6『生物の魔女』
「ラリー、ラリー?大丈夫?」
目を覚ますと、金髪の少女の同色の眼がラリアンを見つめていた。
「うぅ……。お前は、マオ、か?」
「そうよっ。久しぶりね、ラリー」
彼女の表情は心配から安堵、笑みに変わり、溌剌とした声が部屋中に響いた。
どうやら彼女はアテラノと同様に、昔共に戦っていた時と何ら変わらないようだ。
「久しぶり。お前は変わらないんだな」
「そうよ。何も変わんない。変わったのは、ユーとラリーだけ。……ううん。ある意味、ラリーの場合は変わってないとも言えるね」
「そう、だな……」
途端に部屋は静かになってしまい、しばらくの沈黙をアテラノが破る。
「ねえ、ラリアン。あなた、どうしてマオのこと呼んだの?私がたまたまここに来たからって、昔の仲間でも集めようとしてるのかしら?」
「いいや、違う。少しな」
アテラノはラリアンの言葉に先があるのを望んでいたようだが、少々話を組み立てるのに時間がかかってしまったため、ラリアンは黙る。
しかし、マオの方も何事か考えていたのか、明るい声で分かったわ!と叫ぶ。
「あなた、この街を元に戻そうとしてるのね!なら、私、協力するわっ。ヒトも、猫も、犬も、動物みーんな元に戻してあげる!」
マオのその言葉に、アテラノは驚いたかのように目を見開いたが、何かを察したようですぐに通常の顔に戻す。
「ああ。ありがとう。頼まれてくれるか?」
「ええ、もちろん!」
「アテラノは?」
「いいわよ。だって、もう、協力しちゃってるし、詳しい事情が分かっただけで何も変わらないもの。それにほとんど、私の役目は終わってるしね」
アテラノは肩をすくめて事実を淡々と述べる。
ラリアンは全く正反対の反応を示した2人に苦笑いしながら、口を開く。
「2人とも、すまない」
「……。いいわ早くやっちゃいましょう!」
「……」
「最後に猫は欠かせないわね!」
そう言ってマオは可愛らしい猫を数匹生み出すと、腰に手を当て一息ついた。
「ふうっ。これで大体終わりねっ」
ラリアンは辺りを見渡し、すっかり賑やかになった街の様子に胸をなで下ろす。
マオの能力は生物を生み出す事にあるのだが、凄いのはここからだ。
彼女は、ヒトを生み出す時、ある程度の繋がりを持たせた。例えば、家族。そしてまたは友達。
これは、ヒトだけではない。猫なんかでも、この繋がりを作れる。
ある程度の記憶を持たせる事でそれが成し得る訳だが、その記憶の精度が凄いのだ。
一瞬の後に違和感なくそれを作れるマオは天才的だとラリアンは思っている。
「すまない。あと一つだけ、頼まれごとをして貰ってはくれないだろうか?」
「なあに?もう街に必要なものはほとんど揃ったと思うのだけれど」
「ああ、そうだ。そうなんだが、私的にやって欲しい事があってな……」
ラリアンは端的に事情を説明する。
「なるほどねっ。分かったわ。やってみる」
それだけで理解出来たのか、マオは親指を立てる。
「その為には、その人の情報が必要だわ。ラノも協力してくれる?」
「ええ。いいわよ。死者を蘇らせるには、私の知識は必須。仕方がないから協力してあげるわ」
「2人とも、すまないな」
ラリアンは無理難題に応じてくれた2人に感謝の言葉を述べた。のだが……。
「ちょっと、ラリー。あなた、さっきからすまない、しか言ってないわよ。感謝するならありがとう、でしょう?」
マオは、少し怒った風に腰に手を当て、顔を近づけてくる。
──彼女は、優しいし、厳しい。
「そうだな。2人とも、ありがとう」
「それでいいわっ。ほら、手を繋いで」
マオに差し出された手を受け取り、アテラノはその片方の手を取った。
「その人の名前は?」
「分からない。ただ、ご老人だというだけで……」
「もう、あなたほんと他人に興味無いよね。名前ぐらい聞きなさいよっ」
マオは怒ったのか、ラリアンを握っている手の力を強める。
その力の強さに思わず顔を歪めながら、自己反省と謝罪を同時にする。
「す、すまない」
「大丈夫よ、マオ。私がラリアンのその人の記憶で探してみるから」
「うー。ほんと、ラノは優しすぎるわ。頼むわね」
「ええ」
アテラノは静かに瞼を下ろすと、深呼吸をし始めた。
きっと彼女は、知識の大海原からその人を泳いで探しているに違いない。
彼女にその苦労をかけさせてしまう事に少しの罪悪感を覚えながら、ラリアンもあの老人の事を思い出す。
あの老人はこの街で、美しい楽器の音色を響かせた。
残念ながらその音色は、もういないこの街の先住人達には届かなかったが、ラリアン達の胸の深いところまで届いた。
あの音色をもう一度耳にしたい、と思ったラリアンは、マオ達に死者の復活を頼んだのだ。
「見つけたわ。マオ、準備して」
「りょうかいっ」
マオもラノと同じように瞼を下ろすと、何かしら唱え始めた。
「……っ」
ラノのほんの少し前の方に、風が巻き起こる。
そして光が仄かに見え始めると、人の形を成した。
やがてその風が弱まると、その中にはあの老人が驚いた顔で立っていた。
「うん、成功ねっ」




