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リンドヴァーン

78 リンドヴァーン






 リンドヴァーン領は、グレイヴァル領から森や平原を抜けた遥か北東にあり、その領主が住む領都リンドヴァーンの北には山岳地帯、南には大海、西と東には森林地帯が広がっている。

 

 海沿いに築かれた大港湾都市であり、大城塞都市でもある領都リンドヴァーンもまた、グレイヴァル領の領都グレイヴァルよりもはるかに巨大な街だった。

 

 とくにリンドヴァーンの街は海の向こうからやってくる文物や衣装他、様々な見た目をした人々により、同じゼクストフィール王国の街とは思えない異国情緒に溢れていた。

 

 

「おっ、エリー、あっちあっち、ほらっ!猫っぽい人がいる……あ、露骨に見たらダメだよ!」 

 

「えっ!?あ……そ、そうね……うわぁーっ、耳があんな上の方についてるわ!ふっさふさね!……えっ!?わたし達と同じ位置にも耳があるわっ!?」 

 

 

 ギルバートとエリーはお上りさんよろしく、あちこちをキョロキョロと見物しながら、お互いにボソボソと抑えた声量で、興奮と驚きを伝え合っていた。

 

 ケルは目立つのではるか上空で飛行待機中だ。二人は一応、冒険者ギルドを目指して歩いていた。全く進んでいなかったが。


 そんな二人にケルから念話が届く。

 

 

『ギル、エリー、言いたくはないが、一日中そうしているつもりかね?』



 その、心なしか冷たく聞こえるケルの念話で、二人は目的を思い出した。

 

 ……もちろん、覚えてるとも!

 

 そう念じ、ふと横を見れば、エリーもウンウンと頷いている。きっと内心、冷や汗をかいている事だろう。もちろんギルバートもたっぷりと冷や汗かいていた。

 

 ケルが離れてしまうと、ケルとギル、ケルとエリーはそれぞれ念話で繋がれるが、ギルとエリーの会話がケルに届かないのが不便だった。

 

 やはり、さっさと「念話」の魔法石も獲らなくてはならない。あれもこれも、欲しい魔法石ばかりでどれから獲るか、悩ましいくらいだった。

 

 とは言え、そんな悩みは大変贅沢であり、そもそもケルが魔法石の情報を持っていなければ、どれ一つとして獲れないのだが。


 

 

 少し気を引き締めたギルバートとエリーは、珍しい人や物から強引に視線を逸らし、さっさと冒険者ギルドを目指して歩き出す。

 

 ふらふらと寄り道さえしなければ、如何に広い街と言えども、そこまで時間は掛からない。二人はすぐに目的地である冒険者ギルドにたどり着いた。



 冒険者ギルド会館に入ると、グレイヴァルやリオーリアの冒険者ギルドと大して変わらない造りだったので、ギルバートはさっさと目的の人物を探す。

 

 探すのは個人ではなく、ダンジョンシーカー達だ。

 

 彼らは冒険者ギルドで客待ちしている事も多いので、何人かは居るだろう、とギルバートがギルドホール内を見渡していると、端の方に何やら、見覚えのある髭モジャ短躯で筋肉質な男が酒を飲んでいるのが見えた。


 ギルバートがエリーの手を引きながら、男の前に立つと、髭モジャ男が気付いて視線を寄越した。

 

 

「お?アンタ、こっち方面にも来るのか」


「こんにちは。それはオレも、同じことを思ってますけどね。オレ達は今日が初めてです」


 この男からは、あれからも何度かリオーリアで情報を買っていて、一応の信頼が置けるとギルバートは判断していた。


「おぉ、そうなのか。で、情報買うのか?」


「欲しいです。おじさん、こっち方面も詳しいんですか?」


「おじさんはやめてくれ。どう見えてるか知らんが、ワシはまだ三十代なんだぞ?」


 ……それって、おっさんじゃないのか?

 

 思わずそう思い、エリーを見ると、エリーもそんな感じの表情をしていた。

 

「……オイ、お前らな。ワシはドワーフ族なんだぞ?見りゃ分かるだろ?多分、感覚的にはお前らよりちょいお兄さん、ってくらいなもんだぞ?いや、マジで」 

 

 背の低いおっさんだと思ってたら、異種族だった。ドワーフだった。ギルバートはビックリして目を丸くした。

 

「ごめんなさい。異種族の年齢なんて、さっぱり分からないので、おじさんにしか見えませんでした」


 エリーが謝りながら、無意識の言葉のナイフをグサリと刺していく。

 

「……すみません、悪気はないんです」


「まあいいさ。ワシだってお前たちの事は小さい子供にしか見えんからな」


 男はそう言って笑った。


 一応、ギルバートが代わりに謝ったが、本気で気にしている風ではなく、冗談だったようだ。

 

「それはともかく、商談といこうや。ああ、ワシの事はグシックトと呼んでくれ」 


「分かりましたグシックトさん、オレはギルバート、隣はエリザベスです。よろしくお願いします」


「おう、よろしくな」




 そうして、ギルバートとエリーはケルの念話を受けながら、グシックトからダンジョン情報を次々と買いこんでいくのだった。




 ☆

 

 

 

「何?魔法使いが?」



 領主の執務室で執務中だった、リンドヴァーン領の領主、コルベルト・リンドヴァーン伯爵は腹心の側近、ゼファンの報告を受けて顔を上げた。

 


「はい。冒険者ギルドで目撃されたようです。懇意にしているらしいダンジョンシーカーと商談中、お名前を名乗られたそうで、間違いないと、先ほど『耳』達の一人が報告に参りました」 

 

「そうか、可能であれば城に招待しろ。無論、丁重にな」 


「かしこまりました」



 報告を終え、新たな命令を出すため、側近のゼファンが執務室を出て行った。



 魔法使い伯爵には確か、先日、招待状を送っているはずだ。その返信より先に本人が領内に現れたと言う。

 

 しかも供などは連れず、女と二人連れだったらしい。とすれば、招待に応じて来たわけではないのだろうか。ただの物見遊山か。

 

 だとしても領内を通るのであればついでに寄っていけば良いのだ……とすれば、お忍びで妾か何かと逢引だろうか?奴は確か結婚していたはずだな?供も付けず二人きり、というなら正妻ということはあるまい?いや……

 

 リンドヴァーン伯爵は魔法使い伯爵の行動から、それなりの人物像を想像しようとしたが、イマイチうまく形にならなかった。


 ……ふむ。どんな男か、少し興味が湧いてきたな




 リンドヴァーン伯爵は独り言ち、鋭い目つきでニヤリと笑うと、また執務に戻って行くのだった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「ダンジョン巡り」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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