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その後の事2

99 その後の事2






「ツヴァンハフト主席。今、ご報告してもよろしいでしょうか?」

 

「どうした、ファムデミナージ。慌てているようだな?」

 

「はい。取り急ぎ、ご報告をと思いまして」 



 王宮の人気ひとけのない区画に、国王と数人の側近しか知らない王宮魔法使い達の本部兼会議室があった。

 

 そして今、目の前でビシッと背筋を伸ばして立っているファムデミナージは、主席王宮魔法使いであるツヴァンハフトの部下の一人だ。

 

 海の様に青い髪を長く伸ばし、切れ長の目をしたその女は首肯し、真剣な目で自分を見ていた。

 

 

「……よし、話せ」


「はい。いくつか重要なご報告が。まず、件の魔法使い伯爵に監視と尾行がバレました。と言うか、自らバラすしかなかったんですが……」 


「では、今は?」


「今は、アジェンツィアが代わりに監視を」


「良し、他には」



 ツヴァンハフトは部下の言葉を遮り、言葉少なに質問し、確認する。

 

 彼は、無駄は出来るだけ少ない方が良いと思っていたが、他人の都合やペースを考慮したことは無かった。



「はい。クルエルダードが死にました。そして彼の持っていた魔法石は奪われました。さらに……」


「待て。クルエルダードが?何故だ?奪われただと?奴の持っていた『雷』の魔法石もか!?戦って、殺されたという事か?」

 

 とても聞き流せない言葉を聞いて、ツヴァンハフトは、再度ファムデミナージの報告を遮った。

 

「そうです。伯爵と魔法戦になり、殺されたようです」 

 

「まさか、信じられん。当然、一対一で戦ったのだな?」

 

「はい。他の魔法使いは確認できませんでした。もちろん、絶対とは言えませんが」 


「『雷』の魔法でも、勝てなかったと?」


「いえ、『雷』の魔法は使えなかったようです。『雷』の魔法は威力こそ絶大ですが、魔力消費量が膨大でクルエルダードでも一度しか撃てません。しかも『雷』の魔法を撃てば、確実に相手を殺してしまいます。そのため、おそらく初手から『雷』の魔法を使う事は出来なかったのだと考えられます」


 

 ツヴァンハフトは改めて聞いても、やはり信じられなかった。

 

 クルエルダードは部下の中でも攻守に優れた優秀な魔法使いだった。

 

「雷」の魔法を含め、「重力視」の魔法に「結界」の魔法と、三種もの魔法を使いこなす、百年に一人と言われるほどの魔法使いだったのだ。 

 

 だからこそ、アドリアーノ公の元への潜入任務を一人で任せることが出来たのだ。

 

 件の魔法使いは「飛行」の魔法だけと聞いていたが、認識を改めなくてはならないようだ。

 

 そして、出来るだけ早く他の王宮魔法使い達へ周知徹底しなくてはならない。

 

「……以上か?」


「いえ、あと一つ。アドリアーノ公が、おそらく殺害されました」 

 

「何っ!?」


 ツヴァンハフトは、今度こそ驚愕で目を見開いた。

 


「……おそらく、というのは?」


「伯爵に連れてゆかれましたので、確認は出来ておりませんが、おそらく生きてはおられないでしょう、という意味です」 

 

「……それは、例のシルバートゥースの件か?」


「はい。伯爵の奥方に何度か手を伸ばしたらしく、その報復に」



 馬鹿な。そんな事で?いや、無論由々しき事であるし、夫として到底許せることではないだろう。それは分かる。だが……

 

「奥方は、健在だったはずだな?」 

 

「はい。伯爵が撃退されましたので、完全に無傷のはずです」


 で、あるならば、調査し、証拠を掴んだうえで、それを材料に有利な立場で交渉し、金と利権を死ぬほど毟り取る、というのが正しい貴族のやり方ではないのか。 

 

 ツヴァンハフトが呆然としていると、ファムデミナージが最後の言葉を投げた。

 

「それから、伯爵が、次に私を見かけたら殺すとおっしゃったので、私はこれ以上監視任務にはつけません。報告は以上です。では失礼します」

 

 そう言って、頭を下げるとファムデミナージは踵を返し、会議室から出ていった。

 

 ツヴァンハフトはコツコツと響くファムデミナージの足音で、ハッと我に返った。

 

 

「……急ぎ、陛下に報告せねばならん。はぁ、頭の痛い事だ」

 

 

 ツヴァンハフトは、そう独り言ちると、部下の後を追うように会議室を出ていった。

 

 

  

 ☆

 

 

 

「……何故だ。ビスマルクス」 

 

「陛下。さすがに、私では分かりかねます」



 国王の執務室の奥にある私室で、ゼクストフィール王国国王ルクスファウストは頭を抱えていた。

 

 少し前、王都を訪れた魔法使いの少年は、気持ちのいい男だった。

 

 少しぶっきらぼうで礼儀知らずではあったが、それも少年ゆえの不勉強と言える程度でしかなく、王族や格上の者を敬う気持ちも見えていたし、新婚の妻に気を遣う姿は微笑ましかった。

 

 概ね、印象は悪くなかった筈だ。

 

 それがどうして、アドリアーノ殺害などと言う話になると言うのか。

 

「……陛下、ともかく調査を進めておりますので、陛下は安んじて調査結果をお待ちください」

 

 盟友たるビスマルクス宰相が気遣わしげにそう言う。

 

「……そうだな。私が狼狽えていては臣下の者達に迷惑をかけるだけだ」

 

 国王ルクスファウストはビスマルクス宰相を下がらせると、一人、アドリアーノの冥福を祈るのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ビスマルクスは国王の私室を出ると、自分の執務室へと戻った。

 

 すると、執務室ではツヴァンハフトが待っていた。

 

「どうしてこうなったんでしょうね。ツヴァンハフト。確か彼に関しては……」


「ええ。新婚ですし、件の魔法使いは向こうっ気が強いこともあり、数年遊ばせておく予定でした。その内、よほどのバカか、クズでもない限り、仕事をしたくなるでしょうから、それから王宮魔法使いとして取り込めばよいかと」


 ビスマルクスは渋い顔でツヴァンハフトを見た。

 

 だが、ツヴァンハフトも困ったように首を振った。

 

「……まさか、こんなに早くアドリアーノ公が動くとは思いませんでした。うちの魔法使いを送り込んで間もないですし、時間を掛けて証拠をそろえ、公のお仲間諸共、断頭台へ送ってさし上げる予定だったんですが……」


「……おかげで陛下が大層お嘆きだ。私の心労も考えて欲しいものだ」


「私とて、優秀な魔法使いを『二人』も失うことになりますから……」


 その後、二人は情報を共有すると、それぞれの仕事に戻って行った。




 その数日後、王弟であるアドリアーノ公を殺害した大罪人として、ギルバート・フォルダー・グレイマギウスと、その妻、エリザベス・アローズ・グレイマギウスが、王宮から、ゼクストフィール王国中へ指名手配されたのであった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「エピローグ2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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