと思ったのに、ゴロツキの男たちは一斉にテーブルから離れて武器を手にして叫んだ。

 魔法の光で少し明るいとは言っても、夜中の倉庫のようなアジトの中。

 薄暗いこの場所は、ゴチャックの光錯(こうさく)を使うには抜群の場所だった。

 僕はゴチャックたちと共に光錯(こうさく)で身を隠しながらアジトに忍び込み、今の今まで身を隠していたわけである。

 一応アジトの外にも何匹ものゴブリンを配置してあるので、こいつらに逃げられる心配はない。


「こいつ。あの時のガキだっ」


 僕からお金と通行証をスったハンズという男が、僕の顔を指さして叫ぶ。

 思ったより物覚えがいいらしい。

 いや、人の顔を覚えるというのはスリにとって必須の技能なのかもしれない。

 なぜなら間違って自分たちよりも上の組織の関係者に手を出してしまえば、即人生終了となってしまうからだ。


「まさか一人で乗り込んできたってのか? 馬鹿がっ」

「でもよ。こいつ突然現れたってことは、とんでもないスキル持ちなんじゃねぇか?」


 この場で一番強そうな顔に傷のある筋肉隆々の男が、怯えた声を出す。

 見かけと違い気弱なのか、その目は既にアジトの出口をチラチラと見て、逃げ出す算段をしているようだ。

 普通に考えれば悪党が十人いて、小柄な少年の見た目をしている僕相手に怯えることはないはずだ。

 現にその男以外の九人は、各々手に武器を持ってジリジリと間合いを詰めてきている。


「さっき言ったよね。僕はダスカス公国軍と戦ったって」


 僕はそんな彼らを見渡し言った。

 だけどダスカス公国が攻め込んできたことすら眉唾と思っている彼らは、鼻で笑う。

 そりゃ見た目は弱く見えるのは自覚してる。

 だけどここにいる全員が気づかないうちに宴会に紛れ込んでいたのは事実。

 しかもわざと姿を現してまでいるのだ。

 そんなの、僕の実力が彼らより遥かに上だからだと、なぜわからないのか。


「だから下っ端のゴロツキでしかやっていけないのかな」

「なんだとテメェ!」

「ガキが! ぶっ殺してやる」


 僕のあからさまな挑発にも、簡単に乗ってくる始末。

 これじゃあ本当に僕一人で来ても良かったかもしれない。

 だけど、今僕の後ろでストレスをためている鬼がいる。


『ゴブゥ』

「な、なんだ今の声は」

「ヒイッ。ガキが何か連れ込みやがったのか!?」


 そう。

 僕の背後では未だにゴチャックの光錯(こうさく)によって身を隠したままのゴブハルトが、出番を今か今かと待ちわびていたのである。

 中継所でネガンとの模擬戦以来、どうもゴブハルトはずっと戦いたくて仕方がないらしく、僕はずっと彼をなだめるのに苦労していた。


「わかったよゴブハルト。でも約束通り殺すのはナシだ。いいね」

『ゴブ!』

「お、おい。一体何と話してるんだよ」

「今の鳴き声。やっぱりどこかに何かが……」


 怯える男たちに、僕は両手を合わせて告げる。


「ごめんね。ちょっと僕の家族の憂さ晴らしに付き合ってあげてね」


 その言葉を待ってましたとばかりに、僕の背後の気配が一気に強まる。


「ご、ゴブリンだと」

「今何もない所から現れたぞ」

「どうなってんだ」


 戸惑い慌てる男たちを見ながら僕は思う。

 今すぐに飛びかかれば簡単に全員を制圧できるだろうに、ゴブハルトのやつ、落ち着くのを待ってるな。


「たかだかゴブリン一匹じゃねぇか」

「でもよ。俺の知ってるゴブリンより大きい気がするんだが」

「俺はゴブリンなんて初めて見るからわからねぇが、見るからに弱そうだぞ」


 その言葉を聞いて、僕は椅子に座りながら上体だけをひねって後ろを確認する。

 するとたしかにそこには、少しだけ体の大きな普通のゴブリンの姿があった。


「そのまま戦うの?」

『ゴブブッ!』


 魔石によってゴブリンオーガに進化してから、ゴブハルトは自らの体の状態を変化させることができるようになっていた。

 通常のゴブリン、ハイゴブリン、ゴブリンオーガ。

 ゴブハルト曰く、ゴブリンオーガ状態だと魔力の消費が激しいだけでなく、ゴブハルト自身の精神力もかなり使うのだそうだ。

 魔力だけなら僕が供給し続けていれば問題はないのだけれど、精神的な疲れは防ぎようがない。


「それじゃあ後は任せるよ」


 僕は椅子から立ち上がると、アジトの端の方へ移動する。

 そこにはゴチャックがもしもの時のために隠れたまま控えているはずだ。

 といっても現状、もしもの事なんて起こりそうにもないけれど。


『ゴブッ』


 僕と入れ替わるようにゴブハルトが前に進み出る。

 そして腰に差したいつもの剣――ではなく、ネガンとの模擬戦に使った木刀を抜いて構えた。

 あの時返さず、そのままゴブハルトはあの木刀を持ってきてしまったらしい。


「ゴブリンのくせに舐めやがって」

「かまうこたぁねぇ。こっちは十人、相手はガキと最弱種族のゴブリンが一匹だ」

「やっちまえぇぇぇ!」


 男たちの怒号がアジトの中に響き渡った。

 どうやら相手もすっかりやる気になったようだ。


「さて、どれくらいもつかな」

『ゴフ』

「え? ゴチャックは十数える間に終わるって思ってるの? じゃあ僕は三十にしよう」

『ゴフフ?』

「いや、だってゴブハルトの顔が完全に遊ぶ気満々なんだもん。すぐに終わらせる気はないんじゃないかな」


 そうして僕はゴチャックと軽い賭けをしながら、戦いを見守ることにしたのだった。


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