表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色吉捕物帖  作者: 真蛸
冨急事件
52/59

 初夏の日が長いとはいえ、もう暮れていたので色吉はお民を冨急の見えるところまで送った。

 その足で神田下白壁町を訪ねると、太助は自分の長屋にいた。手下の卒太と根吉もいっしょだった。感心なことにこのところあまり賭場には顔を出していないようだ。

「ふうん、それでおめえはどう思ってんだ。ほんとになんだか怪しいのか」

 たったいま聞いた事情を話すと、太助が言った。

「ああ」

 色吉はうなずいた。「宇井野の旦那とあの、なんだ、その、馬道の親分が土蔵に入ったとき、当主仙衛門に外から鍵を開けさせただろう」

「ふうむ……」

 太助が腕を組んだ。「そうだったっけ?」

「あんた、ひとの話を聞いてたかい」

「そんな細けえこといちいち覚えてねえよ」

「まあいいや、で、そうなるとだな、お貞が倉に入り込んで飛び降りたとしたら、いってえ誰が鍵を閉めたんだ?」

「さあ、知らねえな。誰なんだ?」

「いやおれだって知らねえ、問題はそこじゃねえ。宇井野の旦那の見立てどおりお貞の自害だとすると、土蔵に鍵がかかってるのはおかしいだろ?」

「どういうことでい」

「もしお貞が土蔵の窓から落ちたとしたら、お貞が土蔵に入ったあとで鍵をかけたやつがいるってことだ。ひょっとするとそいつが突き落としたのかもしれねえ。もひとつ考えられるのは、鍵はずっとかかっていた、ってことだ。お貞は他の場所で死んでたのを運んできて、窓から落ちたようにみせかけた、ってことだ」

「ふうむ、なるほど。そのお富って女中はそれについてなにか言ってたか?」

「お民、な。いや、娘にはこのことは話してねえ」

「なんで」

「余計に怖がらせることになっちまう。あまりびくびくしすぎるのもよくねえ」

「なるほど……それで、おいらにそんな話を聞かせる、つうことは、その冨急について探れっつうことか」

「さすが太助親分、話が早え。だが冨急のほうはおれがやる。あんたには他を当たってもらいてえ」

 色吉は頼みを伝えた。

「いろいろ忙しいのにすまねえ。あんたらも、頼んだぜ」

 言いながら卒太と根吉に目をやると、二人ともこっくりこっくりと舟をこいでいた。

「妙に静かだと思ったら」

 と、太助に目を戻すと、こちらももう舟をこいでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