第66話 ゴブリンテイマー、作戦を練る
二人一組で王都中へゴブリンを放った僕は、一人部屋の窓を開けて朗報を待っていた。
ゴブリンたちは元々の性質上、闇に隠れて動くことを得意とするため、夜になれば一部の明るい所以外では光錯で身を隠す必要すらない。
王都とは言え、夜に魔法で外を照らしている場所は大通りくらいのもの。
なのでゴブリンたちは自由自在に闇を走り回り、情報を集めることができていた。
一応ゴブハルトのような戦闘に特化して気配察知能力の高い者と、ゴチャックたち光錯が使えるゴブリンスカウトをコンビにしているが、人に見つかった時点で即時撤退するようには伝えてある。
四十組ほどのゴブリン捜査隊を放ってから、かなり時間が経った。
ラスミ亭もすでに看板をしまい、片付けも終わったのか店の灯りも消えた頃、部屋の窓からゴチャックが飛び込んできた。
「見つかった?」
『ゴブゥ』
部屋に帰ってきて光錯を解いたゴチャックによれば、どうやら僕の大事な通行証を盗んだ奴らのアジトを見つけたらしい。
こういうことは、やはり人海戦術に限る。
どうやら僕からお金と通行証を盗んだ奴は、十人くらいで同じようなことを町中で繰り返して小銭を得ているコソ泥集団らしい。
そして僕のお金を盗んだ男は、たぶんあの時路地で僕に声をかけ、人違いだと去って行った男のようだった。
全然気づかなかったけど、たぶんあの時に盗まれたのだろう。
「通行証を売る? そんなことできるの?」
『ゴブ』
お金だけを盗んだつもりが、僕が偶然お金の間に通行証を挟んで入れていたせいで、そいつは通行証を手に入れた。
そのことにアジトに戻って成果を出し合った時に気づいた彼らは、どうやら明日にでもその通行証を闇市に流すつもりなのだとか。
あの通行証自体は僕専用なので誰かが代わりに使うことはできないはずだが、どうやらそれをいじって偽造する商人がいるらしい。
そんな偽造通行証を使って王城に入って何をするつもりなのかはわからないけど、僕のせいで何か問題が起こってはかなわない。
「明日までに取り返さないとね」
僕はベッドに置いた背負い袋の中に手を突っ込む。
「それじゃあゴチャック、この魔灯を宿の屋根の上に立ててきて」
そう言いながら袋から僕は一本の太い棒状のものを取り出すと、それに魔力を流し込んだ。
これは魔灯といって、たいまつの代わりになる魔道具で、魔力を流し込むことによってしばらくの間光を放つ。
いくら僕がゴブリンたちと意思疎通ができるとは言え、広い王都中に散らばったゴブリンたちには声は届かない。
なのでもし犯人が見つかった場合は、この宿の屋根に魔灯を灯すことで全員に集合の合図を知らせる手はずになっていた。
「といってもさすがに八十人も連れて行くわけにはいかないし、王都で魔法をぶっ放すのも危なそうだから、ゴブハルトとゴチャックの二人だけ連れて行こう」
強力な魔物や冒険者、兵士を相手にするならともかくだ。
ただのゴロツキなら僕一人でも十分かもしれない。
だけど一応用心はしておいた方がいい。
万が一怪我なんかしてしまったら、せっかく通行証を取り返しても意味がなくなってしまう。
「さてと、それじゃあ皆が戻ってくるまでに作戦でも考えよう。ゴチャック、アジトの場所とか内部構造とか教えてくれるかな?」
『ゴゴッ』
僕はベッドの上に手書きで作った王都の簡易地図を広げながらそう言った。