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スイーツ巡りのぶらり道中  作者: das
幕間短編
20/36

関雲長、街中にてナンパにチャレンジし、ユーリン、ムシャクシャして不埒な憂さ晴らしに興じる (前)

「別に。怒ってないよ」


いかにもそれが嘘であると明らかなように、ユーリンはわざとらしいむくれ顔を不機嫌で膨らませながら、言った。どさり、と荒々しい音を立てて椅子に座る。


旅路の途中で寄った街でいつものように宿を取り、2人で街中を散策して帰ってきてから、いきなり関羽が部屋の床に膝を着いて、


「頼む! 儂に『なんぱ』の極意を伝授してくれ!」


とユーリンに平伏して懇願したためである。

関羽の頭が下がるほどに、ユーリンの苛立ちは昂った。度し難い不始末を叱責するように、ユーリンは号令する。


「キミさぁ。……起立!」


関羽は立ち上がり、直立不動の姿勢をとった。人に好かれる、良好な関係を構築する、という関羽の抱く評価について、ユーリンは指導者としての立場である。


椅子に座ったユーリンは関羽を遥かに見上げる格好となるが、空色の瞳から放出される圧力が、その上下関係を逆さまにする。ユーリンは雰囲気だけで関羽の巨躯を抑えつけた。


関羽をにらみつけるユーリンが、椅子に座ったまま、語る。


「順番にいくね。まずそもそも正妻であるボクに浮気の教えを請うもんじゃないよ。そういうのはバレないように進めて、ある日ふいに発覚して修羅場になるから盛りあがるんじゃん? ボクの悲劇的なメッタ刺しチャンスをどうしてくれるのさ。一度やってみたかったんだよね。いまから練習しとく?」


順手に刃物を握った構えで肘を曲げ伸ばしし、ユーリンは関羽の腹部に狙いをつけた。ユーリンのとぼしい膂力で関羽の装甲のごとき鋼鉄の筋肉を切り裂けるはずがないという物理的な制約には目をつむり、ユーリンは目をつむってイメージトレーニングに励む。しかしすぐにその妄想があまりおもしろいものではないと気づき、現実に返ってきた。


「そして、キミ、ナンパをしたとして……最終的にどうしたいのさ。一夜の愛が欲しいのかい? ……だったらボクでいいじゃん!? 後腐れないよ、約束する、ホントだよ」


詐術の達人たるユーリンであるが、後腐れの権化のような性格を隠そうともせず、されど純愛に身を焦がす清らかで無垢な乙女っぽい素振りで椅子から立ち上がり、関羽の胸に顔を寄せた。空色の瞳に情熱を込め、思慕の眼差しで関羽を見上げる。


「ボク、ウンチョーに迷惑かけないから。思い出が欲しいだけなんだ。ボクの募る想いを受け止めてくれないかい」


「……最終的に如何なる展開にするつもりか、(くわだ)てを述べよ」


「そりゃあもちろん……初めは嫌がるキミを組み敷いて、でも身体だけ先に正直者になってもらって、そして戸惑いのまま初めての夜を終えて、それでも上のお口は素直になれなず、かたくなな態度を崩さないままのキミだけど、一線を越えたあとも意外と素っ気ない感じのボクの態度に面食らいつつ、何気ないボクの仕草に目を奪われる曖昧な時を送りながら、たまに誘惑に抗えず流されることを繰り返し、次第にボクにどっぷり溺れていくキミの様を、イイコイイコしながらボクが堪能したい」


垂れ流した妄想の甘露をすすり、ユーリンは口元を柔らかくした。恥じらいに似た、けれども全く異なる得体の知れない何かの瘴気を(あらわ)にして身をよじる。


関羽としては容認しがたい筋書きであった。


「悪夢であるな」


「そう? とりあえず一発ぬいてから考えてみない? 冷静になってみようよ。キミは何もしなくていい、悦楽だけは保証する……そんで、どこの(スケ)に目をつけたのさ? 手当たり次第に誰でも、なんてのたまうキミじゃないだろ」


転生後の余生こそは女子(おなご)にモテたいという関羽の至って健全な願望を、「まぁ、そういう(さが)だもんね。正妻の貫禄の見せどころでしょ」と受容しているユーリンである。理解ある正妻さんとしての気構えは十分であった。それでも言動が下劣なのは、性根に基づく標準仕様である。


「街中の通りを散策していた折、女主人が切り盛りしていた焼き菓子屋があったであろう。あの店主殿だ」


「……あー、あの、甘い豆を練って包んで焼いたヤツ。……オーバンていったっけ? あれさ、以前他の街で食べたイマガワと何が違うのさ」


「あの店主殿の……気品のある顔立ち、可憐な仕草、立ち振舞……思わず見惚れてしまった」


死後の転生によって青年期の肉体に蘇った関羽であるが、前世は老境に差し掛かる年齢まで人生を積み上げている。異性への感情の暴露に臆病なところはまるでない。若輩者が仲間内で振るうような蛮勇に頼らずとも、己の内に起こった恋心を認めることができた。

