15-03 トルメキア/錬成の勇者
僕……ユウキ・サクライは、アヴァロンの王であるユートの命令でトルメキア王国へと向かった。同行者はマナ・エルザ・マリアと、ユートの婚約者の一人であるリインさんだ。
トルメキア王国は僕達もまだ行った事が無い国なので、隣国であるユエル王国に転移した。
「よくぞ参られた、アヴァロンの勇士達。こんな事態でもなければ、ゆっくりして行って貰いたいのだが、そうもいくまい」
出迎えてくれたのは、ユエル王だ。ユエル王、凄く良い人だよね。
「お心遣いだけ、ありがたく。この事態が収束したら、改めて訪問させて頂きます、ユエル国王陛下」
リインさんがユエル王にそう返す。堂々としていながらも無駄のない立ち振る舞いは、流石だと思う。
「トルメキア国境付近への転移魔法陣がある、活用してくれたまえ。おい、皆様をご案内せよ」
「かしこまりました、陛下。皆様方、僭越ながら私がご案内させて頂きます」
側近らしき騎士が、僕達を先導するように歩き出す。
「それでは、陛下。御礼は後日改めて」
「うむ、健闘を祈っている」
ユエル王に一礼して、僕達は案内の騎士に続いた。
騎士団の詰め所の脇、守りの固そうな建物の中に、その部屋があった。床に大きな転移魔法陣が描かれている。
既に、魔導師達によって魔法陣に魔力を注ぎ込んでいるようだ。
「皆様、ご協力に心から感謝致します」
リインさんの言葉に、会釈だけで返す騎士達や魔導師達。
「でも、トルメキア王国は何でこんな事をしたのかな。世界同盟に加盟した国なのに……」
マナの言葉に、僕は予想を口にする。
「あの王様は、世界同盟に加盟してからはすごく協力的だったと感じたよ。それはユートも解っていたし。でも……王以外はと言われたら、解らない」
僕はトルメキア王国内で、アヴァロンや世界同盟を快く思わない者達による、クーデター等が起こったのではないかと予想している。トルメキアは商業で大きくなった国家らしいし、利益に目が眩んだ者達がそういう暴挙に出た可能性も大いに有り得るんじゃないかな。
それを説明すると、皆も頷いてくれた。
「確かにねー、ユート兄の遺失魔道具はどれも喉から手が出る程、欲しい逸品ばっかりだろうし」
「奪って根こそぎ手に入れようって? 馬鹿よね、ユートを敵に回す事のリスクに思い至らないのかしら」
全くもって、エルザとマリアの言う通りだ。ユートは身内に優しく甘い代わりに、敵対者へ容赦はしない。
「ユートさんは、自分の身内を守る為……大切なものが傷付けられないようにする為に、あそこまで苛烈な行動に出るんだと思います」
「うん、僕もリインさんと同じ気持ちだよ……だからこそ、トルメキアが敵か味方かは、見定めなければならないね」
全てを敵として断じるのは早計だと思うからさ。
「皆様、準備が整いました!」
「ご尽力に、重ねて感謝致します」
リインさんに倣って、僕達も騎士や魔導師達に一礼する。
「皆様、ご武運を!」
敬礼で僕達を送り出す騎士達にもう一度礼を伝えて、転移魔法陣に入る。
ここからが、本番だ。
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転移した直後、僕達は変身状態で魔力駆動二輪を駆使してトルメキアへ向かう。
トルメキア王国の王都・レナルードは喧騒に満ちていた。王都の中から、兵士達の怒声が聞こえる。
「アヴァロン王国は暗殺者を送り込み、我等が王を殺害した! これは報復である!」
「民衆よ、立つのだ! 王の無念を晴らす時! 今こそ世界を統べる時が来た!」
うわぁ、最悪の事態らしい。
そして、物見の兵が僕達に気付いた。魔力駆動二輪は目立つからなぁ。
「アヴァロン王国の侵略者が来たぞ!」
「迎え撃て! たった五人だ、蹂躙しろ!」
溜息を吐くリインさん。
「予想ですが、内部に王の排除を目論む輩が居たようですね。その罪をアヴァロンに擦り付けて、侵略行為を正当化する所までセットで」
「シナリオがお粗末過ぎるわ。普通に虚言だと解るんじゃないの?」
