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合流と救出

89 合流と救出






 魔法使いの拘束に成功した当初、ガルムは、普段とはまるで違うしゃべり方になるほど有頂天になっていたが、今また、不安に苛まれ始め、不機嫌になっていた。

 

 女をアジトの一つに監禁、拘束するため、王都に向かわせた部下たちの定期報告が有る筈だったのだが、誰一人、戻ってこないからだ。

 

 四人も付けたのだ。とっくに第一報が来ている筈だ。たとえ途中で問題が起きたのだとしても、誰か一人くらいは報告に来るはずではないか。

 

 チラリと魔法使いの小僧を見れば、クソ生意気な目で自分を見ている。その、人ではなくモノを見るような目が、ガルムは嫌いだった。

 

 

 ……嫌な目つきだ。魔法使いと言った所で、やはりこいつも貴族だな

 

 

 ガルムは貴族が嫌いだった。たいして能力もないくせに、親から爵位と領地と金を引き継ぎ、働かずに平民から搾取して生きている寄生虫、それが貴族だと思っていた。

 

 だから逆に、貴族から金を巻き上げる事に喜びを感じて今の組織を育て上げた。

 

 もちろん、平民も自分達の獲物には違いないが、主に貴族を狙い、すり寄り、金を巻き上げ、弱みを握り、妻や娘を奪うのだ。これほど愉快なことは無かった。

 

 それが、此奴と関わったせいで、いきなり崖っぷちだ。

 

 各地の支部はまだ健在だが、アドリアーノ公の依頼を無事こなせなければ、ガルムにもシルバートゥースにも明日は無い。

 

 やっとのことで、此奴を確保し、せっかく苦労して捕らえたのだから、せいぜい礼金をたっぷり巻き上げてやろうと喜んでいたのに、またしても問題発生だ。

 

 

 

 此奴はまるで本当の疫病神だった。ガルムはこんなクソみたいな依頼を受けた、過去の自分をぶっ殺してやりたいとさえ思ったのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 絶望の中、無限とも思える焦慮の時間に苛まれながら、動けないでいたギルバートの精神は、限界に近づいていた。

 

 いつ心が折れてもおかしくない、そんな状況で必死に耐え続け、ついに待望の声を聞いた。

 

 

『……ギル、エリーは無事に取り戻したぞ』 

 

 

 その声は、まさにギルバートにとって干天の慈雨だった。

 

 

 ……ケル、良かった!ありがとう!

 

 ……ああ、エリー……!

 

 ……本当にありがとう!助かったよ!

 

 ……ケルは、エリーとオレの、命の恩人だ!

 

 

 ギルバートは心の底から、何度も繰り返し礼を言った。

 

 

『ふ。まだ終わっておらんぞ、ギルよ。状況はどうだ?』


 ……状況か、そうだな。多分シルバートゥースの連中だろうな。リーダー格を含めて七人ほどいる

 

 ……オレは腕と足を拘束されて壁際に転がされている

 

 ……魔法石は取り上げられた

 

『ふむ、状況は悪いと言わざるを得んな』


 ……うん、悪いのは悪い。だけど、試したい事があるんだ。そっちはどう?


『窓か扉が開いたら、某が入ろうと思っていたが』

 

 ……じゃあ、オレが失敗したら頼むよ

 

『了解だ。成否が分かり次第、報告を頼む』


 ……分かった

 

 

 ケルが、エリーを取り戻してくれた。本当に頼りになる奴だ。

 

 これでもう、失敗を恐れず、思いっきりいける。そう思うとギルバートの気力は一気に全快し、闘争心に満ち溢れていく。 

 

 

 ギルバートはエリーが作ってくれた魔法石収納帯を見た。

 

 誘拐、襲撃犯たちは、ギルバートを拘束し、魔法石収納帯を取り上げた時点で満足したのか、テーブルの上に無造作に置いてある。

 

 ギルバートはそっと、帯の方へ足を延ばし、意識を魔力に集中してゆく。

 

 普段は体内でしか扱った事のない魔力の循環を、足先から少しずつはみ出させてゆく。

 

 魔力は一度、体の外を通るが、問題なく循環していた。徐々に徐々に、少しずつ、はみ出し部分を大きくしてゆく。

 

 そしてついに、魔力循環の範囲内に、魔法石収納帯を捉える事に成功した。

 

 次の瞬間、「念動」の魔法石に魔力を注入、魔法の腕を発動し、魔法石収納帯を引き寄せた。

 

 突然のことで、シルバートゥースの連中は誰一人、反応できなかった。

 

「……なっ!?」


 そして、連中の誰かが何か言おうとした時には、ギルバートは手足の拘束を「念動」の魔法の腕で引き千切って解いていた。

 

 幸い、壁際に転がされていたおかげで全員が視界内だ。

 

 ギルバートは即座に「重力視」の魔法を発動し全員を床に縛り付けた。

 

「ぐぉおっ!?」


「なっ!?何が……っ!?」


「うぐっ!?」


「……ッ!?」 

 

