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モータル子爵の使い

21 モータル子爵の使い






 ギルバートとエリーが手を繋いだまま、自宅付近まで帰ってくると、アローズ家の前の道に、有名なモータル家の家紋のついた豪華な馬車が停まっていた。

 

 モータル家の家紋は平民でも識別できるほど有名だ。

 

 モータル子爵は数代にわたり、領都グレイヴァルの北の平原の街バスーラを預かる代官であり、領主の信望も厚いというが、平民に非常に厳しいことで知られている。

 

 徴税においては、わずかの遅れも誤魔化しも許さず、厳罰を科す。具体的には鞭打ちや過酷な賦役、場合によっては極刑もあるという。

 

 ただ、税率で言えば他の地方よりやや高い程度にとどまるため、そのことで公然とモータル子爵を非難する者は少ない。

  

 さらにバスーラの街で商売をするなら特定の商会に付け届けが必要で、当然それらの商会にモータル子爵の息がかかっているのも公然の秘密だった。

 

 しかしそれも、しきたりさえ守れば商売人にとってさほどの不便はなく、あえて問題にする者もいなかった。

 

 また、モータル子爵は治安維持を建前として私兵を多く雇い入れているが、この私兵の質が悪く、バスーラの街の治安を逆に悪化させているのも有名な話だ。

 

 だが、バスーラの街は王都への要衝でもあるため、領主の領兵も多数配置されており、悪いなりに均衡がとれており、容易に手を入れられない様になっていた。

 

 問題が無いわけではないが、代々の忠臣を排するほどの罪ではない、と、領主は判断しているのだろう。


 その、有名なモータル家の馬車が家の前に停まっているのを見て、エリーが怯えた表情に変わる。

 

 ギルバートは、繋いでいる手を少しだけ強く、ギュッと握った。


「オレも一緒に行くよ」


「ギル」


 エリーはギルバートを見上げて、キッと気合の入った表情をしたあと、頷いて笑った。


 

 

 アローズ家の門をくぐり、小さい庭を通って玄関から家に入ると、一階の応接間の前にアローズ家の者ではない使用人らしき人間が立っている。


 どうやら皆、応接間に集まっているらしい。

 

 ギルバートとエリーが応接間に入ると、中にはフォルダー家からギルバートの両親、アローズ家はエリーの両親と兄、そして知らない貴族らしい男が一人、長方形の三辺に配置されたソファーにそれぞれ腰かけて、二人を見ていた。


「……まずは掛けなさい」


 まず口火を切ったのはおじさん……アローズ男爵だった。その目はエリーに向いている。

 

 ギルバートとエリーは長方形の残り一辺に置かれた、誰も座っていないソファに並んで座った。


「ギルバート、エリザベス、そちらはレイング男爵。モータル子爵の使いだそうだ。……レイング男爵、フォルダー家の嫡子ギルバートと、我が娘のエリザベスだ」


「ご丁寧な紹介、痛み入ります、アローズ男爵。ギルバート殿、エリザベス嬢、お初にお目にかかります。ヘイセス・レイングと申します。以後、お見知りおき頂ければ幸いです」


 レイング男爵が杖を小脇に抱えて立ち上がり、挨拶の後、アローズ男爵、ギルバート、エリーの順で慇懃に頭を下げる。


 ……ずっとこの調子でいくのかな?オレはやっぱり文官勤めは絶対無理だ

 

『主殿。文官、武官を問わず、貴族は前例やら格式やらを重んじるものだ』


 ……聞きたい事があるなら、さっさと聞いて、こっちの言いたい事をさっさと言わせてくれれば、あっという間に終わるってのにさ


『さすがにそれは貴族として雑すぎだ。それより集中なされよ、主殿。既にここは「戦場」ですぞ』


 ケルに注意されて、改めてレイング男爵を観察すると、杖と思っていた物は、サーベルのように緩やかに湾曲した、鍔無しの細長い曲剣だった。

 

 ……まさか、この場でオレを始末すると?

 

『さあ、それはわからんが、貴族は舐められたら終わりということだ。そして主殿は既に彼奴らに宣戦布告しておる』


 ……なるほど、オレが甘かった


 ギルバートは「念動」の魔法を発動し、自分とエリーを守るように魔法の腕を配置した。

 

『主殿、その使い方はうまくない。「念動」はイメージこそ腕の形だが、実体を持たない魔法の腕だ。ゆえに物理的に作用させるには腕の一点に対する意識と集中が必要だ。無意識の場合は掴んでいる手のひらや指になる。何を言いたいかと言えば、魔法の腕では実体の腕の様に攻撃を受けたり遮ったりするのはかなりの熟練を要するということだ』


 ……つまり、防御ではなく攻撃に使うのが良いということか?

 

『その通りだ、主殿』


 ケルの助言を受けて、ギルバートは少し考えて、レイング男爵が剣を抜こうとしたとき、男爵ごと掴んでしまえるように、手のひらでレイング男爵を囲うように配置しなおした。

 

 レイング男爵は何か感じているのか、居心地悪そうに小さく身動きや咳払いをしている。

 

 もし、魔法の腕が見える第三者がこの部屋を覗いたら、さぞかし現実離れした絵面になっているだろう。


 そんなことを考えている間に、おじさんが改めてエリーに説明を求め、エリーの口から今朝の城での状況が語られた。

 

「ギルバート、エリザベスはこう言っているが相違ないかね?」


「はい。エリーの言う通りです」


「君たちは、以前からそういう関係だったのか?将来を誓う仲だったと?」


「いえ。……ですが昔からエリーと結婚したいと思ってました」


「エリザベス、お前もか?」


「はい、お父様」


「そうか……私がもっと早く気が付いていれば、こんな事態は避けられたようだ。済まなかったな、二人とも」


「おじさん」


「お、お父様……」


 ギルバートとエリーはまさか謝られるとは思っておらず、それ以上、二の句が継げなかった。


 そのせいで、次にアローズ男爵が発言したとき、即座に反応できなかった。

  

 

 

「二人には本当に申し訳ないと思うが、この結婚を認めることは出来ん」



************************************************

本日、2話目、ラストです。

楽しんでもらえると嬉しいです。ありがとうございました。


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次回予定「モータル子爵の使い2」

読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

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