第67小節
わたしとクレアはそれからハイヤーで病院へと向かった。
まさかまたこの病院に、それも数日後にくるとは思わなかった。
病室は広い個室で、この部屋だけあらかじめ特別に改装されていたような真新しい、たぶんこの病院でいちばん料金の高い病室だった。
そこには理事長と支配人がいた。
彼はベッドの上で眠っていた。
理事長の話では命に別状はないとのことだった。
クレアによると、食事の用意や部屋の掃除にくるお手伝いさんが朝ソファーに倒れ込んだままの状態の彼を発見したらしい。
彼女の役目は彼の異変に気を配る仕事も課せられてあったので対処は迅速だった。
もしかしたらクレアの目的もそこにあったのかもしれい。
ちょっと、そんなふうに思った。
だけどそれはいま詮索することではなかった。
クレアもそこまで話していいものか戸惑いながらだった。
きっと誤解を生むよりは状況は正確に話しておくべきだと判断したのだろう。
わたしと、クレアと、理事長と、支配人が、ベッドで眠る彼を囲むようにして見ていた。
風が強く窓に当たって、グワンと音を立てた。
彼が何か言葉を発したようだったが、聞き取れなかった。
誰かの、名前のような気がした。
それから彼は、閉じた目から、ひとしずく涙を流した。
クレアは彼のその姿を見て、両手で顔をおおった。
理事長がクレアのそばにいき、肩を抱いた。




