第59小節
わたしは部屋に帰って、シャワーを浴びて、髪を乾かして、スキンケアをして、トリャ~とベッドにからだをあずけた。
クレアに電話した。
「もしもし」
とわたしはいった。
「美風」
「何?」
「明日ね」
「うん」
「わたし家にもどるから」
「そう」
「うん」
「えっ、ずっとってこと?」
「ううん。2、3日」
「2、3日」
「そう」
「わかった」
「アルバムだすのよ」
「誰が?」
「わたしが」
「はい?」
「あのね、わたしこと柊クレアがデビューアルバムをだすことになって、その打ち合わせにね、帰るの」
「はっ?」
「だから。ちょっとやめてそのパターン」
「いやいやいや」
「わかるけど」
「何のアルバムだすの?」
「もちろんピアノに決まってるじゃない」
「まさかオリジナル?」
「まあ一部そうね」
「それって、弾いてたあの曲?」
「Yes,it is」
「もうプロじゃん」
「デビューしたらそうなるのかな」
「プロじゃんクレア」
「まあ、何てゆうのかな、そうなっちゃうのかな」
「すごいじゃん、プロじゃんか」
「まあまあまあまあ」
「いいなあ」
「まああれよ、ちゃんとレコード会社からのオファーだからね」
「系列のでしょ?」
「うん」
「それオファーってゆうの?」
「いわないといろいろややこしいことになるじゃない」
「自覚はあるのね」
「要は恥ずかしくないアルバムをだせばいいのよ」
「えらい!」
「サンキュー!」
「何かおめでとう」
「何かありがとう。でね」
「うん」
「あなたも参加してもらいたいのよ」
「発売記念パーティーに?」
「違う。アルバムに。ていうか、もちろんパーティーには招待するけどね」
「いま何て?」
「だからアルバムに参加してほしいって」
「わたしに?」
「あなたに」
「何で?」
「何でって、そのほうがひとつの売りになるからでしょ」
「どんなカタチで?」
「連弾がいいかなって思ってるのね」
「あなたも?」
「あなたもって?」
「いや何でもない」
「そう」
「ねえ、それってわたしにもあれ入るの?」
「あれって?」
「印税っていうのかな」
「そうね、契約すれば入るんじゃない? そのへんはわたしもよくわからないけど」
「やります」
「よかった」
「えっ、じゃあさ、売らなきゃじゃない」
「売るためのアルバムだからね」
「そうよね」
「そうそう」
「何なら握手会とかやってさ、売らなきゃじゃない」
「そこまでピアノのアルバムでやるのかな」
「やるのよ」
「ほんとにやるの?」
「ものすごく売って何もいわせなくすべきよ」
「わたしのためなのか印税のためなのかわからないわね」
「両方にきまってるじゃない」
「そっか」
「よーし、ミリオンめざすぞ!」
「やっぱり印税のためでしょ」
「ちゃう」
「うそ」
「あなたのためが九割よ」
「ぜったいうそ」
「ピアノでお金のことなんか考えないって。わたしはそういう姿勢でピアノやってきたわけじゃないもの」
「確かに」
「よっしゃ、やってやるぞ!」
「でも一割は印税のためなのよね」
「100パーあなたのためなんて信じられる? そうでしょ?」
「それもそうね」
「そんなこという人のことこそ信じられないわよ」
「おっしゃる通り」
「いまに見てろよ!」
「誰に向かっていってるの」
「じぶんに向かってよ」
「けっこう複雑みたいね」
「これでもいろいろ思うことはあるの」
「これっぽっちもそう見えないところがベビーフェイスの魅力よね」
「また何か考えさせるようなこといわないで」
「失敬失敬」
「アイドルなっちゃうぞ」
「誰がさせるか」
「ぬわんだと」
「ぜったい阻止する」
「ぜったい勝つ」
「そうでなくっちゃ」
「さあて、な~に買おうかな~」
「おいおいおいおいおい」
「あははははは」
わたしたちはそれから深夜2時まで、どうやったらもっと売れるか、売れたらどんな未来が待っているか、あれやこれやと話つづけていた。