関羽の堂々たる思慕の開陳をユーリンは微妙な顔で受け止め、ユーリンとしては最大限に誠実な共感を示す。


「あー、えー、覚えてるよ。たしか、顔には目がついてて、手が2本あった。あとは……髪の毛も生えてた気がする、100本くらいは」


「……そうさな。ついでに申すと、服も着ておった。さらに顔には鼻と口も付いていた」


「すごい、ウンチョー、よく覚えてるね」


関羽がここで会話を放り出さなかったのは、関羽がユーリンの助けを求める立場であったことと、この程度の会話は日常茶飯事であったためである。話を本題に向けた。


「先客としてたむろしていた娘っ子たちにそなたが声をかけて、余勢をかって街案内をさせたであろう。あの娘っ子たちは店主殿のことを『テレーサさん』と呼んでおったな」


「ありゃ連中がボクの方みてキャッキャやかましかったから、黙らせようとしただけさ」


「げに見事な手際であると儂はそなたに感服した。将たるものは戦場の趨勢に機敏でなくてはならぬが、娘っ子たちをあやしつつ会話の勢いを巧みに操り、怒涛の流れのままの老練な手管でいともたやすく連れ出してしまったな。あの技法を会得したいのだ」


「旅用品を補給したかっただけで、話の流れで地元民に街のことを尋ねはしたけど、ありゃ連中が勝手についてきたんじゃないか……てかボク、キミとのデート邪魔されてた!? 迂闊だったな。……それで、そのオバサンをどうしたいんだい? 手籠めにするならボクの助けはいらないだろ。行為の前にインタビューとかする係かい? 好みの体位とかヒアリングする?」


とりあえずユーリンは、関羽が懸想している女店主殿とやらを妙齢プラスアルファちょいの年齢であると無断で決めつけた。全くユーリンの記憶にその姿は残されていないため、純粋なただの偏見である。


ユーリンの偏見は聞き流し、関羽は厳粛な面持ちである。それは国家の命運の帰趨を決める戦場を担う大将軍の貫禄であった。


「この(たぎ)る想いの丈を申し伝えようかと」


「やめんか、この短絡短小バカ粗チンが」


関羽の潔い決心は、ユーリンの安直な罵倒によってへし折られた。


「ぬぅ、なにゆえ」


「あのねぇ。キミ、背丈は?」


「ぬ? およそ9尺(約2m)」


「片手で何キロまで持てる?」


「ふむ? あえて測ったことはないが、82斤(約18kg)の薙刀なれば軽々と振れる。持つだけならその10倍くらいはきっと」


「はい、ウンチョー、アウトー。おしまいね、この話」


「なにゆえー!?」


「女からするとキミは恐怖の化身だ。ビスケットつまむような感覚で指先にひっかけて女をさらえる腕力の分際で、親しくもない女に想いを伝えちゃダメ。反則。マナー違反。……女の性悪(しょうわる)度合いにもよるけどね、聞き様によっては『おれの言うとおりにしろ、逆らうなら(かどわ)かす』て脅してるようにもみえる。まる。……ついでに言うと、正妻たるボクに女の魅力を語るのも倫理落第。気分次第じゃホントに刺すよ? ボク、悲劇のヒロインやってみたい」


「んなー? 儂、終生、(おなご)に暴力したことはないんじゃが!?」


「そりゃボクはキミをよく知ってるからさ、そうだと信じてるよ。……だからさ、それを相手の(メス)も知るまではキミの想いは外に出しちゃダメだ。これは意思じゃなくて能力の問題だよ。キミはこの街の衛兵全軍を蹴散らして(ソイツ)とニャンゴロ決め込める(ちから)がある。腕力は見た目で証明されてしまうけど、性格を証明するのは難しい。相手の女がそう解釈する可能性がある以上、キミが街中で興じるナンパには細心の注意を払え。最悪、相手が突然悲鳴を上げて走り出す。いや、走れるならまだマシで、へたり込んで漏らしかねない。そうすると周囲に人が集まってくる。キミはさしあたりワルモノとされる。……女の股を濡らすにも時と場合と方法を選ばないとね! 月イチで漏らしてる方の性別は、ホントにそのへんガバいから!」


「そうならぬと信じたいところであるが、そなたが申すのなら、きっとそうなのであろうな。しかしもしそうなれば、なかなかにマズイな」


(メス)に声かけるときは、(ソイツ)が最悪の性格であることを常に想定しなきゃ。性悪は(おんな)の本質だよ? 個体によって違うけどさ……どんだけ水で割って薄めても?酒は酒じゃん? 飲むなら酔う覚悟が要るんだよ。……差し当たり商売女(ビッチ)でも探したら? シコリ欲を発散したいだけならそれで足りるんじゃない? 肉のついた骨ならなんでもいいだろ? 宿の夕飯に鶏肉でたし、鶏肋(けいろく)でももらってこよか? 穴でも開けりゃ使えるんじゃない?」