「得られる利益が大きいと踏んだんでしょう、トルメキアは利益重視の国ですから。まぁ……損得勘定が正常に出来ない者が描いたシナリオですけどね」
全くもって、同感だね。
「それでリインさん、どうしますか?」
「どうすべきだと思います、サクライ侯爵?」
そう来たか。まぁ、僕も一応は考えてはいた。
「最大限、殺さないで無力化ですね。こちらの正当性を主張する為にも、侵略ではなく事態の収束のために行動していると見せ付ける必要があります」
僕の言葉に、リインさんは満足そうに頷いた。
「同意見です、流石はユートさんの右腕ですね」
「まだまだ未熟ですよ、僕は。それじゃあ……やりますか」
魔力駆動二輪を止め、王都の外に陣取る事にする。王都内に入るのは、あちらの戦力を無力化してからだ。
ユートから渡された新たな魔導通信機・円卓の絆を操作する。まさか、これに拡声の魔法まで付与してるなんてね。
『こちらはアヴァロン王国の勇者ユウキ・サクライ。我々は戦争を望まない、貴国を侵略するつもりもない』
『アヴァロン王の第四王妃予定者、リイナレイン・デア・ヴォークリンデです。剣を収め、対話の席に着く事を望みます。貴国の王を殺害したのは我々ではありません、その証拠を提示する用意があります』
え、あるの? 拡声の付与効果を切って、リインさんに目で問い掛ける。
「いえ、ユートさんなら出来そうじゃないですか」
あ、そういう……つまりはハッタリか。
『トルメキア王国の民よ、騙されるな! このフェムトセル伯爵が、アヴァロンの暗殺者を目撃したのだ! アヴァロン王国が我が国を侵略しようとしているのは明白だ!』
あれ、拡声の魔法……? あぁ、そういえば各国の王には、マイクを渡したってユートが言ってたな。
それにしても、フェムトセル伯爵……? 聞き覚えある気がする名前だ。
「フェムトセル……確か、遺失魔道具の製法を聞き出そうとしていたエルフ族だっけ?」
あぁ、世界会議にも来ていたね。何か、真相を知っていそうだなぁ。どれどれ……。
「……あー、OK。リインさん、証拠を提示できます。フェムトセル伯爵の称号に、”王殺し”やら”謀反者”やらが増えてます」
マップと解析、とても便利だね。流石はユートの作った遺失魔道具だよ。
「成程、ユートさんの遺失魔道具狙いですか」
エルフ族は魔法技術にうるさいので、遺失魔道具や未知の魔導具には目の色を変えるという話だ。
ユートに製法を教えろと迫って断られたから、今回の件を思い付いたんだろうな。
更に、フェムトセル伯爵がとんでも無い事を言い出した。
『勇者よ、ヴォークリンデ公爵令嬢よ! アヴァロン王は、勇敢なる勇者や、親愛なる皇国の姫君を騙しているのだ! 我が元に降れば、悪いようにはしない事を約束する!』
リインさんや僕達勇者を、自分の下に引き入れようというつもりだろう。更にフェムトセル伯爵は、言葉を続ける。
『これ以上、君達が奴に騙されるのを見過ごす訳にはいかぬ! 我が君達を救おうではないか!』
『黙れよ』
拡声で王都全域に届けられた僕の声は、自分でも驚くくらいに冷え切った声だ。それも仕方ないだろう……こいつの中身の無い、薄っぺらい言葉は聞くに耐えない。
『我が王への侮辱、看過しかねるぞフェムトセル伯爵。アヴァロン王国に属する勇者として、そしてアーカディア島の西方を預かる侯爵として、貴殿の発言を否定する』
僕の発言に、同行している皆が驚きの表情を見せる。こんな口調で話す事も、こんな強引な話の進め方も、これまでした事ないから、仕方ない。
『僕、サクライ侯爵はアヴァロン王より、トルメキア王国に対する対応を一任されている。これより、アヴァロン王国へ攻め入ったトルメキア王国に対する反撃を敢行する』
『正気か、勇者ユウキ・サクライ! たかが五人で何が……』
『黙れと言った』
たった五人で反撃も何も無い……普通ならね。でも、僕達アヴァロン王国はあいにく普通じゃないのだ。
『無論、一般市民や降伏する者に手は出さないと誓おう。ただし、アヴァロン王を侮辱したフェムトセル伯爵は別だ……だが、一度だけチャンスを与えよう』
