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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第一章 『自分探しの旅』
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10『役立たず』

「やばっ……」


爆発に巻き込まれ、体が勢いよく後方に吹っ飛ぶ。

もともと体育会系ではなかったから、急な激しい動きに対応しきれず、受け身も取れないまま地面に叩きつけられる。


──痛い。

今まで感じることの出来なかった痛みだ。

息が詰まって立ち上がれず、体を情けなく伸ばしたまま宙を見ると、燃えた矢が降ってくるのが確認できた。


「ひっ」


──やばい。逃げられない。

火の矢で死ぬってどんな感じなのだろうか。痛い?……当たり前か。

──死にたくない死にたくない死にたくない。


「危ないっ!」


どうやら私は寸前で死の淵から掬い上げられたようだ。

腕をだらんと垂らしたまま私を抱えている人を確認する。


「ルイ……ごめん」


ルイはまっすぐ前を向いたまま、


「悪いのはお姉さんじゃないの」


と言った。

その後に会話は続かない。何を言えばいいか分からなくなったからだ。

私を抱えているのに軽快な動きで走るルイは、敵からなるべく距離をとっている。

どこへ向かっているかは、前がよく見えないので分からない。


今現在、敵からの攻撃はない。

おそらく、リナンやラリアン、マスターが必死に止めてくれているのだと思う。


「お姉さん、降ろすよ」


ルイの腕から優しく解放されると、私は背中に冷たさを感じた。

辺りを見回すと、石で出来た物が見える。

どうやらルイは、私が初めに目覚めた遺跡に私を降ろしたらしい。


「ありがと……」


「元気になるまでここで待ってて、なの。でも、次はもう助けられないかも知れないの」


見ると、ルイの体はもうボロボロだった。

脚からは血が出ているし、白いワンピースも髪の毛も所々破けていたり、焼けていたりしている。


「どうして……」


「ルイはお姉さんも、この街も守りたい。ただそれだけなの」


「ごめん……」


ルイは振り向かずに走り去ると、敵のところへ一直線に向かった。

──情けないなあ、私。


『特殊能力を授けるので、2度目の人生、思いっきり楽しんで下さいね』

そう言われたのに、襲われて守られて、何も出来ないままだ。

特殊能力とやらもよく分かっていないし、まともに使えてさえもいない。


──こんなのでいいのか、私は。

何にも出来ないまま、皆に頼って、ただ助かるだなんてこと、皆が許すのか?私自身は?


「くっ」


打ち付けた背中が痛み、息を荒げる。


「わた、しはっ」


──いつまでも役立たずのままだ。






『夏目さん、起きてください。もう終わりますよ』


頭に直接響くその声に、私は驚いて目を覚ました。


「女神ですか?」


『ええ、女神です。そんなことより、夏目さん。早く起きてください。情けないですよ』


「そうですよね……。情けないですよね」


──そうだ。私は情けないやつだ。

寝ぼけ眼をこすり、上半身を起こす。

未だ痛む背中をさすっていると、女神が言った。


『そんな落ち込んでる場合じゃありませんよ。あなたの名誉挽回のチャンスはもう無くなりつつあるんですから』


「えっ、てことは……」


『ええ。あなたの仲間が優勢ですよ。特に、魔女の力によるものが強いみたいです』


「ラリアン!?」


戦闘音らしき音がする方向を振り向くと、ラリアンが勇猛果敢に何かを振り回して戦っていた。

先程までは防御一線だけだったから、意外な戦闘方法だ。

その戦闘に敵は守るだけでしか出来ていない。そろそろ終盤であろうことが予想できた。


「私は……」


『何かしたいんですか。何かできると思っているんですか?この世界に来たばかりのあなたが?……馬鹿馬鹿しいですね。誰かの役に立ちたいだなんて言う、あなた達の考えは、私には到底理解出来ません』


