十
屋敷町の番太郎がうとうととしていると、若い男が番小屋に飛び込んできた。
「やあ、あっしは、さっきもご挨拶しましたが、御用聞きの色吉って者なんだが、お侍が見事、辻斬りをとっ捕まえましたぜ」
なるほど縄張り違いだが調べたいことがあるので町内をうろつくと挨拶に来た見覚えのある男だった。色吉と名乗るその男についていくと、百人町通りの真ん中に、七人もの人間が倒れていた。三人のかたまりと、少し離れたところにまた三人のかたまりと、その近くに一人だった。色吉は一人が倒れている近くの三人のかたまりのところに番太郎を案内した。
「辻斬りはこれこの通り、操り人形でした」
と、そこに転がっていた人間と見えた物を抱き起こしながら色吉が言う。近寄ってみるとたしかに人形だった。ひじや手首、肩などから細い糸が出ているのが、色吉に導かれての手探りでわかった。
「この二人が操り師でやす」
その側に背中合わせに縛られている二人を指した。
それから倒れている浪人者らしい武士を示して、
「こちらのお侍が操り糸をお切りなすったうえ、この操り師をとっ捕まえなすったんで。ただ、ご本人ももともと怪我をされてたのを無理したんで、そこで気を失っちまったようでした。で、見ていたあっしが僭越ながらふん縛らせていただきやした」
「ふうむ。それで、あそこに何人か転がっているのは斬られた者か」
「左様です。楢藤様のところの中間で、ただ、ついさっきまで騒いでやしたから死んじゃあいないでしょう」
と言って色吉は倒れている三人の方に駆けていった。
「やい折助ども、いつまで死んだ振りをしてやがる。とっとと起きて家の者を呼びにいけ」
三人を順繰りに蹴とばして廻ると、本当に死んだ振りで様子をうかがっていたらしく、三人はあっさり起きあがった。
「ぬおぉ、こやつ」
「何も蹴ることはなかろう」
「覚えておれよ」
と口では勇ましいことを言いながらも、強く出られると弱いのかおとなしく自分たちの屋敷のほうへ引きあげていった。
色吉も戻ってくると、「あっしも久貫様んとこに人を呼びに行きやす」と言って駆けていった。
しばらくして屋敷の者たちの他に野次馬なども出てきて、夜中だというのに妙ににぎやかになった。操り人形の辻斬りを捕らえたという浪人は久貫様のところの者が引き取っていった。操り人形は、久貫様の当主が直々に調べて、感心しきり、というところだった。
「ほう、これは、大したものだ」
番太郎は、最初に急を知らせた色吉という小者がいないことに気がついたが、縄張り違いなのでもう遠慮したのだろうと、特に気にも留めなかった。色吉から聞いた話を自分の話のように楢藤様や久貫様に伝えると、もう色吉のことなどそのような者がいたことすら忘れてしまった。