 

 ついに形勢は逆転した。

 

 

 それぞれに何か呻きながら、床に這いつくばる襲撃犯達を見ながら、ギルバートは魔法石収納帯を装備しなおし、先ほどの念話をたどって自分の方から「念話」の魔法を発動した。

 

 ……ケル、片付いた。

 

『よし、ではエリーを連れて戻るぞ』


 ……了解

 

 

 それから暫くして、エリーとケルが窓から戻ってきた。

 

 ギルバートは視界の端にエリーを捉えた。泣きはらしたように目が赤くなっている。

 

 そんなエリーを見ると、ギルバートは心が締め付けられるようだった。

 

 だが、今はまだやることがある。心を鬼にしてエリーに、襲撃犯の連中を縄で拘束するよう頼んだ。

 

 エリーは気丈に頷くと、ギルバートが見ている前で次々と襲撃犯の連中を後ろ手に縛りあげてゆく。もちろん、ケルも「念動」の魔法の腕でエリーを手伝っていた。


 全員を縛りあげると、ギルバートは「念動」の魔法の腕を使い、窓から襲撃犯の連中とケルとエリーを連れて、空へと舞い上がった。


 エリーにつまらない物を見せたくは無かったが、さすがに今は別行動にしたくない。

 

 ギルバートは、今までに二回ほどシルバートゥースの連中を処分した、グレイヴァル南部の山岳地帯ではなく、リンドヴァーン南部の大海の海岸上空まで飛んで来た。

 

 エリーには声が聞こえない程度、離れたところで待っていてもらう。もちろん、ケルがエリーを支えて飛んでいるので早く事を済ませなくてはならない。

 

 エリーとケルには十分距離を開けてもらい、なおかつ後ろを向いてもらった後、ギルバートは襲撃犯の連中と向き合った。

 

 まず手下連中には、自分達が何者か、今回の一連の襲撃の黒幕は誰かを聞いていった。

 

 最初の一人は、知らないと言い張った。本当に知らない可能性も無いではないだろうが、実際はボスが見ている前で白状することは出来ないだけだろう。

 

 時間を掛けていられない事情もあるので、一人目はすぐに大海へと「解放」した。

 

「解放」した先が水面とは言え、十分な高さがあれば固い地面と変わらない衝撃がある。そしてここは、地上に人がいれば豆粒よりも小さく見えるであろうほどの上空だ。

 

 

 他の部下たちは、信じられないと言うように目を大きく見開いたが、此奴らに殺されたり、拉致された人々の方がよほど信じられなかっただろう。何よりエリーに最悪の危害を加えようとしたのだ。ギルバートは酌量の余地を感じなかった。


 二人目からはペラペラと滑らかに口を開いた。全員が自分達はシルバートゥースの構成員であり、今回の行動はアドリアーノ公からの依頼、と言うより命令だと証言した。

 

 彼らのボスは、何が何でもギルバートを連れて来い、とアドリアーノ公から命令されているらしい。どうあっても魔法使いを手に入れたいようだ。きっと、ロクでもない目的だろう。


 全員、聞いた事には何でも答えたので、他に後いくつか、アドリアーノ公に関する情報を聞き出し、その後、彼らも全員「解放」した。


 そして残った一人が彼らのボスだ。ギルバートに憎悪をぶつけていた男だった。

 

「アンタからは、何故、アドリアーノ公がそうまで魔法使いを欲するのか、ついでにアンタが何故、オレをそこまで憎んでいるのかが聞きたい」


「……言うと思うか?」


「言わないだろうな」


「分かっているならさっさと殺せ」


 ギルバートは軽くため息を吐いた。

 

「オレはアンタの望むことなら何一つ叶えたくない。だがアンタの様に獲物を甚振って悦に入る趣味は無いので、残念ながら希望通りにしたいと思う」


「ふんっ!」


 ボスの男の目はいまだ強い憎悪の光を失っていない。本当に気分の悪い男だった。おそらくは、支部をつぶされた事を憎んでいるのだろうが……逆恨みも甚だしい。

 

「本当なら、こうやって……」


 と、ギルバートはボスの男の腕を「念動」の魔法の腕で捻り潰した。

 

 

「ぎゃああああああああああぁっ!?」



「腕と足を全部引き千切って、魔獣がたくさんいる森に置き去りにしようかなと思ってたんだけど」



 ボスの男は痛みで逆上し、暴れまくっていた。もはや、聞いていないように見える。

 

 

「もう一回言うけど、オレはアンタと違って嗜虐趣味は無いのでね。ただ、エリーに手を出したアンタが、この世界の何処かで生きているのをオレは許せない。それだけなんだ」


 ギルバートはボスの男の拘束を解き、「解放」した。ボスの男は痛みに喚きながら落ちていった。

 

 

「次、生まれ変わったら善良に生きる事をお勧めするよ」

 

 

 

 ギルバートはそう独り言ちると、ケルとエリーを回収し、宿に戻ったのであった。



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本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「説得」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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