十三
屋敷の廊下を、男が三次郎を、女がお民をひきずっている。
「あれ、三次郎の部屋じゃないの」
男が行く方を見て、お末が言った。
「大きな部屋より小さな部屋のほうが秘め事らしい感じがでる。お民の部屋のほうがよかろう」
「ああ、そういうこと」
お民に与えている小座敷の襖をあけ、男が三次郎をひきずってなかに入る。と、尻が壁でないなにかに突き当たった。
驚いて振り返ると、そのなにかが口をきいた。
「なるほど、若旦那と仲働きを心中に見せかけてやっちまおうと、そういう魂胆ですね」
人だ。後ずさりで進んでいたからわからなかったのだ。いや、暗いのでふつうに入っても見えなかっただろう。
「誰だ」
かちかちと音がして、行灯に火がついた。灯りに照らされて、仙衛門は顔をしかめた。
「あっしです。昨日お訪ねしたもんで」
昨日の御用聞きが、自分の顔に灯りを近づけてみせた。「さあ、そんな物騒なもんはご主人には似合わねえ。渡してくだせえ」
仙衛門は懐から匕首を出していたが、素直に色吉に手渡した。
仙衛門、お末の夫妻と色吉は、お末の座敷で向かいあっていた。三次郎とお民はよく眠っていたのでそれぞれの部屋に寝かせた。
「なにから聞かしてもらいやしょうか」
色吉は腕を組んだ。「そう、あんたがたはほんとの夫婦じゃあないんでしょう」
「すっかりお調べもついているようですな」
冨急当主の言に、色吉はうなずいた。
「ならばわざわざ聞かなくてもよいのではないですかな」
「どういたしやして、ぽつりぽつりとしかわからねえことばかりで、後学のためにもやはりご本人の口から聞いときてえんで」
仙衛門にしても、どこか吐き出したい思いはあったのだろう。ひとつうなずいて、話しはじめた。