「またそなたはそういう事を。女性への()がれを宴の肴のように申すでない。そも無駄金を使うべきでないといつも申しておるはそなたではないか」


「んー。ボク込みなら出費ゼロまでは請け負うよ。金を取れるかは(おんな)の懐次第。3人でする? 4人でもいいどさ。(メス)はぜんぶキミに譲るよ」


山賊が獲物を物色するような目で、ユーリンは関羽を視線で舐め回した。

さしもの関羽も胃痛の予感を覚える。


(そなた)に背を向けるのは恐ろしいな」


関羽の反応に満足したユーリンは、空色の目をを柔らかくして緊張を解いた。やたらふしだらな関羽イジメはユーリンの趣味である。


「行きずりの恋を楽しむには、キミは実に具合が悪い。キミにとってじゃなくて、相手にとってね。そりゃウンチョー、この地に永住して定職就いて地道にやるなら伴侶を選べるくらいにはモテるだろうさ。似合わないけど。笑うけど。刺すけど」


ユーリンの辛辣な批評を受けて、関羽はうなだれて意気をか弱くした。ユーリンの個人的な見解に満ちたものではあっても、それが実情を逸脱はしていないことを認めたのである。


渋々、けれど嘆くこともなく、関羽は淡々と言った。


「……かくなる上は、断念いたすか」


「え? 諦めちゃうの?」


「戦況の不利を圧しての突進は愚将のすること。やはり『ちーと』なる摩訶不可思議な秘宝の獲得を当面の目標といたすか」


「諦めが早すぎないかな。その『テレーサさん』とやら、まだキミの存在すら認識してないだろ」


関羽の抱く女性への憧れに、賛同はせずとも、また嫌がらせは怠らずとも、ひとまずの応援と協力は惜しまないのがユーリンのスタンスである。さんざんネガティブな放言で圧力をかけておきながら、関羽の引き際の良さにかえってうろたえた。


「そういう切り替えこそナンパの極道だけどさ、悪くない判断だけどさ、ウンチョー、ホントに良いの? ていうかナンパじゃなくてそれガチ恋じゃん? 未練こじらせて夜な夜なヨナヨナ泣いたりしない?」


「そのほうが先方にとってもよかろう。儂のような者から懸想されては、その……気の毒だ」


こと色恋沙汰における関羽の自己評価は不当なまでに低い。生前最期の失態が尾を曳いていることもあるが、外見だけは非の打ち所のないユーリンと行動を共にすることで、自身の容姿が女性に与える印象がユーリンに遠く及ばないことを痛感させられ、無用な自信喪失に陥っているのである。


ユーリンは関羽のそんな弱気をもたらす心の機序を完全に把握していたが、そういうところがユーリンの数多(かずおお)いねじくれた(へき)に刺さるため、特に治療を計画することはなかった。しかし、関羽の望むことに身を投じるのが、ユーリンの道楽であるのも事実である。


(うー。……カワイイ。かわいそカワイイ……! ホントにボクのどストライク……このままずっとイジメ倒したい……)「ねぇ、ウンチョー……」


「うん?」


「キミのその躊躇(ちゅうちょ)ない凛々(りり)しいヘタレぶりが、いつもボクを狂わせるんだよ?」


「よもや、儂、凄く(こく)なことを言われ……た?」


さすがの関羽も衝撃を表情にしたが、その顔の情けなさが、かえって決定打となった。


(ああん、もうっ!)「……成功報酬でいいよ」


ユーリンが笑顔を弾けさせて、喜びに舞い上がる。


「協力しようじゃないか。キミの恋の成就に向けてボクも手を貸すよ」


「おお、これは重畳! そなたの助力を得られれば、あるいは……待て。そなたの望む報酬とはなんだ?」


「だいじょうぶ、キミは()たなくても、寝てるだけでいい。そんじゃ明日、現地偵察に行こう。そのオバサンのツラみてから作戦を考えるよ。ソンシ曰く『敵を知るのはマジだいじ』てね!」


「問いに答えよ。何を報酬として目論んで――」




翌日、午前中は自由行動ということで関羽とユーリンは別れてそれぞれ街を散策し、昼になって集合した。そして、押し入り強盗の下見のような口調でユーリンが関羽に確認する。


「アレが狙いの獲物てワケね」


「うむ。テレーサ殿である。遠目にもわかる可憐立ち振る舞いが、儂の心を捉えて離さぬ」


(くだん)の女が店主を務める焼き菓子屋がうかがえる街角に陣取り、関羽とユーリンは遠目にその様子を観察した。時刻は昼下がり――滋養のみを目的としたあわただしい昼食におけるささやかな愉しみとしてであろうか、安価に手早く求められるスイーツ『オーバン』をひとつ、ふたつ買いに求める客足がまばらにある。女店主テレーサは訪れる客に対して愛想よく、けれど手際を鈍らせることもなく接客し、店舗を切り盛りしている。