ユートに倣って……少し、派手にやる事にする。僕もだいぶ、彼に感化されているみたいだ。
『証拠は掴んでいる、フェムトセル伯爵。トルメキア王を殺害したと認めるか、認めないか……今すぐ答えろ』
僕の言葉に、王都内が更に騒がしくなる。
今まで、彼等は”アヴァロン王国の暗殺者が、トルメキア王を殺害した”と信じていた。しかし、僕の”トルメキア王殺害の犯人は、フェムトセル伯爵だ。証拠もある”という言葉。どちらが真実なのか、戸惑っているのだろう。
『ふざけるなっ、何が証拠だ! もう良い、たかが五人だ! そいつらを殺せ!』
予想通りの反応だ。予想通り過ぎて、笑えてくるよ。
『貴殿の運命は此処で決まった。手加減して貰えると思うな』
ここからは、戦争だ。
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僕達は王都レナルードに向けて、歩いていく。
「しかし、ユウキさんがここまでするとは思いませんでしたね」
「確かにそうだね。ユウキ、どうして?」
リインさんとマナが、不思議そうに僕を見る。
「決まってるさ、ユートとアヴァロン王国を侮辱されたからだよ」
その言葉に、皆は目を丸くしていた。
自分でもここまでムカつくとは思わなかったし、ここまで強硬手段を取るとは思わなかった。
昔は事なかれ主義というか、諦めていたというか……立ち向かおうとか、そういう意思は無かったのにね。それは、大迷宮攻略とかマナの加護とかで強くなれた今も変わっていないと思っていた。
でも、蓋を開けたらこんな感じだ。どうやらユートもアヴァロン王国も、僕の中では汚されたくない大切な存在になっていたらしい。
「ふふっ……今のユウキ、格好いいわよ」
「惚れ直したよ! ユート兄に負けないくらい格好いい!」
「それは言い過ぎ。さぁ、来るぞ」
フェムトセル伯爵は絶対に許さない。
王都の門は閉ざされ、城壁の上で魔法を詠唱する兵士達が見える。
「僕が先行する、皆は後に続いて」
その言葉と同時に、宝物庫の指輪ではなく”無限収納庫”から大量の武器を取り出し……展開する。
「こ、これは……!?」
「武器が……浮いて……」
そう、僕達の周囲に武器が大量に浮かんでいる。
”力”の根源魔法による、念動力。ユートが遺失魔道具にした不可視の手と似たようなものだ。ただ、彼の発想とは違う。
「ユートほどじゃないけど……派手にいこうか」
展開した武器を、城壁に向けて射出する。それらは、戸惑う兵士達に飛来し……そして、命中する。
「ぎゃあぁぁっ!?」
「い、いてぇぇっ!!」
「何が、一体何が……っ!?」
一瞬で、城壁から敵の姿が消えた。
「な、何!? 今の何っ!?」
「い、一瞬で殲滅……」
「ユウキ、今のってファンネル!?」
「……ユウキさん、貴方……」
あの日ユートが僕に向けた、あの言葉。
”自分の持ち味を見つけろ”。
その言葉が、ずっと心に刻まれていた。
錬成魔導師は、付与魔導師と同じ非戦闘職だ。
ユートは、多彩な遺失魔道具という”自分の持ち味”で前評判を覆し、ここまで強くなった。そんな素晴らしいお手本が側にいるのだ……僕が努力しないわけにはいかない。
錬成魔法で武器を作る事で、手数は確保した。しかし、まだ足りなかった。
武器はあっても、地力が足りない。剣術などの武術系に適性がない。そちらを習得するのは、今後の課題に回した。
必要なのは、今。手持ちの材料で実現できる、自分だけの力。ユートの遺失魔道具に頼らず、自分単独で確立できる力。
僕は試行錯誤を重ね、力の根源魔法を使って、それを実現した。
「錬成魔導師と侮るなよ、トルメキア王国。僕は最強の付与魔導師の右腕……錬成の勇者だ」
更に、上空に持ち上げた錬成武器を射出する。固く閉ざされた王都門を、錬成武器の斉射で破壊する。
更に、王都内から武器を構えて駆け出す兵士達に、錬成武器を射出する。狙いは足だ。可能な限り殺す気はない。
「……出番ないなぁ」
「ユウキのコレ、集団でも圧倒できるみたいだからね」
