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説得

90 説得






 宿に帰り着いたのは深夜だった。

 

 ギルバート達は、出て行く時、鍵を開けてあった窓からそっと、泊っている室内に入る。

 

 室内はシルバートゥースの連中の土足で汚れていたので、ギルバートとエリーが「集塵」の魔法で綺麗にした。

 

 宿代は既に払ってあるので、このまま出て行っても良いのだが、城で散々疲弊し、襲撃を受けてまた疲弊した。

 

 ギルバートもエリーも既に限界だった。

 

 二人はさっさと就寝し、翌日の昼前までぐっすりと眠った。

 

 おかげで朝食を食いっぱぐれ、宿の人間のノックで起こされ慌ててチェックアウトした。

 

 まだ頭がボーっとしていたが、とりあえず朝食兼昼食を、ということで屋台で粥とスープを頼み、二人でゆっくりと平らげる。

 

 ケルは頭が働いていない二人の代わりに周囲を警戒しており、食事は断った。

 

 その後、ギルバート達は屋台に食器を返すと中央広場までやって来た。


 あちこちに屋台が出ており、人通りも多かったが、三人は端の方に空いているスペースを見つけて腰を下ろした。

 

 結婚前の貧乏貴族時代ではありえなかった行動だが、冒険者となった今はギルバートもエリーも、普通に地面に座るし、なんなら地面を枕に寝る覚悟すらあった。

 

 

「……エリー、ちょっと相談があるんだ」


「えー?何……?何か良くない事を言われそうな予感がするわ」



 さすが、鋭い。エリーはぼんやりしているようで、鈍い訳ではない。むしろ鋭い時の方が多いと、ギルバートは思っていた。

 

「残念ながら、その通りの部分もあるんだ」


「そう。で、何なの?」


 エリーが不安そうな目でギルバートを見つめていた。ギルバートは申し訳なく思いながら、打ち明ける。

 

 

「エリーにはこれから、少しの間、隠れ家に籠っていて欲しいんだ」


 

 ギルバートの言葉を聞いて、エリーはしばらく無言で何かを考えていた。そしてその後、いくつかの質問をした。

 

 

「……少しってどのくらい?隠れ家なんて何処にあるの?どうしてわたしだけそんな事しなきゃいけないの?ギルは来ないんでしょ?」 

 

 すべて当然の疑問だったので、ギルバートは出来るだけ丁寧に答えていく。

 

 

 ・期間については、確約できないが一日~二日だろう。

 

 今回の相手はこの国でも五指に入るほどの権力の持ち主だが、ギルバートがやり遂げることが出来るとすれば、やはり速攻で頭をつぶす事が出来た場合だろう。

 

 そして失敗すれば、即座に逃げ帰ってくるだろう。どちらにせよそう長くはならないと予測できる。

 

 

 ・エリーだけ隠れるのは、いつもと同じ理由だ。ギルバートの最大の弱点を隠すためだ。

 

 「水」の魔法も使えるようになったし、弓の腕はギルバートより上。とは言え、一人でギルバートともケルとも隔離された場合、エリー一人で戦況を打開するのはほぼ無理だろう。

 

 

 ・そして隠れ家については、もちろん今はどこにもない。これから作るのだ。

 

 

 そう言うと、エリーは「は?」という顔をした。ちょっと……大分怖い。

 

 ギルバートはともかくエリーを宥める事に全力を尽くし、なんとか話が出来るところまで落ち着かせる。もちろん、ケルのサポート無くしては成し遂げることのできない大仕事だった。

 

 

「……今回、リンドヴァーンで色々魔法石を手に入れただろ?」


「……うん、まあ、そうね」


 エリーはまだ少し怒っているが、話は聞いてくれるようだ。 

 

 ギルバートは「土」の魔法を発動し、足元に小さな円柱形の塔の模型を作った。

 

「……うわぁ……ギル、器用ねぇ♪」


 怒っていても、エリーはギルバートの魔法に目を輝かせた。

 

 そんなエリーを、ギルバートは堪らなく好きだと思った。

 

 今すぐ抱きしめたい。だが、今は大事な説得中だ。うやむやにすることは出来ないので、気合で我慢した。


「……うぉほんっ!……あー、エリー、ちょっと踏んでみてよ」


「え、いいの?もったいない」


 エリーは疑問符を浮かべながら首を傾げたが、「えいっ」と思い切りよく土の塔を踏みつけた。

 

 当然のように、土の塔は踏みしめた部分が圧壊し、立って残った部分もすぐに崩れ落ちた。

 

 ギルバートは「土」の魔法で、もう一度同じような土の塔を作る。ただし今度は「硬化」の魔法も発動し円柱形の塔の模型に浸透させた。

 

「はい、じゃあもう一回どうぞ。今度は、硬いと思うからゆっくりお願い」 

 

 エリーは半信半疑で、土の塔を踏みつける。だが土の塔は先ほどと違い、ビクともしない。結果、エリーは土の塔の上に立つことになり、頭の位置がギルより高くなった。


 エリーが興味深そうに、土の塔の上でぴょんぴょんと跳んだが、土の塔はビクともしなかった。


「……オレもやってみるから、ちょっと見てて」


 そう言うと、今度はギルバートが「身体強化」の魔法を発動し、思いっきり踏みつけた。側面からも蹴りつけてみたが、やはり土の塔はビクともしなかった。



「……つまりこういう事」


 ギルバートがそう言うと、エリーが「どういうこと?」という顔をする。



「今から、魔法で隠れ家を作ろうと思うんだ」


 

 ギルバートがそう言うと、エリーは驚きで目を真ん丸にして、ポカーンと口を開けた。そんなエリーの手を引き、ギルバートはリンドヴァーンの街を出た。

 

 

 

 そして人通りの多い西部の森林地帯への街道沿いで道を逸れると、三人は人目を避けて空へと舞い上がったのだった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「隠れ家」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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