「……まずは敵情視察といきますかね。キミはここで待ってな」


関羽の意中の女性を(あやま)たず敵と見做した上で、関羽の恋の成就のためにユーリンは単身でテレーサの店に乗り込んだ。


「いらっしゃいませ」


調理装束に身を包んだ若い女性がユーリンを迎えた。ユーリンは反射的に人懐っこい微笑みを作り、まるで友好的であるかのように挨拶する。


「こんにちは。見てから注文させていただいても?」


「もちろんです。ごゆっくりどうぞ」


「ありがとうございます」(……ふぅん、これは見込みアリだね)


店主の女テレーサの反応は、ごく普通のものであった。ユーリンの外見は人目を強烈に惹きつける。空色の瞳を際立たせる月光のような銀髪、鮮やかに描かれた目鼻立ちと蠱惑的な唇の造形、心の壁を浸潤するかのような天禀(てんりん)の声音――これを目の当たりにしても、女店主の生理的反応が薄い。少なくとも表面的には何の感情の乱れもない。


(よろしい! まず合格)


関羽の恋に望みありとの判定を下し、ユーリンは店先に並べられた焼き菓子を眺めるフリをしつつ、店主のテレーサを視野の端で観察する。


(……んーと、目と鼻はやっぱりあるな。……あ、あと耳も付いてる! ……そんなもんか……)「このイマガワを3つください」


「承知しました。……お客さま、遠くからの旅の人ですよね」


「ええ、その通りです。よくわかりましたね」


ユーリンは嬉しそうに驚いた演技をした。テレーサをまじまじと観察する口実として、わざと違う名で焼き菓子を指したのである。


ユーリンの空色の瞳が透き通るように輝く。わずかな機微すら見逃さない透徹した観察眼が、テレーサを()た。もっとも、彼女の容姿に関心はない。外箱を叩いてその中身を推量するように、会話の流れから心の動きを把握することが狙いである。


そんなユーリンの意図を知らないテレーサは、親切そうな微笑みをたたえて解説する。


「この辺りでは、これはオーバンと呼ぶ人が多いんですよ。イマガワと呼ぶのはもっと東のほうなんです」


「へぇ、呼び名が違うんですね。それは知りませんでした。てことは作り方は同じなんです?」


「全く同じなんですよ。ただ聖女様のルールとして、この辺りではオーバンと呼びなさい、と定められているんです。……別の名で呼ぶこともできるんですけどね。もっと西の方だとカイテンなんて呼ぶらしいです」


「……? 混乱しちゃいそうです。それに聖女ヨーコの(さだ)め事としてはハンパですね」


「ええ、ふしぎてすよね……はい、オーバン3つで450ゴールドです」


ユーリンと会話しながら店主テレーサは焼き菓子オーバンを火元で軽く温め、手渡した。ユーリンは支払いをつつ、話題を変えた。


「ご親切に、どうも。……ところでお尋ねしますが、この街で旅道具を買いそろえられる雑貨屋さんて、どこのお店がオススメですかね」


「そうですねぇ……この近くですと向こうの通りの角のお店か、すこし歩いた先の……もしかして、お客さま、昨日もお越しいただきましたっけ。そんな会話を聞いたような気が」


(さすがに気づくか。けど本当にいま気づいた感じだな。なるほどね、よしよし)「ええ、実は。このイマガ……オーバン、美味しいですね。気に入っちゃいました」


「それはうれしいです。またお越しくださいね」


ユーリンは礼を述べて店を去った。歩くうち、(つつみ)の内から甘やかな予感がこんがりと焼けた小麦の香ばしさの上に広がり、ユーリンを楽しませる。


潜み隠れて一連の様子をうかがっていた関羽が、おずおずと聞いた。


「ど、どうであるか? そなたの見立ては如何に?」


仕入れたオーバンを関羽の口に押し込んで消費させつつ、ユーリンは無愛想を義務的な調子でくるんで応える。


「……ふん。ま、いいんじゃないかな。()た限り、及第。性格は温厚より、自身の裁量内なら誠実といえる、知能は中の上くらい、責任感は……アッチの性別の側の中ではだいぶマシ、ちゃんと現実と向き合えるタイプだ。……珍しいね、話がまともに通じる系の個体だよ」


「……なぜわかる? 僅かに言葉を交わしただけではないのか?」


「わかるんだもん。あれなら『使い捨ての穴』から評価を格上げしてやってもいい。……ただあのオバサン、仕事モードのときは手が出せない。自我の拡張かな……店の利益を守るという自衛心が心の障壁を堅牢にしている。狙うならその日の仕事の終わり際だね」


