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11.女子との合同訓練で男子のテンションがおかしなことになってるのじゃ

 クラスメイトの嫉妬はますます怨嗟じみてきた。

 いや、まあ、俺の被害妄想かもしれないけどさ。

 ただ、異世界の救世主候補者を集めたようなクラスだから、いじめに遭うようなことはなかった。

 洞察力の鋭い塩が早々にごっちゃんの狙いを見抜いていたようだ。塩は自分たちが強くなれば、ごっちゃんが俺といちゃつく機会はなくなるだろうと主張した。

 そう。それが事実だ。


「そうだよ。そういう理由がなかったら赤井君みたいな冴えない奴を、護国先生が……というか僕達と同年代の女子が特別扱いするはずないよ」


 俺のためを思ってくれた援護の言葉だと思うんだが、妙に黒い刺を感じたのは気のせいだろうか。

 なにはともあれ、さっさと成長して俺から教師助手の座を奪おうとする考えが生まれてきたのだ。

 そのため、クラスメイトの訓練に対する意欲の炎は轟々と燃えている。

 異世界転移訓練学校での生活が始まってから何回目からの夜明けを迎えたとき、誰が言いだしっぺかは不明だが、クラスの全員で寮の周りを走るようになった。

 今日も意気軒昂と朝食前の汗を流している。俺もスキルを使わずに素の体力を鍛えるためにみんなと一緒に早朝ランニングだ。


「赤井を、さっさと乗り越えろー!」


 「赤井を、さっさと乗り越えろー!」


  「おっぱいもみもみ、許せないー!」


   「おっぱいもみもみ、許せないー!」


 この掛け声は、どうにかならないものか……。すれ違うたびに他クラスの生徒たちが、ちらちらと見てくる。

 異世界転移訓練学校に来てから1週間くらい経ってだんだんと分かってきたのだが、全校生徒は三百人くらいいるようだ。俺たちは、ごく平凡な男子高校生クラスだけど、女子だけのクラスもあるようだし、男女混合のクラスもあるようだ。俺たちとは異なる基準で集められたのだろう。

 翌朝、1時間めだというのに全員が授業開始の10分前には体育館に集合して鼻息を荒くしていた。

 なぜか。

 寮の連絡板に「明日は『何処にでもいる普通な女の子』クラスとの合同訓練じゃ。遅刻厳禁なんだよ」と書かれていたからだ。

 俺達のテンションは高い。

 授業開始の時間になり、体育館の重々しいドアがゴロゴロと大きな音を立ててゆっくりと左右に開きはじめた。スポットライトのように光が照らす場所に、ひとりの美少女が現れる。

 日本の何処かの高校が採用しているであろうモダンな制服を初々しく着て、小股でちょこちょこと歩きながら体育館に入ってくる。

 髪飾りに光を反射させながら、長い黒髪がさらさらと揺れる。

 半分だけ出た手で袖を握った小柄な女子が「似合ってる?」と言いたげに、伏し目がちにちらちらとクラスメイト達の様子を窺っている。

 というか、ごっちゃんだ。


「……ごっちゃん、だよ」


 ごっちゃんの挨拶に俺たちは「おはようございます」と返した。体育館に充満した俺たちの雄たけびが、おうんおうんと反響している。

 俺たちのテンションは飼育員に群がるオットセイ並みだ。

 誰かが、オウッオウッと感激の叫びをあげている。

 ごっちゃんはA組以外にも授業を受け持っているらしく、昨日は終日ごっちゃんの授業が無かったのだ。昨日はどこの学校にでもひとりはいるような、禿げた中年の教師が出ててきたから、俺たちは海の底よりもブルーだった。久しぶりに見た美少女は、見るだけで感涙ものだ。

 実戦訓練の増加にあわせてごっちゃんの授業が減少しつつあった俺たちにとって、制服は御褒美だった。ケチャップなんて床を転がりながら「うべべえっ」と涎を撒き散らしている。スカートの中を覗こうとしているのではないだろうか。

 ごっちゃんに続き、続々と女子生徒が入ってきた。30名前後だろうか。俺たちと同じくらいいるようだ。男どもは髪や襟元を整えたり、姿勢を正したりキメ顔になったりと大忙しだ。


「今日は、A組『何処にでもいる普通の男子高校生』クラスと、B組『何処にでもいる普通の女子高校生』クラスとの合同訓練を実施するんだよ」


 確かにと言っては失礼かもしれないが、現れた女子たちはみんな普通の顔つきだ。ごっちゃんのような美少女はいない。

 どの子もクラスの派手グループにも地味グループにも属さないような『普通』としか表現のしようのない女子だ。林間学校のキャンプファイヤー効果があれば、ようやく美少女と呼べるくらいの感じ。

 クラスメイトたちも俺と同じように思ったらしく、鼻息の荒さが落ち着いてきた。

 これは女子生徒にとっても同じだったらしく、部屋に入ってくる瞬間は、みんな目をキラキラさせて笑顔を振りまきながら入ってきたくせして、中に進むにつれて、まるで雲がかかってしまったかのように瞳のキラキラが減っていった。

