表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/130

男爵達

20 男爵達






 その日、ギルバートとエリーは用を済ませてさっさと領主の城を辞したが、城内では「およそ五十年ぶりの魔法使いの出現」の情報が一気に拡散された。

 

 何せ、普通であれば厳重に隠される類の情報であるにも拘らず、衆人環視の中、堂々と公言されたせいで、驚くほど速やかに、城内で知らぬものは居ない、というほど隅々まで拡散されてしまった。

 

 ギルバートとエリーが城を辞したすぐ後に登城してきたフォルダー男爵とアローズ男爵は、同僚の下級文官たちにあっという間に取り囲まれ、子供達について根掘り葉掘りの質問攻めにあった。

 

 もちろん、二人は何のことだかさっぱり分からず、要領を得ない返答を繰り返す事しかできなかったため、ほどなくして解放されたが、魔法使いがどうしたとか婚姻届けがどうだとか、誰も彼も興奮気味に話していて、訳が分からなかった。

 

 そんな二人へ拍車をかけたのは、レイング男爵だった。

 

「……これはこれはアローズ男爵、此度の事、いったいどういう事か、ご説明願いたいですな。あなたは、モータル子爵とのお約束を反故にするおつもりで?」


「は?い、いや、ちょっと待ってくれ!そう言われても、私には何が何やら……」


「ほう。あくまでもしらを切るおつもりで?先ほど、朝いちばんにアローズ男爵のお嬢様がフォルダー男爵のご子息とご一緒にこの執務室においでになり、フォルダー男爵のご子息はそれは見事な魔法を披露され、お二人の婚姻届けを提出してお帰りになりましたが?」


「えっ?ギルが?」


「はっ?うちの息子が?」


 アローズ男爵もフォルダー男爵も、完全に寝耳に水だったため、間抜けな声で、間抜けな返答しかできなかった。


 アローズ男爵とフォルダー男爵は、お互いを見て、少なくとも相手が自分を出し抜いたとか、騙していたとかそういう話ではなさそうだと判断して、そっと息をついた。

 

「レイング男爵、スマンが一度、家に戻って色々確認したい。悪いがそれまで何も答えられん。フォルダー男爵も、悪いが付き合ってもらってよろしいか?」


「はてさて、何をご確認なさるのやら……まあ、よいでしょう。ご一緒いたします」


「やむを得んでしょうな」


 レイング男爵とフォルダー男爵の合意を受けて、アローズ男爵は急ぎ、自宅を目指して歩き始めた。


 フォルダー男爵も当然のように徒歩で帰途についたが、レイング男爵はモータル子爵家の馬車を用意させている。

 

 彼は僅かの距離でもまるで見せびらかすようにモータル子爵家の馬車で移動するのだ。


 レイング男爵がモータル子爵の腰巾着と言われる所以である。


 三者がそれぞれにアローズ家に到着したとき、ギルバートとエリーはまだ戻っていなかった。




 ☆




 そのころ、エリザベスとギルは城からの帰途、まっすぐ家には戻らずに、平民街と貴族街の真ん中を流れる川のほとりを、手を繋いでのんびり散歩していた。

 

 ひとまずやり遂げたという達成感がエリザベスを言葉少なにしていた。

 

 物心ついたころからの願いであり、最近では、諦めかけていたギルとの結婚も果たせた。

 

 ギルも何を思っているのか、黙ったままだったので、エリザベスはギルの手の温もりを感じつつ自分の思いに耽る。

 

 


 昨日、家に戻る前に、森でギルと色々話をした。

 

 ギルはいつも優しいけど、昨日はいつもの優しさとはちがった熱を感じた。

 

 そしていつもは言わないような弱音も聞いた。

 

 ギルは今度のことがなければ、告白する勇気は無かったと言った。

 

 そして、今の自分には魔法があるから、少し自信が持てたとか、それまでの自分を何のとりえもないとか、エリザベスとは容姿的に釣り合わないとか、そんな風に言っていた。


 けれど、全然そんなことは無い、とエリザベスは思っている。


 昔、エリザベスが平民の男の子達に虐められた時、ギルが助けてくれたことがあった。

 

 ギルは昔から剣術の稽古を欠かさなかったので、平民の男の子達の誰よりも強かったのだ。

 

 そしてギルは、エリザベスを虐めた平民の男の子達に「オレはお前たちを絶対許さない。二度とエリザベスに近づくな。エリザベスの近くで見かけるたびに必ず殴る」と宣言し、その後、今に至るまでその宣言を守っている。

 

 おかげで、ギルは平民の同世代の男の子達に今でも恐れられているのだ。そしてなぜかエリザベスまで。

 

 そんな不器用な所もあったが、強くて優しいギルを、エリザベスはずっと大好きだったのだ。


 一時期、ギルの態度で自信が無くなったりもしたけれど、ギルも自信が無かったんだと昨日知った。

 

 エリザベスは「魔法が無くても、強いところや優しいところだってギルの良いところじゃないの?」と言ってみたが、ギルは「騎士になるなら平民より強いのは当たり前だ」とため息をついていた。




 ……そんなところも好き。顔だって好き。

 

 

 

 そう考えて、エリザベスは思わず赤面する。

 

 そして密かに、ギルを横目で確認すると、改めてしみじみと、結婚できてよかった、そう思ったのだった。



************************************************

本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


************************************************

次回予定「モータル子爵の使い」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