店主テレーサに一定の評価を下しつつも執拗にオバサン認定を解除しないのは、ユーリン独自の基準『ボクがオバサンと思ったらそれはオバサン』によるものである。実際の店主テレーサの年齢は関羽の肉体年齢のやや上程度、20代中頃であると見られ、世間的な基準としてはオバサン呼びは時期尚早の可能性が高い。


関羽はそういったユーリン独自の価値観には慣れているため、その認識の是非を争うことはしない。


「仕事の終わり際……夕刻であるな」


「そそ。お店の片付けを始める閉店間際のタイミングで、たぶん数秒の心の隙がありそう。ただ家路への妨げになると警戒値が跳ね上がるから、ホントにシビアな勝負になる。だからボクが音頭をとるよ。……ねぇ、でもさ。あとで落ち込まないように言っておくけど、アレとねんごろは無理だよ。どれだけ手際よく攻略しても、合法の範囲じゃ1 ヶ月はかかるタイプだ。この街に定住する気はないだろ。そこは諦めなよ」


「……もとより左様な深い仲を望んではおらぬよ。儂は旅の身であり、それを忘れたことはない。ただ少し、幾ばくなりとも、彼女に親しみを覚えてもらいたい。言葉を交わした交流ができれば、それ以上は求めぬ」


「ふぅん」


知ってるけどね、と聴こえるようにユーリンは言った。


ユーリンには関羽のことがわかる――関羽が望んでいるのは、畢竟、心の癒しだけである。対人関係のしくじりが部下の離反を招いたという生前末期の記憶が、穿たれた傷を埋める代償として、今生における良好な交友関係の構築を希求せしめている。その象徴が女性からの好意的な評価の獲得であり、すなわち関羽の野望である『爆もてライフ』である。そして日頃の言動に反して関羽自身の性欲は非常に乏しいことまで、ユーリンは理解していた。


(転生とやらの影響かな? いちおう神霊て扱いらしいし、子孫を遺そうて本能が薄いんだろうね。女に惹かれるのはたぶん精神の慣習だろう。……つまりボクにも可能性アリアリじゃん!)


私的な欲望の実現可能性を再確認したユーリンは、ひっそりと決意を新たにした。

そんなユーリンの内部的な決起の催しには気づくこともなく、関羽が深刻そうに尋ねる。


「……して、如何にして声をかければよかろうか。女子(おなご)受けのよい話題とは……気を惹く宝飾でも貢ぐのが常道であるが……(くし)か髪飾りか……あるいは上の反物(たんもの)ということでも……」


「……あのね、元都督クン……それが許されるのは、御目通りだけでも価値が出ちゃう貴人社会の話だよ。庶民の贈答品には、それが許される名目が要るのさ」


「それは真か!? ただ物を贈るだけでも工夫を要すと!?」


「キミだって、アレ、ソウ丞相サンからもらった手縫い刺繍入りの服、持て余したんだろ? 感情の高低差はそのまま圧力になるのが人のムツカシサさ」


「……うっぷ。アレか……アレは、その……(ツラ)の保ちようが無かったな……つまりはアレか……」


「そそ。受け取る理由がないのに物をもらっても、何ていうか、その、困るのさ。……でもいいさ、キミがそうしたいなら、そうしよう、それを今回のゴールにしようか。意中の相手に自分の贈り物を身に着けさせるのは、男性的な支配欲をアレンジした幸福だからね。その理由を作れたら、この街での講習はひとまずおしまいね。大進歩なんじゃん?」


「大義名分の獲得が戦略目標ということか! わかりやすい話だ。己が兵を奮わせ、諸勢力の介入を許さず、敵の意気を(くじ)き戦場の有利を予め得る。確かに其処がまさしく肝要なところ。……ふむ、儂にもわかってきたぞ。つまるところ『なんぱ』とは戦の道に通ずるわけか」


ユーリンは笑顔をしくじって、こじらせたように頬をひくつかせた。


「……。……身に着けてもらえなくても、好意的に受けとってもらえりゃいいだろ? 見込みアリまで進展したら、何か買ってもいいよ。旅費の財布から出してもいい」


「なんと! それは有り難い!」


「ただし、商売女(ビッチ)より高い物はダメだよ。さっき調べてきたけど、この街の相場は一晩2万ゴールドだからね。それが上限!」


関羽は笑顔をしくじって、こじらせたように頬をひくつかせた。


「……。……して、贈り物はやはり装飾品が無難であるかな。……ところで、どう調べた?」


「そうだね。あのオバサン、髪の毛が生えてるし、髪飾りでいいんじゃない? ……ボクいくら? て聞いたら『30万まで出す』てさ。フザケてんのかと思ったけどホントに目いっぱいでソレらしい、シケた街だね。だから並のメスに3万はつかないよ、2万が相場だろうね」




