15-02 逃亡者/襲撃者
これまでのあらすじ:クロイツ教国と事を構える事にしました。
翌朝は、やはり雨が降った。生憎の天気ってやつだね。
さて、天候はさておいて。僕達は早速、クロイツ教国へ宣戦布告をする為の行動を起こす。
まずは世界の窓を使い、同盟加盟国へ連絡をしよう。トルメキア王国を除いた全ての国家元首が、通信に応じた。
アヴァロン王国はクロイツ教国に対し、宣戦布告をする旨を伝えた。だが、予想外の報告がシンフォニア王であるヴェルデから齎された。
「はぁっ!? 勇者フミナが失踪した!? しかも……ノブヨシを、殺害した容疑!?」
『うむ……』
なんと、シンフォニア王国の勇者であるフミナ・ヌマジリが、昨夜から行方不明なのだという。その上、同じ立場であるノブヨシ・ナルカミが王城の廊下で死亡しているのを、巡回中の兵士が発見した。
死因は胸に突き刺さった短剣……これは、フミナの所持品だったらしい。
「どう思う、ユート君」
マナの質問に、僕は考えられる可能性を挙げてみる。
「一つは本当にフミナがそれを行って逃走した……二つ目はフミナが拉致され、フミナの犯行に見せかけようとした何者かの偽装じゃないかな」
『……二つ目を信じたいところだが、な』
ヴェルデの言わんとしている所は解っている。僕もその可能性は低いと思うからね。
瞬間沸騰するフミナだ、「ついカッとなってやった、反省はしていない」のパターンが大いにあり得る。
「ちなみに、逃亡先に心当たりはあるのか?」
『いや、無いな。シンフォニア王国も他の勇者召喚国と同様に、自国の勇者を他国に関わらせないようにしていたからな』
亡命する可能性がある国も、思い当たらない訳だ。だとしたら、あの女はクロイツ教国に向かいそうだなぁ。
『それでシンフォニア王、フミナ・ヌマジリはどうする予定なのだ?』
『……指名手配、しかあるまい。既に国境の警備をしている兵には通達を出してある』
しかし十四人の勇者から、三人目の脱落者が出たか。恐らく七元徳を司るノブヨシが死んだのは、残念だな。いいヤツそうだったし……。
「ヴェルデ、ノブヨシの遺体を宝物庫に保管しておいてくれ。僕達が捜索している蘇生魔法で、いつか蘇らせてやれるかもしれない」
『む……うむ、そうだな。解った』
彼の魂は、何処にあるだろうか? 魂魄の概念魔法を使える者ならば、彼の魂を探せるかもしれない。
『しかし……トルメキア王はどうしたのだろうな?』
そう、世界の窓による臨時会議に、トルメキア王が出席していない。
何か……嫌な予感がするな。
************************************************************
動きがあったのは、朝一番の鐘が鳴る前だった。各転移門及び検問施設において、非常事態発生の報告が上がって来たのだ。
『北の転移門付近に、ヒルベルト王国の兵士が突如現れました! 銃の使用許可を!』
『西の転移門……トルメキア王国の兵士による奇襲を受けています!』
『東の転移門にクロイツ教国の騎士・兵士が現れました! 至急応援を!』
四カ所の転移門の内、三カ所が奇襲を受けたという報告が上がる。クロイツ・ヒルベルトはやりかねないのだが、何故トルメキアが……?
