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プロローグ3

102 プロローグ3






 アジェンツィアは、ここ最近、ほとほと参っていた。

 

 元々、ファムデミナージと組んで、交互に行っていた監視任務だったが、ファムデミナージがやむを得ない事情の為、監視対象に正体を明かしてしまった。そして監視対象から「次に見かけたら殺す」と脅されてしまったのだ。


 そんなものはただの脅しであり、バレないように監視すれば良いだけだ、と言う意見もあったが却下された。そしてアジェンツィアもそれには賛成の立場だ。


 何しろアジェンツィアとファムデミナージの監視対象は超危険人物であり、有言実行の人である。彼が殺すと言ったら殺す。それは自分達がずっと監視してきたので確信出来る。

 

 そのせいで、ファムデミナージは監視対象に接近できなくなり、監視任務はアジェンツィア一人の担当になってしまった。

 

 すぐにアジェンツィアは増員を希望したが、主席の応えは否。

 

「飛行」の魔法の使い手は、まだ何人か居た筈だが、皆それぞれ、各地の伝令や調査を担っており、主席からは、監視任務にこれ以上、人手を割けないと言われてしまった。

 

 また、件の魔法使いは気が短いため、接近しすぎて気取られぬようにしろ、という指示も受けた。

 

「いや、マジふざけんな!」とアジェンツィアは内心、ブチ切れた。

 

 接近せずに超遠距離からの監視で得られる情報など、たかが知れている。せいぜい現在地を把握し続ける事くらいしかできない。

 

 主席はアジェンツィアに、交代も休みもなく、一人で「それ」をやれと言っているのだ。

 

 アジェンツィアは深いため息を吐いた。

 

 最近では、魔法使いが拠点に居るかどうかを確認しようと、少しでも近づくと、デカい鳥型魔獣が襲って来るようになった。

 

 この鳥型魔獣は件の魔法使いの従魔らしく、デカいくせに物凄くすばしっこい奴で、アジェンツィアの「飛行」の魔法で全力で逃げてもなかなか引き離せない。

 

 少しでも追いつかれると、その鋭くて大きな爪で手酷い怪我を負わされるのだ。

 

 アジェンツィアも剣や投石で追い払おうとしてみたが、かすりもしない。かえってより酷い手傷を負わされるのが落ちだった。

 

 

 

 結果、王宮魔法使いアジェンツィアは、来る日も来る日も、接近して魔法使いの姿を確認する事もできず、ただ追い払われるだけの日々をすごしていたのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

『ふむ、うまく働いている。今のところ、抜けはないようだ』 

 

 

 ギルの魔法具を確認し、ケルは満足げに独り言ちた。

 

 

 春半ば、ギルとエリーが爵位剥奪の上、指名手配された時、まずケルは一人でリンドヴァーン伯爵の城に向った。

 

「認識阻害」の魔法と「消音」の魔法を使い、宝物庫に向ったケルは、「念動」の魔法の指先を駆使して、鍵穴内部のシリンダーを操作して開錠した。


 宝物庫の扉を開けると、当然、誰もいない宝物庫内部には灯り一つなく、真っ暗だったが、ケルはさらに「暗視」の魔法を発動した。 

 

 そして、お目当ての「木魂」の魔法石を発見すると、「念動」の魔法の手に取り、再び宝物庫の扉に施錠して、城を後にした。

 

 もちろん、それは窃盗行為だが、元々はケルの物だった魔法石を不当に奪われたのであり、ただ取り返しただけに過ぎなかった。

 

 たとえそれを手に入れたリンドヴァーン伯爵が所謂「善意の第三者」だったとしても、ケルとしては知ったことではなかった。

 

 人間であった頃、ケルは「大魔法使い」という称号と共に、「ゼクストフィール王国の良識」「善意の体現者」と呼ばれるほど、品行方正に生きていた。

 