関羽はおびえそうになる己の心を叱咤し、夕暮れの陽射しを背中に浴びながらテレーサの店に向けて歩みを進めた。足を踏みしめる都度、ユーリンから授けられた指導内容を反芻して思い返し、その一言一言を命綱のように握りしめる。


――いいね。キミの強みは話題があることだ。ずばりスイーツ修行中の身であること。オバサンも焼き菓子屋やってるんだし、その方面で話を転がすことだね


――誠実な導入か。じゃあ、恩を着せるのではなく、逆に恩をもらうこと。キミが頭を下げて礼を言って去る展開が望ましい。そうすりゃその返礼という形で次を作れるし、オバサン側にも心理的な安全を作れる。迂闊に恩を着せられると、その見返りを要求されるのが怖いからね、強者は弱者に常に配慮しな。卑屈っぽく礼を言うんだよ、礼を言わすなよ


――……。買いな。高いもんじゃない。売れ残りのオーバンを、あるだけどっさり。キミの体格ならどんだけ買っても不自然にならない、ほどよい滑稽味があってもむしろカワイイ。売れ残りが閉店間際にハケるのは、どんな店でもたまらなく嬉しいことなんだ、利益が段違いになるからね


――きっと話の糸口になる、気に入ったからたくさん買う、スイーツ修行中だと軽く自己紹介、オバサンがキミに関心を抱いたら、数分だけ会話をしてもよい、売れ残りの片付けに本来は要したであろう時間分だけは、ね。キミが教えを請う形式で、オバサンが気持ちよく話せるように。心配せずとも、キミのほうが見た目は若い、自分より未熟な後輩を指導するのはほどよい心地よさがあるもんさ……それでもダメなら諦めな、ここに不動の正妻がいるだろ? てかボクの何が不足なのさ? 穴の数が1つ少ないだけだろ? そんなにたくさん使いたい? 何本生えてるつもりなのさ?


夕暮れ刻、関羽の歩く通りは人影がまばらになりつつあった。関羽の前を歩く男が1人と、後方で様子を伺っているユーリンの他には、通行人の姿はない。しかし立ち並ぶ店舗には、店じまいの物音がある。叫べばすぐに人が駆けつけられる状況であること――それがユーリンの定めた『関羽が女性に声をかけてもよい』必須条件であった。


女店主テレーサの焼き菓子屋が近くなる。関羽の緊張は高まった。目当てのテレーサの姿が見える。顔ににじむ疲労の兆しが、彼女の淑やかな仕草に魅力を加えている。しかし口元には弛緩した柔らかさがあり、その日の仕事に区切りをつけた充実感が漂っていた。目にいくらかの寂しげな光があるのは、売れ残り焼き菓子の積み(かさ)のためであろう。


不意に女店主テレーサが顔をあげて、歩みよる関羽のほうを見た。関羽の胸を高揚感が叩いた。――が、たちまち背から裂かれるような痛みに変わった。テレーサの顔が、険しく脅すような警戒心に満ちたものに変わったためである。


関羽の膝が崩れ落ちなかったのは、波瀾に満ちた前世の経歴の賜物である。


(……儂の風貌は然程に恐ろしげなものである、か。……やむなし)


関羽は身体の向きを変えて、女店主テレーサに背を向けた。


意中の女性に嫌われる程度のことは、国家の命運を定める戦場に散る血しぶきの臭いを思い返せば、何のこともない。関羽は失恋の痛みを感じていないのではなく、痛みに慣れすぎているのである。


しかし踵を返して立ち去ろうとする関羽の足をその場に留めたのは、戦場のそれとは似つかぬ軽薄な声であった。振り返って再びテレーサの焼き菓子屋を見た関羽の眉が、形をゆがめる。関羽の少し前を歩いていた男が、女店主テレーサに声をかけたのである。


