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報告2

75 報告2






 夕方前、領兵を連れ、狼煙の上がっている現場に駆け付けたシャルロットの騎士隊長は愕然としていた。

 

「何という……随分と派手にやったものだ!」

 

 ご領主様から指示のあった、シルバートゥースの本拠地と目されている豪邸の庭には、武装した男達が三十人近く倒れていた。

 

 殆どの者は一撃で体の何処かを砕かれ、戦闘不能になって呻いていた。

 

 部下達に、事情聴取できる状態の者を探す事と、一応、連中に対する応急手当と捕縛を指示し、騎士隊長は側近を連れて豪邸の中へと入る。

 

 屋敷の中も似たような状況だった。壁際に武装した男達が多数転がり、血反吐を吐いていた。

 

 騎士隊長は再び部下に、彼等に対する応急手当と捕縛の命令を下すと、屋敷の中の捜索に移っていった。


 結果、庭と、玄関ホール、二階正面の大部屋以外は全く荒らされた形跡はなく、屋敷内には金や宝石、これから売られるはずだった女たちなど、シルバートゥースが奪った人や物で溢れ、証拠となる資料も多数発見されたのだった。




 ☆




「……分かってはいたが、ギルバートは本当に随分と派手にやったようだね」


 その夜、グレイヴァル領主、シャルロット・グレイヴァル女伯爵は自室で就寝前の報告を受け、軽く頭を抱えていた。

 

 シルバートゥースの支部が壊滅したのは良いとして、見つかった財貨や現在進行中の取引計画を見れば、到底、彼らの本部が大人しく引き下がるとは思えなかった。

 

 更にはシルバートゥースの元支配圏を巡る、他の犯罪組織同士の争いも既に懸念されている。


「……いっその事、伯爵に街全体の大掃除も責任を持って、やっていただきたいほどです」


 シャルロットの腹心のセリオ子爵も、そう嘆息した。


「まあ、それは言うまいよ。事情が事情であるし、大掃除した所で、空いた隙間に新しいゴミが根付くだけなんだ」


「は。承知しております。つい、愚痴を申しました。申し訳ございません」


「良い、良い。お前もいつまでも固い男だ。もっと砕けた話し方にできないのか?」


「シャルロット様に対する尊崇の心が無くなりましたら、そうなるかもしれませんね」


「融通の利かない男だね」


「申し訳ございません」


 シャルロット小さくため息を吐いた。


「……まあ、大方はギルバートに向かうだろうから、残りは出来るだけ後始末してやってくれ」


「は。承りました。幸い、押収した財貨がそこそこございましたので、差し引きしますと、シャルロット様の損失になることは無いでしょう」


 そう言うと、セリオ子爵はシャルロットの命令を遂行するため、傍を離れて行った。



「さて、私はギルバートと奥方の無事でも祈るとするか」




 そう独り言ちると、シャルロットは暫しの間、神に祈りをささげ、やがて静かに就寝したのであった。




 ☆




 夜になり、アンナおばさんの家にエリーを迎えに行ったギルバートは、ふくれっ面でご立腹のエリーに平謝りに謝り倒し、やっとの事で許しを得た。

 

 昼の事はうやむやな感じになっており、ギルバートから蒸し返すことはしなかった。

 

 苦笑するアンナおばさんに礼を言って、エリーを引き取り、ついでに夜ご飯替わりのパンと煮物を二人分、有難く頂戴して、二人で屋敷に戻った。

 

 煮物は当然冷めていたが鍋に移し、ギルバートが「火」の魔法を使って温めた。

 

 温かくなった煮物をエリーが殊の外喜んだため、ギルバートもホクホク顔になり、まだ多少ぎこちないながらも、仲良く一緒に夕食を食べることが出来た。

 

 

 それから寝室に入ると、エリーにシルバートゥース襲撃の話をした。

 

 とは言え、結局、シルバートゥースの支部の支配層の連中からも大したことは聞けなかったが、今回はどうやら彼らの組織の本部のボス、つまり組織の頂点からの命令で動いていたという事だった。

 

 ボスは大物貴族とも繋がりを持っており、明らかに貴族からの依頼と分かる、汚れ仕事が回ってくることも良くあるらしい。

 

 貴族たちは権力で何とか出来る事は自分達で行い、後ろ暗い仕事は彼らのような組織を使って、人知れずやらせるのだと言う。

 

 言葉にすれば同じ「貴族」とは言え、ギルバートやエリーにとっては全く無縁の話であった。

 

 

 その、組織の頂点である本部のボスが、最近食い込み、懇意になったというのが大物中の大物、有名な不良貴族であるアドリアーノ公だった。

 

 王弟であり、公爵でありながら夜毎、彼がお忍びと称して街に繰り出し、高級娼館で遊び耽っている事は、リオール領の領都リオーリアで長く暮らしている者であれば、誰でも知っている話だという。

 

 つまり、証言からまっすぐ推測すれば、彼らのボスがアドリアーノ公から、エリーを攫って辱めるという依頼を受けた、と言うところだろうか。

 

 その理由は、やはりどう考えてもギルバート、というよりギルバートの魔法だろう。

 

 

 こんな穢れた話をエリーの耳に入れたくはなかったが、知らないほうが安全と言うものでもないし、自分達は夫婦であり、冒険者としてパーティの一員でもあるのに、「それでも話さない」という選択肢をギルバートは持っていなかった。

 

 更に、こちらも話すかどうかかなり迷ったが、最終的にギルバートは、シルバートゥースの支部の支配層の連中を始末したことを告げた。

 

 その際、イシュティと他二人をご領主様に突き出したことも話したが、心なしかエリーがホッとしたように見え、ギルバートの心はまた少しザワついた。

 


 その後、作戦会議の予定だったが、二人とも今日は精神的にかなり疲れていたせいか睡魔に勝てず、作戦会議は明日にしようという事になった。


 二人とも、それぞれ思う所はあったが、ベッドに横になると直ぐに眠りに落ちた。




 ベッドの柱に留まり、そんな二人を見ているケルは肩を竦め、そのまま只の鳥型魔獣のように毛づくろいを始めたのだった。



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月~土曜日は毎日1話ずつ、日曜日に3話のペースで更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「報告3」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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