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魔法使い3

98 魔法使い3






 ギルバートは生気を失いガックリと項垂れる、敵の魔法使いを見ながら「結界」の魔法の盾を反射属性で成型した。

 

 少し視線を切った瞬間、アドリアーノ公の側近が斬りかかって来たからだ。

 

 だが、それはむしろ、「誘いの隙」だった。この手の不意打ちはレイング男爵で経験済みであり、しっかりとギルバートの身についていた。

 

 ギルバートはこの側近の男からはレイング男爵とよく似た雰囲気を感じていた。そこでわざと視線を切った。

 

 案の定、側近の男は高速の抜き打ちを仕掛けてきた。だが、ギルバートの「結界」の魔法の発動スピードは何度も実戦で使う事により、既に瞬速の域だった。

 

 剣が魔法の盾にぶつかった瞬間、反射属性に激しく弾かれ、側近の男は大きく態勢を崩した。

 

 そこを「念動」の魔法の腕でとっ捕まえ、扉を守っていた警備兵と同じく、窓の外に向って放り投げた。側近の男は叫び声も上げずに庭園へ落ちていった。

 

 アレは、すぐに戻ってくるかもしれない。普通は二階から一階に高速で投げ飛ばされたら、まず無事ではいられないだろうが、あの側近の男は手練れの雰囲気を持っていた。

 

 という事で、あの男や公爵家の兵士が大挙してやってくる前に、ギルバートはアドリアーノ公を連れて退散することにした。

 

 

「ひっ!?ひぃいいいいいいぃっ!?」



 ギルバートがアドリアーノ公の方を向いて、一歩近づいた途端、アドリアーノ公は今までの黒幕然とした様子からは想像もつかないような哀れっぽい悲鳴を上げた。

 

 だが、ギルバートはそんなものは完全に無視して、「念動」の魔法の腕でアドリアーノ公を摘まみ上げた。

 

 そして、敵の魔法使いを土の槍から引き抜くと、魔法石を探した。魔法石は必ず肌身離さず持っているはずだ。

 

「ぎゃああああああぁっ!?たっ!たすっ!たすけっ!けってく!くてっ!」 

 

 意味不明な言葉を喚き散らしながら手足をバタつかせる、豪華な服を着た恰幅の良いアドリアーノ公は、まるで極彩色の巨大蛙のようだった。

 

 ギルバートはアドリアーノ公には何も答えず、敵の魔法使いの服のポケットを探っていく。すると、服の内側の胸ポケットに魔法石が三つ、入っていた。

 

 黄色から赤に色が変化する透明な魔法石と、深い赤色をした透明な魔法石。この二つは「結界」と「重力視」の魔法石だろう。

 

 そしてさらにもう一つ、見たことのない白く透明な魔法石がある。

 

 

 ……危なかった。土の槍で砕いちゃうところだった

 

 

 ギルバートはヒヤヒヤしながら魔法石を自分のズボンのポケットに仕舞った。検証は後だ。

 

 そしてギルバートは、アドリアーノ公を摘まみ上げたまま、豪華な遊戯室を抜け、広々としたバルコニーに出た。

 

 こちら側からの侵入者など考えてもいないのか、今だけかは分からないが、警備兵もいない。無論、警備兵がいるならとっくに入って来ていただろうが。

 

 ギルバートが、よいしょっ!という感じでバルコニーから浮き上がり、空に舞い上がりかけた時だった。

 

 

「……お待ちください。申し訳ありませんが、公爵様とクルエルダードの魔法石は置いて行って頂きたい。そうして頂ければ、今回の事は見なかったことに致しましょう」

 

 

 見上げた空の方向、ギルバートの頭上から声がした。そして、そこには一人の人間が浮いていた。

 

 

「ひいいいいぃっ!たすけてっ!たすけてくれえええぇっ!?」


「ちょっと黙って!」


 ギルバートは五月蠅いアドリアーノ公の口を顎ごと「念動」の魔法の手で押さえ付けた。

  

「んぐぅーーーーーーっ!?ふぐぐぐっ!?」 

 

 

 ギルバートは一息ついて、改めて宙に浮いている女を見た。

 

 海の様に青く、長い髪をした女が切れ長の目でギルバートを睥睨している。

 

 

「……お前も魔法使いだな。急にどうした、次々と……。魔法使いはオレしか居なかったんじゃないのか?」

 

「ええ、馬鹿みたいに公に名乗り出るような間抜けな魔法使いは、あなた一人でしょうね。伯爵」 

 

 

 ……カッチーン!と来た。此奴はいきなり宣戦布告して来たよ

 

『落ち着けと言うのに。いちいち怒っていては肝心なものを見落とすぞ』

 

 ……く。煽られたのがケルじゃないからって……!?

