第67話 ゴブリンテイマー、正体を現す
「王都へやってくるお上りさんから物を盗むのは、楽でいいな」
「ああ、俺も今日は大儲けさせてもらったぜ」
窓もない倉庫の一室で、男たちが大きなテーブルを囲んで酒を酌み交わしていた。
彼らはこの王都で徒党を組み、王都へやってくる無防備な観光客などから金品を盗んで日々を自堕落に暮らしていた。
人口が多い王都には彼らを始めとして、大小様々な悪党や小悪党が跋扈している。
もちろんこんな場所で小銭を数えている彼らは小悪党だ。
それも下の下と言っていいだろう。
時には彼らより大きな組織の使いっ走りを喜んで受けたり、ただの小間使いのような仕事も少なくない。
その代わりに、その組織から彼らの小賢しい小さな犯罪は見逃してもらっている。
「それにしても今日は、王都の外からの人がいつもより多かった気がするが、何かあったのか?」
小柄な男が盗んできた品物を机の上で確認しながら言う。
この集団の中で彼は唯一鑑定系のスキル持ちなので、盗んできた者の価値を調べる役目を担っていた。
といっても彼の鑑定スキルは、大まかに贋作かそうでないか、価値があるのかないのかが感覚でわかる程度のもの。
なのできちんとした鑑定は、盗んだ品物を持ち込む裏社会と繋がりのある買い取り商で行ってもらうことになる。
だがそういった所にあまり下手なものを大量に持ち込むと不興を買ってしまうため、彼のようなレベルであっても鑑定スキル持ちは重宝されていた。
しかしもし彼の力がもう少しはっきりとものを鑑定できたのであったら、今頃こんな小悪党の仲間になどなってはいなかったろう。
「それにしてもハンズ。お前面倒なものをギッてきやがったなぁ」
一枚の札のような板を振りながら、脇に置いてある少しだけ立派なソファーにふんぞり返った男が面倒くさそうに言う。
ハンズと呼ばれたのは、鑑定士の体面に座って酒を飲んでいる男だ。
「まさか金にそんなものが挟まってるなんて、わかるわけねぇだろ」
「しかしだ、こんなものを持ってるような奴に普通近づかんぞ」
「それを持ってたのはどうみてもただのお上りさんのガキだったんだ。まさか王城の通行証なんてもってるようなタマには見えなかったんだよ」
ハンズは昼間、キョロキョロと物珍しそうに周りを見回しながら、慣れない人混みをフラフラと歩いていた獲物を見つけた。
今日は特にそういったカモがたくさん町に溢れており、ハンズもその獲物に出会うまでにかなりの稼ぎを上げていた。
そして今日はもう十分稼いだとアジトに帰る途中に、偶然そのガキを見つけてしまい手を出したというわけだった。
「しかし通行証。しかも王城のだとすると、そのガキはどこかの大商人か貴族の子供かもしれないぞ」
「そういやここんところ身なりの良いお上りさんが多いのは、王城で何かあるからって噂だったな」
「ああ。その招待客の一人だとすると、早い目にこいつは手放した方がいいかもしれん」
「でもよ、あのガキはどう見ても貴族の子供とかいいとこのボンボンにも見えなかったぜ。服装もボロい旅装だったしよ」
ハンズは昼間の得物の姿を思い出しながらそう答える。
彼とてわざわざ危険を冒して、権力を持っていそうな相手を襲おうなどとは思わない。
「じゃあ武勲を上げた冒険者か?」
「言ったろ。どう見ても弱っちいガキだったって」
ハンズはからになった酒瓶からしたたり落ちる雫をなめて「けっ、もうなくなっちまった」と机の上に叩きつけるように置いた。
「まぁ、とにかくこんなものはさっさと処分するに限る。明日マーケットで売るからな」
「いっそ捨てちまったほうが良かったか?」
「いや、これはそれなりに金になるからな。買い取って何に使うのか知らねぇが、捨てるにはもったいない」
ソファーの男は体を起こすと、通行証を持ったまま立ち上がる。
そして近くの箱から酒瓶を何本か取り出すと、それを持ってテーブルに着いた。
「とにかく今日は大量だったんだ。全員でぱーっと酒でも飲んで祝おうや」
男のその言葉に、彼の仲間たちも一斉に歓喜の声を上げ、離れた場所で作業をしていた男たちもテーブルに駆け寄ってくる。
大きめのテーブルにズラリと並んだ十一人の男たちは、それぞれ自らのコップに無造作に酒を注ぎ込み飲み始めた。
「しっかし王城で一体何があるんすかね」
「さぁな。上の奴らに聞けばわかるんだろうけど、やぶ蛇になっちまいそうでな」
「下手に関わって、ヤバいことやらされちゃあたまんないからな」
そうだなと何人かの男たちが頷く中、一人おずおずと口を開いた男がいた。
「でもよ、俺少し聞いちゃったんだよな」
「何をだよ」
「いやね。どうやら近いうちに隣の国から使節団が来るとかなんとか」
「隣ってどこだよ」
「たしかダスカスの奴らだったかな。俺も又聞きだから、はっきりとはわからんけど」
ダスカス公国。
そういえば町の噂で最近話題になっていたことがあると、皆思った。
協定を破り、ダスカス軍がこの国に侵攻してきたとかいう与太話だ。
「でもよ、あの噂が本当だったら王都の連中がこんなにのんびりしてるわけがないよな」
「そりゃそうだ。本当にダスカス公国が侵略してきたんだったら、大規模に王国軍が動くはず」
「俺の知る限りだと、第十三連隊が王都を出たって話だが」
「あの貴族のボンボン用に作られた張りぼて部隊だけか。それを見て誰かが噂をでっち上げたって所じゃねーか」
「ちげぇねぇ」
十人の男たちが大きな声で笑い出す。
酒がかなり回ってきたのだろうか。
だがその中でたった一人だけ、何も言わずにテーブルの上の食べ物だけをつまんでいた男がいた。
この部屋の中にいる男たちの中では一番小柄で、まるで子供が紛れ込んだかのようなその男は、他の男たちの笑いが収まった所でおもむろに口を開いた。
「楽しそうな所悪いんだけど、ダスカス公国軍がこの王国に攻めてきたって話は本当だよ」
十人の男たちは聞き慣れないその少し幼い声に、一斉に視線を向ける。
「なんだと?」
通行証をいじっていた男がいぶかしげにそう尋ねると、注目を集めた男は――エイルは、目深に被っていたフードを払って笑顔でこう告げた。
「だって僕が、そのダスカス公国軍と戦った当事者の一人だもの」
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