17『一心同体』
「ルイ、魔法できないの」
「え?」
「リナンのお姉ちゃんが言ってたんだけど、ルイはイメージ力が足りないから魔法はまだ出来ないって」
ルイはどうやら、角で相手の魔法を防ぐ以外、魔法は出来ないのだそうだ。
ルイのそのような言葉が出てきた発端は、「私の一言、ルイも魔法使ってよ」だった。
「じゃあ、ルイが魔法を使えるようにするにはどうしたらいいの?」
「わかんない」
行き詰まって2人で沈黙するも、きちんと考えてくれていたらしいラリアンが言った。
「ナツメのイメージ力をルイに送ればいいんじゃないか?」
「どういう事?」
ラリアンが言うには、ルイに足りないのはイメージ力だけだから、それを私から送れば良いのでは、と言う事だった。
いまいち理解しづらかったが、ひとまず手を繋げ、と言われてしまったので、ルイと手を繋ぐ。
「こう?」
「ああ。それで、ルイ。何か呪文を唱えてみてくれ」
「光の矢よ。放て!なの」
光の矢か。こんな感じか?
間も無く、ルイの繋いでない方の手先から光が生まれる。
光は形を変えていき、ついに矢の形をとった。
「わあ、すごいの」
確かに、私の想像した通りの矢の形をしている。
「ルイは、何もやってないの?」
「うん、なの。ルイは、矢の形なんて想像してないの」
「へえ」
でも、矢の形はルイの言った通りには放たれない。
おそらく、ルイが放つ様子を想像できていないためだろう。
ついでに、矢が飛び出す様子を想像する。
「わあ!」
驚くことに、想像した直後に矢は飛んで行った。
やがて地面に突き刺さり、その身を散らす。
「できた、できたの!」
「やったね!」
ハイタッチをし合い、喜びを分かち合う。
「じゃあ、これからはルイとは手を繋いで魔法を使うの?」
「そうなるな」
うーん。少し面倒臭いが、ルイのためだ。
使いたい、と言った時にでも使わせてあげよう。
そんな私の心情を察してか、ルイが申し訳なさそうにこちらを向いた。
「ごめんなさい、なの」
「ううん。良いの。私は、ルイの喜んでる顔が見たいよ」
「ありがとうなの」
ルイの頭をくしゃっと撫でてやり、言葉を続けた。
「地下の街まで後どのくらい?」
「数日はかかりそうだな」
「じゃあ、のんびり行きますか」
「よいしょ!」
炎の矢を放ち、スライムの中心を射り、スライムは悲鳴を上げその身を溶かした。
ここのところ、スライムにしか遭遇していない。
スライム以外とも戦ってみたいところだ。
「その願いは叶いそうだぞ」
ラリアンが緊迫した声で言った。
どうやら、スライム以外のモンスターが出現したようだ。
「どんなやつ!?」
「大きいの。ウルーだと思うの」
「ウルー?」
聞いたことのない名だ。
ウルー=ウールで、羊と私はみたが、違ったようだ。
「小さいオオカミのことなの」
「えっ」
オオカミか。小さいなら大丈夫かな……?
「来たぞ!」
そのラリアンの声を合図に、森の道を囲う茂みからガサガサとオオカミ達が出てきた。
「わっ」
見ると、よく見るオオカミとなんら変わらない。
姿も、大きさも、鳴き声も。
「ヴゥ……」
こちらを睨んでくるその眼は、明らかに獲物を見つめるそれだ。
「全然小さくないじゃん!」
思わず、2人に対して大声を出してしまう。
その声に反応してか、オオカミ達はより一層唸り声を大きくする。
「ひぃっ!」
「落ち着け、ナツメ!こいつらはこちらが手出ししなければ何もしてこない。ひとまず、こっちに来るんだ。声を出すなよ」
ラリアンに手を握られ、オオカミ達のいない道に避難する。
ルイも同じように避難し、私達はオオカミ達の動きを待つ。
オオカミ達は唸り声を出すのを止め、私達がつい先程まで立っていた道を横断する。
やがて最後の一匹が横断し終え、オオカミ達は消えた。
「ねえ、さっきのがどうやったら小さいって認識になるの……?」
ラリアンがフッと笑い、バカにしたように言った。
「ナツメは臆病だな。あいつらはあれでも小さい方さ。でかいやつはもっとでかい」
それを聞いて私は、息を呑んだ。
想像すると恐ろしい。あのオオカミよりももっとでかいだなんて。
「それより、ナツメ。あいつらと戦いたいと言っていたが、残念ながら叶わなかったな」
ラリアンがニンマリと笑って言った。
ルイも驚いているのか小馬鹿にしているのか──多分それはない──少しトーンを上げて言う。
「お姉ちゃん、あんなのと戦いたかったの!?」
「ええ!嫌だよ、あんなおっかないの!ラリアンも余計なこと言わないでよ」
「はは、すまんな。まあ、そのうちまた別のやつらとも出会うだろう。その時にでもやってみるといいさ」
