九十二、思い付くけど、作れないから丸投げ。
「こえ、あーうえ。こっち、ちーうえ。んで、こえ、かぁにいに、くぅにいに、いぃにいに!」
明日、いよいよマグレイン王国へ帰るとなって、ぼくは用意した・・カルヴィンとカシムに買ってもらった、みんなへのお土産を広げて確認する。
ぼくが選んだそのお土産は、ビー玉のように、色が入った硝子玉。
「みた、けちき。あげたかったな」
このビー玉もどきもきれいだけれど、一番あげたかったのは、ぼくが見た空や海、そして砂漠の景色。
それを、映像や写真に残せれば、話をする時にも分かってもらいやすいし、思い出を共有してもらえる気がする。
「景色をあげる?ジェイ、それってどういうこと?」
「あ。ヴィも、ら」
隣で、ぼくと一緒に荷物の確認をしてくれているカルヴィンに、不思議そうに言われて、ぼくは、そうだと思い出した。
「俺も?なにが?」
「んと。じぇいみぃ、たくしゃん、けちき、みた、かりゃ。そえ、いっちょ、みゆ」
ぼくが見た、たくさんの景色を共有したいのだと言えば、カルヴィンが、少し切なそうに眉を寄せる。
「ジェイが、たくさんの景色を見ることになった原因を思うと辛いけど。確かに、ジェイが見た景色を、俺も見たいと思うよ。今は、一緒に見られないけど、今度は一緒に行こう」
「う!」
それは大歓迎だと両手を挙げてから、ぼくは、今ぼくが言いたかったことは、伝わっていないと実感した。
だって、そうじゃなければ、今度は一緒になんて発想にはならないと思うから。
「あにょね、ヴぃ。いっちょ、ちあう、けろ、いっちょ、みゆ。んと、きおく」
記録したものを、後で一緒に見たかったという意味だと改めて言うも、カルヴィンはうんうん頷いて、見当違いのことを言う。
「そうだね。今回は一緒じゃなかったけど、次は絶対一緒に、ジェイの記憶通りの場所に、行こうね」
「きおく、ちあう!きお・・きりょく!」
「気力?精神力のこと?」
「うぇええええ!」
ぼくよ!
この舌足らずをなんとかしろ!
今すぐに!
「ジェイ!落ち着いて。何が言いたいんだ?」
思わず、ぜーはーと息を荒らげたぼくを、カルヴィンが慌てて抱きかかえた。
すまん、カルヴィン。
取り乱した。
「んとね。けちき、みゆ。ぱしゃっ、えいじょう、のこしゅ!」
言った瞬間、これだと思った。
そうだよ、映像って言えばよかったんだ!
「映像?」
だけど、カルヴィンにはその映像という言葉が通じなかった。
無念。
「う。みた、けちき、えいじょう、きりょく・・んと、のこしゅ」
それでも、諦め切れないぼくは、何とか伝われと、カルヴィンに訴え続ける。
「・・・・見た景色の映像、気力、残す・・ああ!もしかして、きりょくは、気力じゃなくて、記憶って言っているのか?」
「う!しょう!」
やっと通じたことが嬉しくて、ぼくは、カルヴィンの膝でぴょんぴょん跳ねる。
おお。
カルヴィン、ぼくが殴っても蹴っても、うまく受け止めるようになったな。
凄い。
「見た景色を記録に残す、か。確かに、そういったことが出来れば、実際には一緒に行っていなくても、ジェイが見た景色を見られるね」
嬉しそうに片手でぼくを支え、片手でぼくのパンチを受け止めながら言うカルヴィンに、ぼくは満面の笑みを浮かべた。
「しょれに、いっちょ、みた、けちき。おもいで、おはなし、できゆ!」
「っ!そうだね!ジェイと見た景色を映像に残したら、後で一緒に思い出話が出来るね。それに、可愛いジェイの姿を残すことも出来る」
「ヴぃも!」
カルヴィンは、何かとぼくを中心に考えるけど、ぼくとしては、今のカルヴィンの姿も取っておきたい。
「うん。なるべく早く作ろう。頑張るからね」
「う!まってゆ!」
これぞ、必殺丸投げ。
だけど、ぼくには到底作れない代物だから。
カルヴィン。
よろしく頼む。
ありがとうございます。