「よぉ、テレーサ、今日も景気が良さそうじゃないか」


男は上質な仕立ての服を着込み、羽振りよさげな懐具合をにおわせるような尊大な調子でテレーサに呼びかけた。


対するテレーサの声には、明確なトゲがある。


「……! ……もうお会いしませんと、お伝えしましたよね」


「そう言うなよ。俺もツライんだ、毎晩枕が濡れて乾くヒマもねぇんだよ。お前が不憫でならねぇってな」


「余計なお世話です。お引き取りください」


「ったく、こんなチンケな焼き菓子売って、粗利なんぼでいくら残るよ? さっさと店たたんで俺のトコに来い。いい暮らし、してみたいだろ?」


「ちゃんと利益は出てます。あなたのお世話なんて必要ありません」


「利益、ねぇ。するとこの売れ残りはお前の晩飯用か? 食べ過ぎは身体に毒だぜ。お前の美貌が損なわれるなんて、俺は悲しすぎて許せねぇよ」


「焼きますよ?」


女店主テレーサはオーバンを(あぶる)る火種の炭を金具でつまみ、剣のように構えた。赫々(あかあか)とした輝きを男の面前につきつける。


男はテレーサの勇ましさに半歩退いたが、ことさらに醸した余裕を再編して言葉をつなげた。


「カワイイ意地張ってねぇで、素直になりなって。こんなに売れ残って生活できてんのか? 今夜俺に付き合えよ、ちゃんとした飯を食わせて――」


「――ちと御免」


男の言葉をさえぎって、関羽の声が割り込んだ。怒号飛び交う戦場で統帥の実績を積みあげた関羽である。自身の発する声の届け先を聞き手に誤認させることは決してない。呼びかけられた男は関羽に応えた。


「ん? 何? お前、どちらさん? いま立て込んでるから出直してくれるよな」


「歓談を(さえぎ)る非礼は儂の不徳。されどまだ店の看板は下げられておらぬ。そしておぬしの振る舞いは客のそれに(あら)ず。儂は客として訪れた」


「……あ!? 客だァ? それがどうしたってんだよ」


「品を売る主人があり、買う客がある。それを理由なく妨げるは商いの道に(あだ)なすことであると知れ。この場は譲ってもらおう」


大地に根ざした大木の幹のように揺るがぬ関羽の口調を受けて、男は店主テレーサに背を向けて、関羽を睨んだ。物々しく凄んだ顔を見せつけようと試みたらしい。それを未遂に留めたのは、今さらながら関羽の巨体に驚いたためである。


関羽は微動だにしないが、身の丈およそ9尺(約2m)というヒューマン族においては一際の長身を、鎧兜を着込んだかのような筋骨の隆起が岩のような厚みで覆うその巨体は、ただそこに佇むだけでも威圧感を放っていた。


変貌を中途半端な仕上げで保留した男を相手とせず、関羽は女店主テレーサに歩み寄り、一礼した。


「まだ今日の商いは終えておらぬ、と期待して宜しいか」


「もちろんです。……すみません、ちょっと騒がしくて」


女店主テレーサは張り詰めていた気持ちの昂りを洗い流すように、あえて穏やかに関羽を歓迎した。構えていた即席の灼熱の槍を収め、炭火をあるべきところへ戻す。焼き菓子オーバン屋の主としての顔がそこにはあった。

その商いに忠実なテレーサの姿勢が、関羽の恋心を静かに煽る。その熱が蒸気となっての関羽に動力を与えた。予定していた段取りを敢行する。


「賑やかで結構。……そこに残っているオーバンを全て頂戴いたす」


「え!? ぜ、全部ですか?」


「……不都合ですかな? 儂の腹にはちょうど良いのですが。なにせこの恰幅ゆえ」


「い、いえ。とんでもない。ありがとうございます! いま温めますね」


店の主としての淑やかな振る舞いの内側に喜びの華が繚乱し、テレーサの女性的な魅力を高めた。


己の行為が女性を喜ばせる結果に結びつくのは、男の精神に原初の幸福感を呼び覚ます。救われた、とさえ関羽は感じ、感謝の想いすら芽生えていた。テレーサと親しくなり何か贈り物を受けとってもらうことを目標としてこの場に臨んだが、いまのテレーサの言葉だけで、すでに充分に満たされてしまったのである。


関羽は幸福感の余韻を味わうように、売れ残りのオーバンを焼き温めるテレーサの仕事を見守った。そして、輝ける衛士のような使命感のくすぶりに身をよじる。


「待たせてもらおう。小麦を焼いたスイーツは数あれど、やはりこの優しき香りを堪能してこそ。……おぬしもそう思うであろ?」


脇に追いやられていた男に対して、気軽な世間話を振るかのような口調で関羽は言った。男のほうは、それがやはり自分に向けた言葉であるらしいことを認識すると、あわててそれに気がつかなかったかのような表情で応えて、顔をそらした。


もとより男の返答など関羽は期待していない。


「これも縁である。共にスイーツを楽しもうぞ。……良き焼き音であるな……胸を焦がすような、それでいて思わせぶりな愛撫のようなざわめきである。ほれ、オーバンの肌が、麦穂よりも鮮やかな黄金色に(かえ)(とき)を見逃すまいぞ。一服の絵画のようではないか。豊穣を司るかのような景色である……おぬしも食うであろうな?」


逃避的な行動も曖昧なはぐらかしも認めない――射貫くように直裁な(まなこ)を男につきつける。両眼からほとばしる関羽の熱気が、男の心胆を押し潰し、悲鳴にもならぬ声をもらさせた。


「い……いや……お、俺は……」


「案ずるな。対価など求めぬ。儂の奢りである。……焼きあがるまで付き合わせてしまって、相済まなんだ。……さて、儂の用向きはこれで終わりのつもりであるが、おぬしはどうする? 儂はこの後の予定はたっぷり空いておる故に、時間はいくらでもあるが」