第一、今はまだ朝一番の鐘が鳴っていない……つまり、転移門は開放されていないのに。
いや、考察は後で良い。今は事態の収束を急がなければ。
「ユウキチームは西へ、フリードチームは東へ向かってくれ。僕は北へ向かう」
「了解!」
「ただちに!」
「アリス・ノエル・エイル、東組に同行してくれ。リイン・メグミ・ヒルドは西へ、キリエ・クリス・アイリは僕と北だ」
キリエとヒルド、フリードチームのノゾミの法術で、負傷者の手当を出来るようにしなければなるまい。
そして、王都の守りが手薄になるのもまずい。円卓の絆でグレンに連絡する。
「グレン、アヴァロン王国に侵攻してきている勢力を迎え討つ! 王国軍を配備するが、お前も市民に紛れて王都を守ってもらう、出来るか!」
『任せたまえ、陛下君!』
女癖悪いけど、こういう時は持ち前のカリスマ性などもあって、グレンは頼もしい戦力になる。
「クラウス・ジル・マルクは協力して王都の防衛を! それと、南側の転移門も警戒してくれ!」
「了解です、ご主人!」
「ご主人様、王都はお任せ下さい」
「ユート、ぶちかましてこい! 背中は俺達が守るからな!」
仲間達の言葉に首肯し、僕達は現地へ急行する事にした。これ以上、僕達の国で勝手をするのは許さない。
************************************************************
北の転移門へ転移した所、予想とは違った状況だった。
今はまだ開放時間より前だが、魔王国へ帰る商人達が検問施設に居たはずだ。そんな一般利用者も、すぐに近隣の開拓村へと避難させたらしい。
戦場に残っているのは、ウチの騎士達だけだった。
「ウチの騎士、中々やるな」
そう、次々と襲い来るヒルベルトの連中を、ガンガン押し返して倒していっているのだ。
人数の不利を補う為、転移門から検問施設へ向かう長く細い通路を利用している。同時に攻撃できる人数を制限し、更には防衛に徹して増援を待っているな。うん、数か月前には浮浪者や難民だったとは思えないよ。
見れば、今日の検問担当にゴンツ達が居た。最前線でしっかり戦っている。
「あの時は、ここまで頼りになる仲間になるとは思いませんでしたね」
「それな」
さて、僕達が来たのは観戦の為ではない……参戦の為だ。
「さぁ……お仕置きの時間だ」
転移門の上から跳躍し、三百名くらいいるヒルベルト兵の連中のド真ん中に降り立つ。
「な……っ!?」
「ど、どこから!?」
突然現れた僕に、ヒルベルト兵達が目を剥く。
「どこって上からだよ。天空の王っぽいだろ?」
そう言って、銃剣を構える。
「じゃあ、死ね」
引き金を引き、銃口から放たれた弾が兵士に命中し、爆発する。そう、あの爆発である。
集団戦と来れば? 容赦が要らないと来れば? そう、パイセンの出番だ。
初公開の刻印付与弾”地雷弾”である。
最早、炸裂弾で良くね? というツッコミもあったのだが、ほら。地雷パイセンへの敬意の念が表れてしまったんだよ。
「なっ……何を……!?」
「こ、殺せぇっ!!」
「今こそ、悪しき者に天の裁きを」
天の裁きをご所望らしい。
「キリエ、天の裁き入りやしたー!」
「はい喜んでー!」
途端、地面を照らしていた日の光が遮られる。
「な、な……っ!!」
「あ、あれも遺失魔道具……なのか!?」
正解。ヒルベルト軍の直上に現れたのは”破滅を呼ぶ星”。
「お待たせしました、こちら天の裁きになりまーす。代金はあなた達の命です、ごゆっくりお召し上がり下さーい!」
そう言って、トリガーを引く。途端、直下に放たれる光の柱。
うんうん、天の裁きっぽいよね。光属性攻撃とは、さすがキリエは解っている。
悪しき(ヒルベルトの)者に、天(使)の裁きが下ったわけだ。
「こ、この卑怯者共め!」
「飛び道具で一方的に殲滅など、なんと卑怯な!!」
「おいおい、多勢で攻めて来ておきながら言う台詞ではないだろう」
第一、卑怯もラッキョウも大好物だ。何故ならこれは、戦争だ。そんな中で相手を慮ってやる義務も義理も無い。
しかし、ヒルベルトの連中に対して律儀に応えてやる、心優しいウサ耳少女が居た。
「では、こんなのは如何ですか」
一跳びで兵士の目前に立ち、銃刀を振るうアイリ。そうだね、アイリならそれが出来るよね。
兎人族の特徴である強靭な脚力と、鍛え上げた剣の腕で兵士の首があっさり飛ぶ。
「な……うわぁっ!?」
「く、来るなっ!!」
更に、流れるように兵士達に接近して、サクサクと首を飛ばしていく。
信じられるか? この一瞬の早業、遺失魔道具の刻印付与も根源魔法も使ってないんだぜ……?
「あ、あの獣を殺せっ!」
「……させない」
突如、神殿騎士や兵士達の足元が凍り付く。
「ぐあぁっ!?」
「こ、氷だと!?」
「まさか、魔人族の……っ!!」
そう、魔人族の固有魔法である氷属性魔法。
魔王の妹・クリスの魔力は大迷宮ボーナス抜きでも高い。広範囲に渡って展開された氷の結界は、百人程を同時に拘束した。
「おのれ魔人族め……! 世界を支配しようとする、邪悪な……」
「五月蝿い」
あっ、騎士が着ていた鎧ごと縦真っ二つ。
「次は、お前」
「やっ……やめっ……」
――サクッ。
命乞いなど聞かず、あっさりと真っ二つ。情け容赦無いね! 多分クリスも相当キレてるな。
はてさて、僕はと言えば。不可視の手でヒルベルト軍の連中を地上五メートルくらいまで持ち上げている。
「や、やめろぉっ!!」
「何をする気だ、背信者めっ!」
ん? 何をするか? 何をするかと言うと……。
「折角空の上に来たんだ、楽しんで逝け」
彼等の真下には勿論、地雷パイセンが。一人ずつ拘束を解除し、地雷パイセンへ真っ逆さま。
――ドオオォォォンッ!!
