第39小節
となり町に近い海辺のシーフードレストラン。
初日の演奏会が無事に終わったということで、理事長が彼とクレアとわたしを夕食に誘ってくれた。
そこはカジュアルなスタイルのレストランで、はなれた席には家族連れや何かのサークルらしい大学生のグループがいた。
海が見えるテーブル席でわたしたちは食事をしていた。
時間はもう夜だったので海は真っ黒だった。
岬の灯台のライトがときおり海面を銀色に照らしていた。
窓際のわたし。
そのとなりにクレア。
わたしのまえに彼。
クレアのまえに理事長が座っていた。
テーブルの上には、伊勢エビやムール貝、カキなどが盛られたおおきな皿が中央にどんと置かれてあった。
わたしたちは小皿にそれらを取って食事を楽しんでいた。
「ねえ、ここももしかして」
とわたしはクレアに小声で聞いた。
「残念だけど」
とクレアは答えた。
「そう」
「おじいさま、美風がこのレストランも系列なのかなって」
「ちょっと」
「美風さんは経営に興味がおありかな?」
と理事長。
「あっ、いえ。何かすみません。素敵なレストランなので」
とわたしは恐縮して小さくなった。
「いいんですよ。美風さんならどんなことでも遠慮なく聞いてもらっても」
「そんな」
とわたしはさらに小さくなった。
「ところで、美風さんのお名前はだれがおつけになったのかな?」
と理事長は微笑みながら聞いた。
「ああ、父です」
とわたしは答えた。
「そうですか。素敵な名前ですね」
「ありがとうございます」
とわたしは頭を下げた。
「よく似合っている」
と彼がいった。
「ありがとうございます」
とわたしはとびっきりの笑顔を向けた。
「わたしは?」
と彼に向かってクレアが参戦する。
「きみも」
と彼。
「よかった」
とクレアは満足する。
「由来はあるの?」
と彼はわたしに聞いた。
わたしは答えた。
「ええ一度そのことを父に聞いたとき、そんなふうに思われるような存在になってほしいからっていってましたけど、何だかいまのわたしはそれにはほど遠いって感じですよね」
「その通りだと思いますよ」
と理事長は間髪入れずにいった。
「ほんとうですか?」
とわたしは目を見張る。
「ほんとうです」
と理事長はキラースマイルでいった。
「うれしいです」
「ぼくもそう思うよ」
と彼。
「うわぁ。うれしいです」
とわたしはさらにとびっきりの笑顔をつくっていった。
「わたしは?」
と彼に向かってクレアが牽制球を投げた。
「きみもね」
と彼。
「じゃあ、由来をいってみて」
とクレアは迫る。
「知らない」
と彼。
「んもう適当」
とクレアはほっぺをふくらました。
わたしと理事長は思わず笑いだした。