私の心情はあまり愉快では無いのだが、思考を停止させておく訳にも行かないので、道を進んだ。
「さあ、今日はここら辺にしよう」
そのラリアンの一言で、私達の旅路は一時休息をとることとなった。
森を出た草原のどまなか。ラリアン曰く、ここならモンスターが接近してきても気付きやすくていい、との事だ。
「それは良いんだけど、寝る場所とかご飯とかどうすんの?無くない?」
「なく無いぞ。私が創ればいい話だからな」
「あはん」
そう言えばそうだった。あまりに現実的な話で無いので、すっかり忘れていた。
確かに、ラリアンの創世魔法を使えば何でもすぐに出来てしまう。
まさに万能魔法だ。
「じゃあ、このくらいのでっかーいお家創ってよ」
そう言って、腕をいっぱいに広げる。
すると、ラリアンは困ったような顔をして、
「そんなに大きいのは無理だよ。私のオドが切れてしまう。第一、明日になったらまたここを離れるんだから、そんなに大きいのは必要ないだろう」
「ああ、そっか」
残念ながら叶わなかったが、その代わり、ラリアンは私の想像する通りの家を創ってくれた。
白く塗られた扉を開け、中へ入る。
すぐそばにベッドとキッチン、扉があり、少し手狭だが、なかなかいい部屋だ。
「わあ!ベッドだ!」
初めてみるベッドに、子供のようにはしゃいでしまう。
ベッドに飛び込み、掛けてあった布団に包まってゴロゴロとする。
「どうしたんだ、ナツメ?まるで子供のようだぞ」
「ごめん。初めてなの、ベッド」
「ルイもー!」
ルイも隣のベッドで仲間に加わり、一緒にゴロゴロする。
今まで布団でしか寝たことがなかったから、初めての弾むベッドに心を踊らせる。
そして、ラリアンは呆れたようにため息をついた。
「はあ……」
「ところで、地下の街ってどんなとこなの?」
少し気持ちが落ち着いたところで、ベッドに座り、談笑を始める。
内容は、今言った通り、次に行く地下の街についてだ。
「地下の街はだな、聞いたところによると、中央の街に続く大都市らしい。と言っても、中央の街のように高層住宅はなく、建ち並ぶのはせいぜい2階建ての建物ばかりで、1層ごとの高さも低いそうだ」
「ルイもなんか聞いたことあるの!たくさん人が住んでて、ほとんどのお家がお家なんだって」
「ん?」
──お家がお家とはなんぞや。
「あぁ、沢山の建物がある中で、殆どに人が住んでいる、と言う事だと思うぞ。多分。お店が少ないと言う訳ではなく、建物が異常なくらい多いんだ」
「へえ。それだけ人が住んでるって事だよね」
「うんうん、なの」
どうやら、そう言う事らしい。
でも、どうしたらそれほどの数の層を作り上げることができたのだろうか。
想像してみても、人の手では絶対に無理だとしか思えない。
「もちろん、地下の街は人が作ったものではないさ。我々、魔女の手によって作られたんだ」
「我々?」
「いっぱいいるの?」
ラリアンの言葉にルイと同時に反応する。
「ああ、そうさ。私も合わせて計4人。所在は知れないがな」
「えっ、でも、ルイ、そんなお話、本で読んだこと、ないの」
「本には載っていないな。私も、何故私以外の魔女が本に記されていないのかよく分かっていないんだ」
2人だけで話が続く。正直、何を言っているのかよく分からない。
「あの、私、ついていけてないんですけど」
「すまんな。今、説明するのは長くなるし、まとまっていないからまた今度折を見て話すよ。今は魔女の話より、街の話をしよう」
──断られた。
あまりないことなので、少し突き放されたように感じたが、別に教えてくれない訳ではないので、彼女のことは責めない。
「ねえ、私、地下の街に着いたら洋服買いたいなあ」
「ん、何でだ?」
「だって、ずっとこの服のまんまなんだもん。いくら洗ってるとはいえ、そろそろ別の服が着たいよ」
私は、初めて来た時に着ていた服から1度も変わっていないし、ラリアンもルイも服は変わっていない様に見える。
「そうか。私は別に気にしていなかったが、確かに服を変えてみるのも気分転換にはいいかも知れないな」
「ルイも、別に行ってもいいの」
「2人とも、ありがとう」
2人の許可を得、地下の街に着いたら服を買いに行くこととなった。
そして、丁度長旅に耐えかねたらしい私とルイの腹の虫が同時に鳴った。
「ごめん、お腹空いたみたい」
「ルイも」
これもまた同時に私とルイがお腹を押さえる。
ラリアンもお腹を押さえ、
「それじゃあ、夕飯にしようか」
と言った。
「あれ?でも、ご飯なくない?」