肉片が飛び散ってるよ。グロい光景だけど、地雷パイセン使うと大体こんな感じだ。
「次はお前達がこうなる番だ」
僕の言葉に、ヒルベルト軍の面々は青褪める。
「い、嫌だあぁァァっ!」
「た、助けて……っ!!」
「神よっ!! この愚か者に裁きをおおぉぉぉっ!!」
盛大な爆音と絶望の悲鳴が響く。
ははは、神だって? 聖母神ヒュペリオンと神竜なら、僕の嫁だよ。
そうそう、転移門が起動する前にこいつらが現れた理由が解った。転移の遺失魔道具があったからだ。
おそらく、昨日捕えた連中の誰かが所持し、設置したのだろう。
無論、製作者は僕やワイズマンとは別口だ。ではショウヘイさん? と思いきや、それも違う。
製作者の名前は”バルムンド・ギアブリッツ”。どうやら、遺失魔道具製作者が僕以外にもいるようだ。
しかし転移前の場所からは、転移後の光景が見えないらしい。僕の場合、マップで確認できるから、その心配は無いんだけどね。
つまり、ここが自分達の処刑場所だと気付かずに、彼等は続々と転移してくるのだ。そんな訳で、転移した場所に地雷パイセンを設置した。
「ふはは、皆殺しdうわあぁぁっ!?」
――ドオオォォォンッ!!
「アヴァロンを蹂躙しtエエエェェェェッ!?」
――ドオオォォォンッ!!
転移したら、相手は死ぬ。それはもう、相当数死ぬ。
さてさて、間引きもこれくらいで良いだろう。振り返ってゴンツ達に声をかける。
「よっ! 後は任せて大丈夫そうか?」
「はい、兄貴! お任せを!」
陛下、ね?
「しかし、この人数でよくまぁ守り切ったな?」
「えぇ、陛下のお耳に入ればすぐに救援が来ると解っていましたので、地の利を利用し相手を押し留める戦術で、防衛に徹していました」
今日の検問施設責任者がそう答える。ナイス判断だ、理に適っている。
「良い判断だったな、良くやってくれた」
「身に余る光栄です、陛下。共に戦ってくれた騎士達も尽力致しました」
勿論解っている。この非常時に、臆する事無く戦い抜いた騎士達は、僕とアヴァロン王国の誇りだ。
「あぁ、本件の褒章は楽しみにしておくように! 交代制で、休憩しつつ警戒を続けてくれ。今日は転移門の開放はしないが、何処に転移の遺失魔道具が隠されているか、まだ解らないからな」
「はっ!!」
本当に、殆どの騎士がつい最近までは難民や浮浪者だったなんて、信じられないよね。
************************************************************
残党を騎士達に任せ、キリエには東・クリスには西・アイリには南の状況を確認させる。円卓の絆、作って正解だったな。ちなみに、僕は王都だ。
どうやら王都にも二カ所程、遺失魔道具が設置されていたようだ。
尚、こちらには少数の暗殺部隊が入り込んだようだな。しかしながら、その辺りの監視にはジルに任せてある。既にクラウス・マルクが部隊を引き連れて制圧を開始している。
「アヴァロンの安全が確保できたら、今度はこちらから出向く番だな」
侵略行為を受けた以上、相手には滅んで貰う。今日がヒルベルトとクロイツの最後の日だな。
トルメキアは同盟国だからさ、一応何がどうしてそうなったのか、事実確認はしないといけない。
「西、制圧……」
「東の転移門にも被害はありません」
「ユート様、南に異常はありません。転移の遺失魔道具も無いようです」
ふむ、どうやら今回の襲撃、無事に収束できそうだね。僕は真実の目を駆使して王都の様子を確認し、異常な反応が無い事を確認する。
「王都にも……あれ?」
異常な反応は無い……しかし、あるはずの反応が無い。
「……ユーちゃん?」
あの人が……いない。昨日の夜は、確かに居たはずだ。
「……ソフィアさんの反応が、消えてる」
「えっ!?」
「……まさか、それ」
「ユート様、魔導通信機の反応は!?」
「今、視ている」
すぐに確認したら、ソフィアさんに渡した魔導通信機の反応で、彼女の居場所がすぐに判明した。
「……彼女は今、クロイツ教国に居る」
現在、彼女は教国の神殿にいる。
巻き込んでしまった……もう、堪忍袋の緒が切れた。彼女を巻き込んでしまった自分と、彼女に手を出したクロイツ教国に対する怒り。
『ユウキ、フリード。”俺”はこれからクロイツ教国へ向かう』
俺の言葉に、ユウキとフリードが息を詰まらせるのが解った。きっと、俺の怒りを察したのだろう。