「……女神にはわかんないよ」


うずくまったまま、一人呟く。

──自分にも自分がわからないくせによく言うや。

でも、何かの役に立ちたかった。守られたままは嫌だった。


『そんなに言うんでしたら、今からでも加わったらどうですか?ウジウジいじけてたって、なにも変わらないままですよ』


「でも……」


『早く行って来てくださいよ。変わりたいんじゃなかったんですか?』


「あ……」


声しか聞こえないのに、女神が苛立っているのが分かる。

でも、どうしたらいいのか分からない。

変わりたいくせに、その方法が私には思いつかない。


『はあ……。仕方ないですね。今回は特別に女神である私が力を貸してあげましょう』


「えっ」


『さあ、行ってきてください。あなたはただ向かうだけでいいです。私がサポートしましょう』


その声と同時に背中の痛みが引いていくのを感じ、私は不安ながらも立ち上がった。


『さあ、急いでください。間に合わなくなりますよ』


「ありがとうございます!」


せっかくもらった機会だ。利用しなければなるまい。

私は軽く駆け出すと、戦っている彼らに声をかけた。


「遅れてごめん!私にも戦わせて!」


「待っていたぞ、ナツメ」


ラリアンは振り回す手を止め、こちらを向いた。

その隙を見たのか敵は握った拳を彼女に向ける。


「あぶなっ」


『ネロ・アスピダ!』


そう女神の声が聞こえたかと思うと、私の口も勝手に動き、同じ言葉を唱えた。

そしてその途端、ラリアンに向けられていた拳の前に青い障壁が生じ、拳から彼女を守った。


「すまないナツメ、油断した!」


「ううん!」


正直、何が起こったのか全く分からなかったのだが、結果オーライということで気にしないこととする。


『フォス・レプティベローナ!』


またまた口が勝手に動き、それと同時に光る細いものが敵へ向かう。

どうやら敵には効かなかったようだが、そこからがもう地獄だった。

勝手に体のいろんなところが動いて、全く知らない単語が私の口から発せられ、敵の攻撃も何度も受けかけた。

殆どの攻撃が敵には効かないし、体力も尽きかけていたしで限界だったところ、一つのラリアンの行動でそれが一転した。


「おい!私もいることを忘れるなよ!」


そう言った彼女は、手に持っていた黒い何かを敵に向かって振り回し出し、敵もそれを必死に避けていく。


「いやあ、厄介だね。君のそのカタナという奴も厄介だが、彼女の全属性魔法も危うい。そろそろからくりが見破られそうだしね」


避けながらも冷静にそう吐く敵は、私の方をチラチラとみる。

私もようやく動きが止まったので、彼らが戦っている様子を静観していると、早くもまた口が勝手に動いた。


『スコタディ・ビレイド!』


一瞬、何が起こったのか分からなかった。

時がゆっくり進んだかと思うと、ラリアンがすぐさまその場を跳び去り、敵が何かを唱えるような口の動きをした。

しかしそれは間に合わず、私が知らぬ間に生み出した。黒い何かが彼を引き裂いた。


「ぐっ」


決して冷静とは言い難いうめき声が彼の口から発せられると、彼は後方に吹っ飛んだ。

そう、あの時の私のように。

私は無意識に彼に近づくと、しゃがみこんだ。


「いやあ、まさか君にやられるとはね。まだ未成熟で、まだ弱いと思っていたんだけれどね。まさかあんな風に動けるなんて」


「……」


私はなにも話さない。

また手が勝手に動いたと思うと、その手は地面について、口から全く意味の分からない術式が発せられた。


『スコタディ・トゥリイパー』


敵の体の下に黒い穴が広がる。


「いやあ、今回は惨敗だ。参った。……でもまた来るよ。その時のために、僕の名前を覚えておいてくれ」


「……」


「僕の名前はカオス。主から授かった名さ。じゃあ、またね」


まるで友達との別れ際かのように彼は軽く別れの言葉を述べると、彼は黒い穴の中に消えた。

──カオス、か。和訳は混沌だったか?どうしてその単語がこの世界に存在しているのだろう。

もしかして、この世界に干渉した、私と同じような境遇の人がまだいるのか……?


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