 だが、王国に裏切られた時、「善き大魔法使い」は文字通り、死んだのだ。



『ただ、問題はリンドヴァーン伯爵の知るところとなったとき、ギルが疑われてしまう事だが……まあ現行犯でもなければ、証拠もないのだ。知らぬ存ぜぬ、で問題あるまい。その上、既にギルは王国中に指名手配の身だ。今更、一つ増えたところでどうという事はない、と思うしかあるまい。いずれにせよ絶対に手に入れる必要があったのだからな』



 ケルは、ほんの少し後ろめたそうに独り言ちると、魔法石を持ってギルとエリーの元へ帰還した。


 その後、さらにギル達三人は「警報」の魔法石を獲得した。薄い緑の透明な魔法石だった。

 

 王都の西の森林地帯を縄張りにしている巨大蜘蛛が持っていた魔法で、効果範囲内に指定した警戒対象が侵入したことを感知したり、仲間に知らせたり出来るようになる。

 

 

 新たに二つの魔法石を手に入れ、ケルの魔法具講座を受講したギルにより、最初の魔法具、「警報の魔法具」が完成した。

 

 その工程は、まずギルが「警報」の魔法を使う過程を、「木魂」の魔法で魔石に焼き付け、「警報」の疑似魔法石を作る。

 

 材料の魔石は魔獣から獲った、ただの魔石だ。

 

 この疑似魔法石作りは、かなり繊細で難しい作業だったが、ギルはいつも通り、一発で成功させた。さすがである。

 

 次に、本来なら特殊な溶解液に魔石を溶かし、金属に塗布した「魔導線」を作るのだが、一部材料が手に入らない今は臨時という事で、筐体に粉状になるまで砕いた魔石を敷き詰め、魔石と疑似魔導石を埋めるという乱暴な方法で魔法具を作成した。


 この「警報の魔法具」をいくつか作る。作成作業も材料の魔石集めもなかなか大変だったが、大事な作業なので皆でがんばった。


 そして、作った「警報の魔法具」を隠れ家の周りにばらまけば準備は完了だ。

 

 最初は、上手く働くのかと心配していたギルとエリーだったが、「警報の魔法具」は暫くして侵入者を感知し、三人に警報を送ってきた。

 

 ケルは、おそらく侵入者は、アドリアーノ公爵邸で会った女魔法使いと交代した、監視役の魔法使いだろうと推測した。

 

 だが、どうやら新しい監視者の女魔法使いも飛ぶことしかできないようなので、魔法を使うまでもなく、鳥型魔獣の爪で適当に甚振って追い払った。

 

 その後、警報が届くたび、ケルが出動し追い払っていると、次第に侵入者は無くなった。

 

 その段階でようやく、拠点を引っ越した。

 

 最初の隠れ家には、ギルもエリーも愛着があるようだったが、場所がバレているのは問題だ。


 旧グレイヴァルの隠れ家にも「警報の魔法具」をいくつか残し、新しいグレイヴァルの隠れ家の周囲にも「警報の魔法具」を設置した。

 

 新しい隠れ家の場所は、旧隠れ家からそれほど離れていないが、より木々の密度の濃い場所に、出来る限り溶け込み、隠されるように設置した。

 

 たまに思い出したように旧隠れ家に接近する侵入者をケルが出動して追い払う。面倒だが、ケルがそうする限り、監視者はギルとエリーが旧隠れ家に居ると思うだろう。

 

 そしていずれ、ケルが出動し無くなれば、旧隠れ家が空っぽなのは敵にも知れるが、その時には最早、自分達の足取りは追えなくなるだろう。

 

 ギルとエリーはその間にも、複数の隠れ家を用意するつもりだった。

 

 最初に作った三つの隠れ家は、全て敵の知るところとなっているので、残念ながら廃棄せざるを得ないからだ。

 

 

 

 こうして、再び自由に動けるようになったギルとエリーとケルの三人は、まず三つの隠れ家を移転する事から始め、その後も着々と生活基盤を充実させていったのだった。



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本日、1話目。2話更新予定です。

楽しんでもらえると嬉しいです。


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次回予定「春半ば」

読んでくれて、ありがとうございました♪

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