『ヒルベルトとトルメキアの件を二人に任せたい。連中をどうするかの判断は任せる、責任は俺が持つから好きに殺れ』
俺の言葉に、二人の返答は同時だった。
『『かしこまりました、陛下』』
頼れる二人の侯爵に一言礼を告げ、門弾を準備する。
ついでなので、その間に全員に向けた念話を送る。
アヴァロン王国の民、そしてアヴァロンを訪れた他国の民にこれ以上の被害は出させない。大元は俺とユウキ達、フリード達が断つ。その間、国を任せられるのは、やはりコアメンバー達だ。
『ジル、クラウス、マルク。騎士達や魔導師達を率い、王都外の住民を王都内に保護しろ』
『はい、ご主人様』
『ウス、直ちに対応します!』
『任されたぜ、王様!』
王都外壁には聖域発動の付与をかけているから、外敵が更に増えても住民は傷付かずに済む。
『グレン、王都の一般市民に紛れるのはもう止めだ。略式ながらお前に、東方を管理する伯爵位の座を授ける。俺の……いや、俺達の宝である国民の命を守れ』
『御言葉、確かに承りました国王陛下。このグレン、身命を賭してその大役を務めあげて見せましょう』
グレンは既にアヴァロンに貢献している一人、禊はもう十分だろう。有事の際、戦力になる者を貴族に取り立て、仕えさせるなんて珍しくない、多分。
『リインはトルメキア、アリスはヒルベルトに同行しろ。エイル、アイリ、クリス、メグミには王都防衛を言い渡す。仲間達と連携し、俺達の国を守れ』
『『『『『『はい!』』』』』』
兵士達を鼓舞すると同時に、王都防衛の旗印となれるのは彼女達だろう。
そして、残りのメンバー。
『キリエ、ノエル、ヒルド。俺と来い、クロイツを潰す』
『『『了解!』』』
さぁ……クロイツ教国へ向かおう。ソフィアさんの魔導通信機を起点に、転移魔法陣を開く。
************************************************************
「レア魔法の転移魔法陣を抜けると、そこは地獄であった」
「いや、文学的に言わないで下さいよ」
ボケに対し、的確にツッコミを入れて来るキリエ。連れて来て正解だった。
「……ツッコミの為に来た訳では無いんですが」
「うん、俺もボケる為に来た訳じゃないからさ。それで……何だろうね、この地獄絵図」
何が起こっているのかと言うと、クロイツ教国の神殿で悪魔族が暴れてました。
ゴルトローゼは、悪魔族を見て腰を抜かして震えているし、枢機卿達も逃げようともがいているが、どうやら神殿の扉が開かないようだ。
神殿騎士達が悪魔族に襲いかかるが、ダメージを与えられていないな。そして足で踏み付けられた神殿騎士が、苦痛の呻き声をあげている。
「ユ、ユートさん……!!」
背後に目を向けると、ソフィアさんが警戒態勢で身構えていた。無駄の無い構えから、彼女が見た目通りの華奢な女性では無い事を察する事が出来る。
その着衣は半ば乱れており、所々に痣が出来ていた。恐らく、いくらかは応戦していたのだろう。
「ソフィアさん、とりあえずもう大丈夫だ。ここからは俺達が守るから、側を離れないで」
「……はい」
やけにあっさり落ち付いたな。
「ヒルド、ソフィアさんの治療を。キリエとノエルは二人の護衛を頼む」
さぁて、気になっていた悪魔族に向き直る。とりあえず、まだ俺達に気付いていないらしいし、挨拶をしよう。
「よっ!!」
増幅を使い、悪魔族に急接近して蹴り飛ばす。
「ぐぬっ!?」
挨拶(物理)。
吹き飛ばされつつも、体勢を整えて壁に着地した悪魔族。壁に着地って変な表現だよな。着壁?
そんな着壁した悪魔族が、こちらを睨んで来る。
「……貴様、アヴァロン王だな」
「おや、良く解ったな? いやぁ、クロイツで悪魔族に会うとはね。折角だし、俺とも遊んでくれよ」
「良かろう……挨拶が遅れたな、我が名は悪魔族四天王が一人であるゼルバイン。見知り置け」
ゾディアックと違って、しっかり自己紹介するのね。
「ユート・アーカディア・アヴァロンだ。短い付き合いになるだろうが、よろしく」
「あぁ、短い付き合いになりそうだ」
空気が、一気に張り詰めたモノに変わる。
「しかしながら、意外ではあった。敵対する国に対しても救援に駆け付けるとはな」
……ん? ちょっと何言ってんのか解んないです。
「クロイツ教国を潰すのは俺だ、お前はその邪魔になるから死ぬんだよ」