 しかし、そこはさすがに、互いに高校生。

 露骨な態度に出さないようにしようとするし、年頃の異性の前では良い顔をしようとするので、すぐに両者とも笑顔になった。


「じゃあ、男女1名ずつ名前を呼ぶから、ついてくるんだよ。残りの生徒はドッジボールでもして待っているんだよ」


 そうして、ごっちゃんは2名の名前を呼び、地下へと姿を消した。

 いったい、どんな授業なんだろう。

 俺とは違って他のメンツは授業の内容よりも異性が気になるらしく、ちらちらと視線を交換しているようだ。

 塩なんて女子の列に近づいて何か面白いことを言ったらしく、笑いを誘っている。塩め。変態のくせに、何という恐るべきコミュニケーション能力だ。

 さて、俺はごっちゃんの言うようにドッジボール……は大勢の友達が必要だから無理。ひとりでバスケのシュートでもしよう。

 俺がダムダムきゅっきゅっしていると、横から忍び寄ってきた何者かがボールを奪ってダムダム。


「女子とのトークも楽しいけど、君とはそろそろ決着をつけないとね」


 塩だ。

 女子から「きゃあ。詩音くん、格好良い」という黄色い悲鳴。てめえ、格好つけやがって。女子にいいところを見せたくて俺に挑んできたな。バスケボールで突き指しろよ。


「おいおい、淀校の天才ミッドフィルダーと言われた俺を忘れてもらっては困る」


 醤油が知的眼鏡をキラーンとさせつつ参戦すると「翔勇くん、素敵―!」という嬌声。くそっ。見た目だけはまともだからな、こいつ。


「天才ハスラーとの呼び声も高い俺もいるぞ」


 ソースにも「宗助くん、がんばー!」という応援。ふざけんな。お前たち、いつの間に他クラスの女子と知り合っていたんだよ。


「なあバスケはやめて、ソフトバレーで遊ばないか? ソフトバレーのボールってふにふにしていておっぱいみたいだよな」


 ケチャップも加わってきて両手を回しながら、俺の動きをけん制するディフェンス。

 ……。

 ……。女子の反応なし。

 ああ……。

 なんか気づいたら、俺ひとりぼっちじゃなく、よくこいつらとつるんでいるな。

 こっぱずかしいけど、こいつら、もうただのクラスメイトじゃなくて、友だ――。

「2on2しようぜ」と醤油が提案し「いいね」とソースが賛同、「赤井君、審判お願い」と塩、ケチャップがダムダムきゅっきゅ開始。

 一瞬ではぶられる俺。

 友だ……ち、ではなかったようだ。

 クラスメイトたちは俺をおいて試合を始めてしまった。

 しょうがないよな。奇数になっちゃうんだから。審判だって大事だよな。

 俺は審判を適当にこなしながら体育館の様子を窺った。

 変態紳士に偏重しているA組の中でも特に生粋のイカれたメンツがここに集ったため、残ったメンツの平均値は真人間に近い。

 そのせいか、ちらほらと男女で会話している輪がある。

 地下に続く階段から女子が戻ってきて、次の訓練対象になる2名の名を告げた。

 変態紳士四天王に欠員が出れば俺も2on2に参加できるかと思ったんだけど、なかなか呼ばれない。

 ん?

 試合が白熱してきたころ、何か体育館内の様子がおかしいことに気付いた。なんか華やかなのだ。


「赤井君も気づいた?」


 バスケを中断して塩が話しかけてきた。バスケをしながら周囲を観察する視野まで確保していたとは、なかなかやるな。残りの四天王もやってくる。


「男女1名ずつ呼ばれてふたりが地下に行くのに、戻ってくるのは女子ばかりだよ」


「気のせいじゃ……ないよな」


「うん。女子の方が多くなっているし……。あ、護国先生だ」


 階段から女子生徒とごっちゃんが上がってきた。

 女子生徒は先に訓練が終わった女子が集まっているグループに合流した。

 ごっちゃんは館内を見渡した後、俺たちの方にやってきた。


「次は、刃刀くんの番じゃね。流星も一緒にくるんだよ」


「俺も?」


「うん。ここからはお手伝いさんがいるんだよ」


 ごっちゃんは調味料たちに聞かせたくない内容なのか、俺を少し離れた位置に手招きしてから、背伸びして耳元で小さく話しだす。やばい。ごっちゃんの顔が近くに来たせいで、にやにやしちゃいそうになってしまう。顔を引き締めて、まじめに聞こう。


「強さ順に実習していたんだよ。これからはね、比較的、能力が覚醒しつつある者の順番なんだよ。万が一能力が暴発したときに備えてほしいんじゃよ」


「分かりました。ようやく俺の出番が到来ですね。任せてください」


 ごっちゃん、俺、塩、B組女子の4名は階段を下りて地下へと向かう。

 着いた先は以前、俺とクッコロさんが戦った広間ではなく、せいぜい教室程度の狭い部屋だ。地下なので窓がなく天井も低く薄暗いので、微かに息苦しさを覚える。薄暗い照明にコンクリートむき出しの床……生活感はないな。


