第一話 ブラック企業の朝
ーーカタカタカタカタ
薄暗いオフィスにキーボード音が響く。
今日も泊まりだなーー。
俺、竹本 剛は、毎月恒例の月末月初の閉め作業に追われていた。
時間を確認すると、4時。もちろん午前。
デスクワークで固まった体を伸ばしながら、椅子から立ち上がる。
今日は、ここまでにしよう。
普段から持ち歩いている寝袋を鞄から取り出し、オフィスの隅に敷く。
アラームをかけようとスマホを見ると、画面がつかない。バッテリー切れのようだ。
仕方ない。
あの作戦で行くかーー
付近にある椅子を4脚並べ、その上に寝袋を敷き直す。
そう。
ドキドキ・ハラハラ仮眠タイムだ。
こうしておけば、寝返りを打つたびに目が覚める。朝日がよく当たるここなら、寝過ごす心配もない。
最後に寝袋にしっかりと朝日が当たるようブラインドを開けてから、寝袋に潜り込む。
さすがに3泊目となると、自宅に着替えなどを取りに帰りたくなる。
明日は…あ、もう今日か…
今日は、一度家に帰るかーー
そんなことを考えながら眠りについた。
ーーーーまぶしい…
想定通り、起きることができたようだ。
アラームを設定できれば、快適な床で寝られたのにな…
いや、会社の電気を私物に使うなんて横領だ。
やっぱり今日は、終電までに帰るようにしよう。
そう心に決め、給湯室へ移動した。
お湯を沸かし、常備しているカップ麺とインスタントコーヒーを準備する。
準備した朝食セットを持ち、自席へ戻る。
パソコンを開き、数時間前にしていた作業の確認をしながら、朝食をとる。
食べ終わったら、身支度だ。
鞄から歯ブラシやカミソリ、櫛などを取り出しトイレへ向かう。
身支度が終われば、寝床に使っていた椅子や寝袋を片付けていく。
女性社員が使っている椅子は避けていたが、念のため、使った椅子には無香料の消臭剤をかけておく。
「さっ!今日も頑張りますかっ!」
誰もいないオフィスに、竹本の声が飲み込まれていった。
ーーーーカタカタ、カチッ、カチカチッ
黙々と作業をしている手をとめ、ふと時間を確認した。
『8時55分』
あと5分で始業だ。
いつもなら、少なくても数人はオフィスにいるはずなのに…
リモートワーカー達め…
今日は、オフィスに俺1人か…
電話番もいないし、問い合わせが少なければいいが…
遅れて誰かが出社してくることを祈りながら、また業務に戻る。
ーーーー
領収書の内容確認をしていると、明らかに私物だろう“アイス”の文字が出てきた。
念のため、記載されている商品名を検索する。
が、何故かネットがつながらない。
くそっ、この忙しい日に限って、サーバーエラーか!?
しかたない。領収書を提出した本人に連絡するか。
お手製の社員情報リストを開き、申請者の名前を探す。
…お、いたいた。
リストに記録しておいた過去のミスを確認する。入社後3年間でミスは10件未満か。私物を申請しようとした過去も…無し。
ということは、これは経費の可能性が高いな。
いや、3年目の誘惑というものもあるかもしれない。しっかり聞き取りをしないと。リストに記載している番号へ電話をかける。
ーーーープッ、プープープー。
おかしい…。
電話番号はあっているはずなのに、繋がらない。
まさか…
今日一日休むつもりじゃないだろうな。
申請書類をプリントアウトし、領収書とともにファイルへまとめる。
念のため、部長へ連絡が付かない社員がいる旨をまとめたメールを送信する。
が…エラーで戻ってきた。
そうだ…ネットがつながらないんだった…。
時間を確認すると、ちょうど正午になっていた。
仕方ない。ネットもつながらないし休憩にするか。
パソコンの画面を閉じ、給湯室へ移動する。
カップ麺を常備している棚を見ると空になっていた。
そうだ…今朝食べたものが最後だったんだ。買い出しに行くかー。
3日ぶりに、オフィスの外に出た。
昼時のオフィス街は、どこも昼食を求めたサラリーマンで溢れている…
はずが、今日はやけに人が少ない。
なんだ…?
みんな長期休暇か…。羨ましい限りだ…。
オフィス最寄りのコンビニへ入る。
そこは、見慣れたはずの店内では無くなっていたーー