 

 ……ああ、うん、分かりましたよ、もう……

 

 ギルバートは一つため息を吐いて、すぐに気合を入れなおす。

 

 

「……悪いが、こいつは連れて行く」


「そして、いつものように処刑なさいますか?」



 その言葉で、ギルバートの背筋が凍った。 

 見張られている!しかも、ギルバートに全く気付かれないうちに。一体、何時からだ!?

 

 

 そして、エリーの顔が頭に浮かんだ。

 

 

「……お前、今までオレ達を覗いていたのは、目を瞑ろう。だが、これからは許さん。見つけ次第、始末する。……あと、クルエルなんとかという魔法石は知らん」

 

「……それはどうも。……クルエルダードはあなたが殺した魔法使いの名前です」


 ギルバートは内心、首を傾げた。此奴と話しているとどうも調子が狂う。どう見ても自信満々なくせに、言葉遣いや態度だけは自分がギルバートより格下という調子だ。無論、魔法使いとして勝っている自信があるのだろうが。



 ……帰ったらすぐに対策するぞ、ケル

 

『ああ。だが某がいる以上、そう簡単にはエリーに近づけさせぬ。そこまで心配する必要はないぞ、ギル』


 ……そうか、心強いよ

 

 

「……ともかく、こいつは渡せないし魔法石も渡さない。欲しいなら力づくで来い」



 ギルバートは監視を受けていたと知った瞬間から、既に臨戦態勢だ。今も「念動」の魔法の腕でいつでもこの女をひっ捕まえる準備は出来ている。「結界」の魔法もいつでも発動できる。 

 

 

「いえ。わたくしは飛ぶしか能がありません。伯爵がそうおっしゃるのであれば、出来る事はありません」 

 

 

 意外にも、女はあっさり退いた。ギルバートは拍子抜けしたが、だったら良しと受け入れることにした。

 

 

「なら良い。オレは行く」 

 

 

「ですが……」 



 ギルバートが再び空へ舞い上がろうとすると、女がさらに声をかけてくる。

 

 

「なんだ?一度に言えよ、まどろっこしい」



 ギルバートは苛々してきた。この女、妙に人を苛々させるのが上手い。こういうのも戦略なのか?それとも天然だろうか。



「それは申し訳ありません。伯爵、では魔法石は仕方ありませんので、そのままお持ちください。ですが、アドリアーノ公を渡してもらえないのであれば、今日の事は報告させて頂きます。おそらくは国家反逆罪に問われますし、そうなれば伯爵位も剥奪されるでしょうし、ゼクストフィール王国中に指名手配されるでしょう。奥様もご一緒に、です。それでも行かれるおつもりですか?」

 

 

 女が一気にまくし立てた内容は、何となく予想してた通りだったが、改めて他人から言われると、なかなかの衝撃だった。

 

 だが、もう引き返すつもりは無かった。エリーを狙った前歴のある者を、それも悪質で強力な権力を持つ者を、野放しには出来ない。

 

「くどい。此奴は連れて行くと、さっきから言っている」

 

「畏まりました。ではどうぞ。次は戦場でお会いすることになるでしょう。あるいは地下牢の一室、もしくは断頭台で……」

 

 ギルバートは今すぐ捻り潰してやろうか、とも思ったが、ただちょっとムカつくだけの女を捻り潰すのは、明らかに違うな、と自制した。

 

 この女が自分で言う通りであれば、完全に敵だが、今は何もされてないし、敵だと言う確証もない。

 

 

 ……いや、覗き見をされた段階で敵確定か……?

 

 

 ギルバートは再び殺意が沸き上がったが、やはり主義に反するので踏みとどまった。

 

 処すか否かの基準は、敵かどうか、ではなく許せるか否か、だ。どうしても許せない者以外は極力スルーだ。そうでなければ、箍が外れ、人を殺すことを何とも思わなくなってしまいそうだ。

 

 だが、とりあえず、今度此奴が家の周りをウロチョロしているのを見つけたら、確実に捻り潰してやろう、とギルバートは心に決めた。

 

 

「んんんんーーーーーーーーーっ!?」



 アドリアーノ公が女に見捨てられたと悟り、また騒ぎ出した。だが、もうどうでもいい事だ。

 

 ギルバートは謎の女を一瞥すると、今度こそ、空へと舞い上がった。

 

 女はそれを見送ると、どこかへ飛び去って行った。

 


「……魔法使いって、結構いるんだな」


『まあ、某やギルの様に「間抜け」な魔法使いでない者どもが、たくさんいるのだろう』

 

 

 ギルバートは、ちょっとケルを見た。どうやら珍しく、ケルもムカついたらしい。

 

 不思議な事に、ギルバートの心は、それで落ち着いた。

 

 

 ギルバートとケルはグレイヴァルに向って高速で飛行しながらどんどん高度を上げて行った。

 

 

 

 そして、地上の森や山々が箱庭のようになったところで、アドリアーノ公を「解放」したのだった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「その後の事2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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