「ね、ねえ、赤井君」


 塩が怯えたように声を震わせている。

 理由は分かっているから、聞こえないフリ。


「ちょっと、赤井君。さっき、通り過ぎた部屋」


 あー。あー。聞こえない。俺は何も聞こえない。


「中からうめき声が聞こえてきたんだけど、あれ、上に戻ってこなかったクラスメイトだよね」


 あーあー。聞ーこーえーなーいー。


「ねえ、何で女子だけ上に戻って、男子は地下で呻いているの。ねえ」


 塩がガタガタ言っていたらごっちゃんが、いつものほんわか笑顔で近づいてきた。


「安心するのじゃ。死んだりはせん。みんな無事じゃ」


「そ、そうなの?」


 安心しかけた塩に、俺は容赦なく真実を告げる。


「お前の番からは、万が一の事故に備えて俺が呼ばれたけどな」


「こら、流星。よけいなことを言わないんだよ!」


「いっ」


 尻をぎゅっとつねられた痛みで踵が上がってしまった。


「この授業はな。男子側に多少の危険があるからね。拒否することも可能じゃ。ただ、な。誰も拒否しておらん」


「え?」


「イヤボーンの実演なのじゃ」


「イヤボオン? なんですか、それ」


「ワシと流星は入り口で待機。すると、刃刀と宇佐木ちゃんが狭い空間でふたりきりじゃろ?」


「はい」


 B組の女子は宇佐木というらしい。事前に説明を聞いていたのか、塩に比べるとやや落ち着いた様子だが、やはり、視線は落ち着かず室内を彷徨っている。


「宇佐木は、ほれ、これで後ろ手に縛るじゃろ。脚も縛るじゃろ?」


 ごっちゃんは説明しながら宇佐木……うさぎのような小動物系女子を部屋の奥に連れていき、手足を縛った。宇佐木は立っていられずに、お尻をついた状態で、怯えたように視線をあちこちにさまよわせている。ちょっとちょっと、あれ、スカートだから角度によってはパンツが見えるんじゃないだろうか。


「まあ、簡単に言うとじゃな、刃刀は、ほれ、これで脚を縛るじゃろ?」


「はい」


 ごっちゃんは、塩の両足を縛りつけた。その際、ごっちゃんの頭が股間の近くにある状況に塩が興奮したか、頬を緩ませているのを俺は確かに見た。訓練が終わったらごっちゃんに密告するからな。覚えておけよ。

 というか、ごっちゃん、前からじゃなくて後ろか横から縛ろうよ!


「あとは自由じゃ。5分やるでな。刃刀は、あのいたいけな女子のところまで這っていき、スカートの中を覗いてもいいし、おっぱいモミモミしても良い」


「えっ!」


「えっ!」


 塩だけでなく俺まで驚きの声をあげてしまった。

 やはり女子は事前に説明を受けているらしく、不安げに眉をひそめてはいるが驚いた様子ではない。


「これはな。伯方があそこまで這っていく間に、女子が身の危険を感じて、能力に覚醒するための訓練なのじゃ。下卑た笑いを浮かべる男子が近づいて、女子が、いやああと叫んで、ボーンと大爆発じゃ!」


 いやあと叫んでボーンだから、イヤボーンの訓練なのか。


「女子は基本的に、マヨネーズと石鹸の作り方さえ覚えておけば、あとは運命の女神がいいようにしてくれるのじゃ。じゃが、たまに魔王的な存在と遭遇する場合もあるからの。イヤボーンの能力を秘めている者には、事前に覚醒訓練をしてもらうんだよ」


「それは、両者ともに危険なんじゃ……」


 俺は不安だったが、塩は握りこぶしを掲げて、「やります!」と気合い充実だ。

 さっきまでクラスメイトの苦痛の呻き声を聞いて怯えていたくせに……。


「おい、本当にやるのか……?」


「もちろんだよ赤井君。僕たちも彼女たちも異世界に召喚されたんだよ。1日も早く力を身につける必要があるんだ。彼女だって、異世界で卑劣な盗賊や醜悪なオークに襲われて覚醒するくらいだったら、ここで僕の手によって覚醒する方が安全だよ。もちろん演技だし、スカートの中を覗いたり身体を触ったりしないよ。あくまでも演技で、襲うふりをするだけだよ」


「お、おう……」


 やたらと饒舌で引くわー。


「うむ。では、始めるのじゃ!」


「はい!」


 塩は生き生きとした表情で、上半身だけになったゾンビのようにして、うさぎ系女子へと這い寄っていく。


「や、やだ……やめて」


 宇佐木は本気で恐怖しているようだ。


「宇佐木ちゃんには幻術をかけているから、刃刀くんのことがオークに見えているんだよ! 本気で怯えているんだよ!」


 同世代の女子にガチで怯えられているのに、ニヤニヤ笑みを浮かべならが這い寄って行くクラスメイト。

 なんという地獄絵図ッ!

 頑張れ小ウサギちゃん。


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