十一
「操り人形は、久貫様のところで預かることになったそうです。最初、楢藤様が自分のところで預かると言ったんですが、中間三人が気味悪がって反対したそうで。本当なら一喝して終わりなんでしょうが、なにしろしつこかったらしく、とうとう楢藤様も根負けしたとか」
つぎの晩、その昼間に方々で聞き及んできたことを、例によって色吉が歩兵衛に報告していた。発条を巻いてすっかり調子の戻った多大有も部屋の隅に座っている。
「そうか。で、辻斬りの人形は、その小屋で見たものと同じなのだな?」
「へい、その通りで。あっしが舞台で検分したときは、操り糸を素早くはずしやがったようで、辻斬りの人形を久貫様が調べたところ、腕を引っ張ると糸を付けたダボが一気にはずれる工夫がしてあったそうです。操り師はやっぱり玉太郎、玉次郎の兄弟で、世間を騒がし、死人は出てないものの怪我人は出てるってんで、まあ死罪でやしょう」
「ふむ」
「んで、辻斬り人形のことですが、両国の例の操り人形の小屋にいって木戸番やってた権造って野郎に訊いてきやした。どうやってたかは見たことがないが、二人がかりで操ってたことはたしかなようで。昨日の人形も、右ひだりの塀の上からでも二人で操ってたと考えりゃ、辻斬りが刀を左右に持ち換えたってえ話も、本当は持ち換えたわけじゃなく、両側から操ってたもんで、振り返らせられないから、前うしろなしに動かしてた、と。それで、それを知らねえで見ると持ち換えたように見えたってことのようで、まあこれはあっしの考えですが」
「なるほど」
「でも初めに玉太郎、玉次郎の兄弟操り師に目ぇつけたのは、旦那なんでやすが」色吉は羽生を横目で見る。「旦那はどっからあいつらが怪しいと思ったんですかねぇ」
「ふむ、奴は一度見たこと、聞いたことは忘れんからな。見廻りでの見聞と、わしらの話を合わせたのだろう」
今度は色吉の方がなるほどと言う番だった。本人に聞けば早いのだろうが、どうせ答えないだろうことは二人ともわかっている。
ちょっとの沈黙ののち、色吉が思い出したように言った。
「あ、そうだ。例の浪人の奥州左馬之介さんですが、久貫様のところへお召し抱えになったそうです」
「ほう、それは良かった。それでこの件はめでたしめでたし、といったところかの」
色吉もうなずいて、振り返って羽生を見た。能面のような、ではなくまさに能面そのものの白磁の顔をうつむき加減にしてじっと座っているその姿は、もう慣れたはずの色吉にもちょっと怖い。
羽生多大有が立ちあがり、部屋を出ていった。それを機に、色吉も暇を告げた。
〈了〉




