十一
夜、八丁堀から自分の長屋に寝に帰る途中で太助の長屋に寄ってみると、今日も太助はいた。色吉は感心するよりもいささか心配になった。
「あんた、金に困ってるのか?」
「いいや。なんで?」
「ちかごろ博打にいってないようじゃねえか」
「てやんでえ、金に困ってたら増やしにいくぜ」
なるほど博打打ちの発想はそうなるのか、と色吉は違うところに感心した。
「それはさておき、どうだった?」
「おう、冨急のいまの当主の出元なんだが、浅草の玉国屋って、やっぱり商売をやってたところだが、十年以上まえに廃業したってことだ」
玉国屋は料亭だった。仙衛門はそこの次男で若いころは玉国屋次郎と名乗っていた。板前として店の手伝いをしていたが、跡継ぎは兄の太郎と決まっていたということもあり、三十近くになったときに縁があって富久屋に婿入りした。料理屋からふともの屋とずいぶんと畑違いなので心配する向きもあったが、仙衛門を襲名した次郎は実に器用に算盤勘定などもこなし、店の舵取りは堅実だった。
「当代の仙衛門が婿入りしたころにゃあ玉国屋は大いに繁盛、富久屋は潰れかけ、ってほどだったらしいが、そっから三十有余年、見事に逆転したってとこだな」
「玉国屋太郎はどうなった?」
「体を壊して店をたたんで、わりとすぐに亡くなったつうことだ。女房も前後して亡くなったと。娘が一人いたらしいが、同じころ行方知れずになったとよ」
太助の話が終わると、色吉は昼間の冨急での一件を話した。
「昨日の話を確かめただけで、たいした収穫はなかったつうことだな」
太助が言った。
「まあ、続きを聞いてくれ。その足で平六とお貞を診た医者にあたってみたんだが、平六は卒中、お貞は頭の打ちどころが悪くて、という見立てだった」
「お貞は自死ってことでいいのか」
「そこまでは医者にはわからねえ、ってことだが、わざわざ高いとこに昇って落ちたんだからそうなんだろう、とも言ってた」
「そうか。じゃ、冨急にゃかくべつ怪しいところはねえな。そのお富って女中の思いすごしじゃあねえか?」
「お民、な。ところが近所で医者の評判を聞きまわったら、これが評判の藪だってことだ」
「ほう」
「しかも冨急の――というかお末のだが――かかりつけは他にいて、名医の評判だが、これは八丁堀に住んでる。夕方訪ねて、なぜ平六やお貞を診なかったのか訊いてみたが、呼ばれなかったからだと言ってた。まだ助かるかもしれないから近場の医者を呼んだのだろう、と推測してた」
「いちおう筋は通ってるじゃねえか」
「だがよ、実は近所にはもう一軒医者があって、こっちは評判がいいんだ。なぜわざわざ藪のほうを選んだのか」
「そりゃおめえ、評判がいいなら患者がいっぱいだろうからひまがなかったんだろう」
「うーん」
色吉は腕を組んだ。「そうだよな。筋は通ってるな」
実は色吉もそう考えており、さらには歩兵衛も同じことを言った。。なにか違う考えが聞けるかもしれないと思い話してみたが、そううまくはいかない。




