第10話 ゴブリンテイマー、魔物の育て方を知る
「しかしこのステータスの一番肝心な所はそこではない。使役魔力の消費量の異常な低さ、それだ」
ステータス表示を指差した後、もう一度腕組みをして唸り声を上げたギルドマスターは、ふっと力を抜き言葉を続けた。
「まったく……使役魔力の消費量が1以下などというのは初めて見たぞ」
ギルドマスターが言うには、通常の【テイマー】スキルを持つ者がゴブリンをテイムした場合、最低でも魔力を5は消費するという。
それが僕の場合はわずか0.4しか消費していない。
つまり単純計算で通常の【テイマー】に比べてはるかに低い魔力消費量で、僕は使役した魔物を維持できるということだ。
ただしゴブリンに限るという話ではあるが。
「お前さんが大量のゴブリンを使役できている理由はこれだな」
「ですね。僕も初めて知りました」
あと、【身体強化】と【号令伝達】、か。
【気配察知】は僕自身ではなく、ゴブリンたちの能力だろう。
「お前さん、ゴブリンたちとこの街に来る前に特訓をしてきたとか言っておったな」
「ええ。村からここに来るまでの途中で色々ありまして……。しばらくの間森の中で暮らしていたんですが、そこで、特訓をしていました」
一体どんな特訓をすればゴブリンが魔法を使えるようになるまで成長するのだ、と、ギルドマスターは呆れたような声を出す。
そのことについて僕が答えようと口を開きかけた、その時。
「いやそれ以上詳しく聞くつもりはない」
「別に隠すようなことは何もないですけど……」
「それでもだ。あまり自分の手の内をべらべらと喋るものではない」
つい先ほど鑑定魔道具でスキルを調べさせた人物の言うことではないような気がする。
僕がそう思っていることを察したのか、ギルドマスターも隣に立つルーリさんも少しばかり気まずそうな表情を浮かべた。
「いや、すまなかったな。本来ならば鑑定魔道具などを使う前に忠告しておくべきだった」
「いえ、そんな……。別に気にしていませんよ」
それから僕はギルドマスターから今回の事件の報酬とは別にギルド側の不手際の詫びとして、『魔石』を貰うことになった。
魔石とは強力な魔獣の心臓部分に形成される魔力の結晶体で、主に魔道具や武器防具に属性魔法を付与する際の触媒として使われるらしい。
「本当に、いいんですか?」
「ああ、構わん。今回は我々ギルドの管理不行き届きだった。本当にすまなかったと思っている」
「でもこの魔石ってかなり高価なものなんでしょう?」
僕は机の上に並べられた魔石の一つを摘み上げる。
光にかざす、キラキラと七色に輝くそれは、鉱石でありながら内部で魔力が渦巻いているのが見て取れた。
一つの大きさは僕の親指ほどだがそれが二つ。
「この大きさの魔石だと、一個あたりルーリの給料の数ヶ月分、といったところだな」
「ちょっとギルドマスター! そんな生々しい説明の仕方はやめてください!」
ギルドマスターの言葉にルーリさんがあからさまに頬を膨らませて抗議する。
可愛い。
「つまりこれだけでルーリさんの給料の何ヶ月分にもなる、ということですか? そんな高価なもの貰えませんよ」
僕は慌てて手にしていた魔石を机の上に置き、ギルドマスターの方へと押し返す。
しかしそれは即座にまた僕の前に押し戻されてしまった。
「いや受け取ってくれねばこちらが困る。今回はギルドとしてあってはならない事態だ。それに対する詫びを、安物で済ませるわけにはいかんのだよ」
分かってくれと、ギルドマスターは少しだけ頭を下げた。
「エイルくん、私からもお願いします」
ルーリさんも両手を合わせて、祈るようにそう言った。
可愛い。
「そうですか……。それでは遠慮なく頂きますが……これ、そのまま換金してもらう、というわけにはいきませんかね?」
今のところすぐに強化したい武器や防具があるわけではない僕にとっては、魔石よりもお金の方がありがたかったりする。
しかし、その言葉にギルドマスターもルーリさんも何とも微妙な表情を浮かべるばかり。
「お前さんまさかとは思うが……」
「はい?」
「【テイマー】が、魔物を強化する方法、とか……基本的なことを知らないのか?」
魔物を強化?
それって一体どういうことだろう。
ゴブハルトたちの場合、一緒に森の中で他の魔物や動物と戦ったり、素振りなどの特訓をしたりして強くなった。
それ以外の方法があるということだろうか?
「特訓以外に魔物を強くする方法があるんですか?」
「ある。というか普通の【テイマー】は、魔物を『特訓』なんてさせない」
「そんな……。特訓させずにどうやって魔物を強くすることができると言うんですか?」
僕はギルドマスターが冗談を言っているのかと思った。
しかしその真剣な眼差しを見て、とりあえず話を聞いてみることにした。
「通常の【テイマー】がテイムした魔物というのは、この魔石を喰らうことで強くなるのだよ」
「これをですか?」
「ああ。ある程度の強さを持つ魔物からは魔石が採取できる。だから普通の【テイマー】スキルを持つ冒険者は、パーティを組んで魔石狩りに出かけ、魔物を強化するのだ」
ギルドマスターに言われて僕は思い出す。
そうだ。ゴブハルトたちも魔物を倒した後、何かを食べていたことがあった。
てっきり倒した魔物の肉を食べているのだと思っていたが、普通の動物を倒した時にはそのような仕草をしているのを見た記憶がない。
あれは倒した魔物の魔石を、ゴブハルトたちが食べていたということか。
「じゃあこの魔石も、換金するよりゴブリンたちに与えた方がいいってことですかね?」
「普通の【テイマー】ならそうするだろうな。だがお前さんの場合は正直、俺にもよく分からん」
「【特殊スキル】だから、ですね」
「ああ。今でさえ魔法を使えるゴブリンなどという信じられないような成長をしているのだ。この魔石を与えたら、一体どうなることか……」
そう口にするギルドマスター。
「それじゃあ、早速、試してみます?」
「ここでか?」
「ええ。ここなら、その鑑定魔道具でゴブハルトたちの変化も分かると思うんですよね」
「しかし、この魔道具は魔物用ではないぞ」
ギルドマスターが言うにはこの鑑定魔道具では、魔物のステータスは上手くチェックできないらしい。
使役魔物のステータスを確認するには、使役している【テイマー】本人の自己申告に頼ることになるという。
王都や大きな街のギルドの場合は、職員に【鑑定スキル】持ちを雇っている場合もあるらしいが、ほとんどのギルドではそういった人材はいないため自己申告に頼らざるを得ないとのことだ。
「それじゃあ、まず僕がステータスをチェックして、その後魔石を与えてからもう一度チェックするという形でいいですかね?」
「それで構わない。だが一つだけ言っておく」
「何でしょうか?」
「魔石を与えた結果、ゴブリンが進化するようなことがあっても、俺たちに正直にそのことを教える必要はない」
「どうして――」
「さっきも言っただろう。自分のステータスや使役魔物の能力は、本来むやみやたらと人に教えるものではない」