エルザとマリアに苦笑する。
「正面は請け負うから、横や後ろはから来る奴らはお願いね」
門を潜ると、殺気立った兵士達が襲い掛かって来る。
「道を開けろ、用があるのはフェムトセル伯爵だけだ」
「ほざけ、侵略者め! 伯爵様の下へは行かせん!」
道を開けないなら、押し通る。射出した剣が、兵士の右足に突き刺さる。
「いでえぇぇっ! 足がっ足がぁっ!!」
エルフってイケメンが多いんだけど、涙と鼻水で台無しになっているね。
「この……っ!」
「たかが五人だ、物量で……!!」
「物量? これかな?」
上空に展開させていた武器が、雨のように降り注ぐ。
「……な、なっ……!!」
唖然とするトルメキア軍に向けて、声を張り上げて宣言する。
「トルメキア王を暗殺したのはフェムトセル伯爵だ。アヴァロン王国は、侵攻してきたその真意を問い質しに来ただけ。故に、貴殿らに恨み辛みは無い。道を開けろ、殺す気は無いが当たりどころによっては大怪我では済まないぞ」
僕の言葉にどうすべきか迷う者、しばし考え道を開ける者、最初から道を開ける気が無い者に分かれる。
「全員は納得して貰えないとは思ったけど、予想よりも多かったな」
そう言いながら、僕は無造作に歩き出す。無限収納庫から、更に武器を取り出して展開させると、多くのトルメキア軍が顔を青褪めた。
「うおぉぉ……ウガァッ!?」
正面から斬り掛かろうとした兵士の足を、剣で撃ち抜く。その光景に、他の兵士達がジリジリと後退する。
そして、歩み寄る僕に合わせて後退していた兵士達が、左右に分かれて道を開ける形になった。その間を歩いて……。
「馬鹿め、この距離なら……!!」
「死ねえぇっ!!」
「はあぁぁっ!!」
左右と背後から襲い掛かる兵士達。馬鹿はそちらだ。
「この距離が、何だって?」
右腕のガントレットで振り下ろされた剣を防御したマリアが、獰猛な笑みを見せる。
「な、この……がはぁっ!?」
左ストレート、良いのが入ったね。
「……はぁ、折角ユウキが見逃してあげたのに」
身長百センチメートルくらいのエルザが、兵士の繰り出した槍を掴んで離さない。
「離せ、小むす……メエェっ!?」
斧の腹部分で顔面を殴打された……斧でハエ叩きしたみたいなもんか。
後ろは複数名の兵士が襲い掛かって来たのだが、こちらも中々に酷い有様だった。
「折角だから、滅多に喰らえない雷属性魔法をよーく味わってねー? ”雷の矢”!」
詠唱省略による雷の矢の乱れ撃ち。接近する事も適わず、感電して倒れていく兵士達。
死屍累々、いや一人も殺していないけど。
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兵士達を蹂躙し、僕達は王城に辿り着いた。
「くっ……こ、この……侵略者がぁっ!!」
玉座の前に立ち、顔を真っ赤にしているのがフェムトセルだった。その周囲には、フェムトセルに同調する貴族や兵士達が集まっていた。
「警告はしたはずだ」
錬成剣を撃ち出せば、あっという間。貴族も兵士も、悲鳴を上げながらのたうち回る。
殺しはしない、手加減はしている。貴族共には剣の柄で、兵士達は刃で攻撃した。
「な……なっ……!!」
残るは、フェムトセルだけ。
怒りで腸が煮え繰り返るかと思いきや、僕は至って冷静だった。
「うちの王様風に言えば、スリーアウトだ」
錬成剣を三本展開する。まずは一本。
「ぎゃあっ!?」
右肩に突き刺さる剣。
「自分の仕える王を裏切り、その命を奪った事」
そして、二本目。
「ユートに罪をなすりつけ、侮辱した事」
「ぐはぁっ!!」
左の太腿に、突き刺す。これで、トドメだ。
「そして、不当な主張でアヴァロン王国に攻め入った事」
「や……やめ……っ!!」
「悔い改めろ」
狙いは、腹。
……柄で、腹を強打する。
「……ユウキさん?」
本当は、ここで殺しても良いんだけどね。
「公式の場でこいつの罪を暴いてから、トルメキア主導で処刑する方が良いでしょうね。その方が、説得力があります」
僕の言葉に、リインさんは黙考して、笑顔で頷いた。




