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第11話 ゴブリンテイマー、進化させる

 好奇心に負けて、僕のステータス……いや、【ゴブリンテイマー】スキルの能力を鑑定したことを、まだ気にかけてくれているらしい。


 でも、正直に言って、僕は、むしろ鑑定してもらって良かった、と思っている。


 おかげで、僕自身も知らなかった【ゴブリンテイマー】の能力の一端を知ることができたし、使役できるゴブリンの、大まかな上限も把握することができた。


「分かりました。それじゃあ、そうさせてもらいます」


 僕はそう言うと、腰に下げたテイマーバッグを、ポン、と軽く叩き、ゴブハルトとゴブリーナを召喚する。


『ゴブ』

『ゴブブ』


 召喚された二匹は、キョロキョロと辺りを見回し、興味深げな様子だ。


 そして、正面に座る二人に、少しだけ警戒しながら、僕の傍に寄り添い、指示を待つように立った。


「この二匹が、進化したゴブリン、か」

「確かに、普通のゴブリンに比べて、一回りほど大きい気がしますね。それに、なんだか、顔つきも可愛らしく見えます」


 貴方の方が可愛いですよ、と、口に出しかけたが、ゴブリンより可愛い、というのは、褒め言葉にはならないだろう、と、僕は、ぐっと言葉を飲み込む。


 それに、ゴブハルトの方は、「可愛い」と言われて、少しムッとしたような感情が、僕に流れ込んできた。

 ゴブリーナは、嬉しそうだが。


「それじゃあ、ゴブハルト、ゴブリーナ。一つずつ、この魔石を食べていいよ」

『ゴブゴブ!』

『ゴブブブブ!』


 僕の指示を聞いて、二匹は、机に近寄ると、その上に置かれていた魔石を、それぞれ掴み上げる。


 そして、一度、僕の方を見て、僕が頷くのを確認してから、口の中に放り込んだ。


 ガリゴリ、ガリゴリ……。

 静まり返った部屋の中に、二匹のゴブリンが魔石を噛み砕く音だけが、しばらくの間、響き渡る。


「……特に、何の変化もないみたいですわね」

「いや、見た目だけでは分からんぞ」

「とりあえず、ステータスを確認してみましょうか」


 僕がゴブハルトへ視線を向け、鑑定しようと意識を集中させようとした、その時だった。


『ゴブ……ブブ……ブブウウウウウ!』


 突然、ゴブハルトがその場に蹲り、苦しげな唸り声を上げ始めた。

 そして、その身体から、黒い湯気のようなものが、モワモワと立ち昇る。

 そう思った瞬間、今度は、その湯気が、まるで逆再生の映像のように、ゴブハルトの体内に、一気に吸い込まれていき――


「な、何が起こったのだ!?」

「キャアッ!」


 ボコッ!


「うわぁっ!」


 どちらかと言えば細身だったゴブハルトの両腕、そして大胸筋が、突然、ボコッ、と音を立てて盛り上がる。

 続いて、腰、そして足が、一気に二倍ほどの大きさに膨れ上がったかと思うと、その顔にも変化が現れ始めた。

 小さめだった目が、少しだけ大きくなり、顔立ちも、ルーリさんが「可愛い」と言った面影は、もはや微塵も感じられないほど、精悍なものへと変わっていた。

 何より特徴的なのは、額に生えた、一本の太い角。


「な、なんだこりゃ……。こいつは、もうゴブリン、なんてものじゃない。まるで、小型のオーガじゃねぇか」

「あ、ギルドマスター! ゴブリーナちゃんの方も、何か変化し始めています!」


 ルーリさんの声に、僕とギルドマスターは、視線をゴブハルトからゴブリーナへと移す。


『ゴブ……ゴブブ……ゴブ……』


 先ほどのゴブハルトと同じように、ゴブリーナからも、黒い湯気のようなものが、モワモワと立ち上っている。

 しかし、ゴブハルトの時とは違い、その湯気は、ゴブリーナの体内に吸い込まれることなく、どんどんと湧き出し続けていた。


『ゴギャアアアアアアアアア!』


 ゴブリーナの絶叫に、僕たちは、思わず両手で耳を塞いだ。

 しかし、その叫び声と同時に、湧き上がっていた湯気が、ゴブリーナの隣で、一つの大きな塊を形成し始めた。


「今度は、一体、何が始まるんだ!?」

「分かりませんよ! 僕だって、こんなこと、初めてなんですから!」

「だ、大丈夫なのでしょうか……?」


 僕たちが見つめる先で、どんどんと黒い湯気が形を変え、塊が、更にその形状を変化させていく。


「あれは……足、か?」

「今、生えてきたのは……手、でしょうか?」


 楕円形だった塊は、徐々に、その形を人型へと変えていく。

 いや、それは、人ではない。


「ゴブリン……?」

「まさか、分裂した、とでも言うのか……?」


 やがて、黒い塊が、その変化を止めると、そこには、隣に立つゴブリーナと瓜二つのゴブリンが姿を現した。

 ただし、肌の色が濃い緑色のゴブリーナとは違い、分裂した方のゴブリンは、真っ黒な肌をしている。


「エイルくん、二匹を鑑定してみて」

「あ、そうですね。忘れてました」


 僕は、慌てつつ、まずはゴブハルトを鑑定してみることにした。


 *********


 名前 :ゴブハルト

 種族 :ハイゴブリン亜種

 クラス:ゴブリンオーガ

 体力 :210/210

 魔力 :45/45


 *********


 凄い。

 体力も、魔力も、一気に倍近くまで上昇している。

 僕の低い鑑定レベルでは、詳細までは分からないが、見た目だけでも、その力が、格段に強くなっていることは明らかだった。

 ギルドマスターが、「まるでオーガだ」と言った通り、クラスも【ゴブリンオーガ】に変わっていた。

 元から、そういう名前のクラスがあったのか、それとも、ギルドマスターの言葉を聞いた僕が、勝手に作り上げたものなのか、それは分からない。

 しかし、ゴブリンなのにオーガ、というのは、何ともおかしな話だ。


「次は、ゴブリーナ、か」


 *********


 名前 :ゴブリーナ

 種族 :ハイゴブリン

 クラス:ゴブリンメイジ

 体力 :64/64

 魔力 :128/128


 *********


 こっちは、特に変わっていない。

 ゴブハルトがあれだけ劇的に進化したのに、一体、どういうことだろう。

 僕は、そう思いつつ、隣に立つ、ブラックゴブリンを鑑定してみる。


 *********


 名前 :ゴブシェラ

 種族 :ハイゴブリン:亜種

 クラス:ゴブリンメイジ

 体力 :64/64

 魔力 :128/128


 *********


 名前と、種族の『亜種』という表記を除けば、見える範囲のステータスは、ゴブリーナと全く同じである。


 つまり、ゴブリーナは、魔石を食べたが、進化はせず、代わりに、自らと同じ能力を持った分身を産み出した、ということだろうか。

 僕は、【ゴブリンテイマー】というスキルのことを、まだ、全然理解していなかったのだ、ということを、この時、改めて思い知らされたのだった。

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