じろり、と関羽が男をにらんだ。にらまれた男が股間を濡らさなかったたのは、すでに全力疾走していたためである。焦がれ狂うヘルメスよりも(はや)く、男は跳躍して逃走していた。


逃げる男が順当に逃げ去るのを見守りながら、関羽はテレーサに目を向けた。テレーサはすっかり気の抜けた顔である。口をあんぐりと開け、走り去る男の背を遠くに眺めている。やがて男の姿が見えなくなると、驚きを隠さず関羽に言った。


「……ヘンリクさんが、あんなにあっさり帰るなんて……この前なんてわたしの家の前まで着いてきて、追い払うの大変だったのに……」


「……勝手を致しました。店先を騒がせたこと、お詫びする所存」


関羽の厳粛な謝罪の後には静けさが残った。オーバンを炙る炭火の音が、小麦の蠱惑的な香りと混じって立ち昇る。


テレーサは口の端をあげて、頬を緩めた。


「……助けてくださり、ありがとうございました」


「い、いや、その……あえて助けたなどというつもりもなく……」


関羽が巨体を左右にして、狼狽(ろうばい)の焦りを手振りで発散させる。テレーサに礼を言わせるのは彼女の心理的な圧迫を招く悪手であり、あくまで関羽の側が礼を述べて後日の報恩の糸端にする目論見であるのに、立場が逆になってしまった。関羽は懸命に、けれども拙く、しかし誠実といえる範囲内で、誤魔化しの手立てを講じる。


「よもやあの者に残ったものを全て買われてしまうのでは? と焦り様子を伺っておりましたが、どうやらそういう狙いではなさそうとわかり、安堵するなり飛びだして、先に儂が全部買ってしまおうかと、必死で……」


しどろもどろになりながらも、関羽は言葉をつないだ。女性を楽しませる軽妙な会話などとてもできない。話題といえば武具と馬と酒とスイーツしかない男である。

それでも少しずつ、関羽は成長していた。転生以後の第二の生では、自分の好きなことをやって生きてみたい――天命や義に駆り立てられるのではなく、道楽家としての己を確立したい――その想いの表れが、食に対する飽くなき執着であり、スイーツ道を極めんとする修行の日々なのであった。


そんな関羽の年甲斐もない自分探しの事情を知らぬテレーサは、関羽の言葉をごく素直に受け取った。


「お客さま、ほんとうにオーバンを気に入ってくださったんですね。……昨日もお越しくださいましたし」


「……え、そのとおりで。……儂はウンチョウと申します。スイーツ修行の旅をしています」


「わたしはテレーサ。ヨーコ様からはオーバン焼きを授かりました。まだ未熟ですが、これでもこのごろはちゃんと売れてるんですよ」


「大変ご立派であらせられると、感服仕りました。かように手軽に買い求められるスイーツのあることは、この街の民の幸福の支えと言えましょう」


「……照れますね。炭火みたいになっちゃいそうです。……ウンチョウさん、オーバンに興味はおありですか?」


「え、ええ。それは無論。あまねくスイーツの探究こそが儂の生きがいです」


「よかった。それじゃあ、今からやってみませんか? きっとウンチョウさんなら、ヨーコ様のお許しがありそうです。……なんとなくわかります。『この人よ』って気がします。厄介ばらいのお礼としてはささやかかもしれませんが……」


「なんと! 感激に堪えぬお話……し、しかし、急なことで……」


「あら? でもウンチョウさん、あとのご予定は無いんですよね?」


そう言ったテレーサは、しとやかな笑みに含みをもたせた。




ユーリンは激怒した。必ずあの闖入者たる軽薄な馬鹿男にむごたらしい懲罰を加えねばならぬと決意した。


「……なんで……なんで、うまく行ってんのさッ!? ヘコんで帰ってきたウンチョーをボクが身も心も慰める予定だったのに……台無しじゃないか!」


全力で応援し、骨身惜しまず成功への協力の労をはらいながら、それはそれとして、関羽の失敗を心底から期待するという精神の卓抜した器用さと捻くれがユーリンには備わっていた。それが予期せぬ関羽の上首尾に対して、ユーリンの激怒をもたらしたのである。


「さっきの(あん)なし金箔(きんぱく)饅頭(まんじゅう)みたいなヤツはどこいった!?」


ユーリンの存在を忘れてテレーサと歓談する関羽には直接の怒りをぶつけない。関羽の想いが叶ったことを、喜びはしないが祝福はするのがユーリンである。しかしその矛盾によって生じる感情の軋轢がもたらしした摩擦熱の廃棄については、他人任せであった。


「中身スカスカのくせに余計なことしたツケ、払ってもらおうかッ!」


その原因となった男で憂さ晴らしをするため、ユーリンは総身を逆立てて男の後を追った。

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