第23小節
デスクの上に昨日渡したリクエストカードの品物が届けられてあった。
アイマスクをして眠った。
長い昼寝からさめてスマホを見たらクレアからの着信があった。
リハーサルがあると思っていたのでサイレントにしたままだった。
クレアに折り返してみた。
すぐにでた。
「いまいいの?」
と彼女がいった。
「いいよ」
「メール見た」
「うん」
「それなら毎日でもいいんじゃない?」
「ん? どういうこと」
「控えとしてなら」
「いやいやいやいや、ホテルのギリギリの好意よ。それに身内を優先するような行為はしないっていうポリシーじゃなかったの? ていうか何かそういうことをつらぬいているあなたじゃなかったの? それにそういうホテルの好意に対してまた何かこっちがじゃあ毎日でもいいですかなんてとてもいえないでしょ」
「わたしがいえばだいじょうぶよ」
「だからそれじゃこのまえと話がちがうって」
「何が?」
「何がって、そうゆうチカラは使いたくなかったんでしょ?」
「控えなんて考えてもみなかったからよ」
「ん? それは控えがやりたってこと?」
「うん。やりたい」
「ちょっと」
「何」
「ポリシーは?」
「ポリシーはあくまでポリシーであって、ときに臨機応変に対応することのほうが大事なことだってあるのよ」
「でもあなた自身がまげることになるのよ」
「考えてみて。控えはあなたに万が一何かがあったときの対策としてホテルとしては当然考慮しておかないといけないことよ。もし万が一あなたができないような事態にでもなったら演奏会は中止になるわけだし、そうなったらそれこそいちばんお客様に迷惑をかけることになってしまうのよ。じぶんのポリシーよりお客様を優先するのは一族としてあたりまえの考えでしょ?」
「一理、ある」
「うん。万全の態勢をととのえておくことはわたしの役目でもあるわ」
「まあそう、だね」
「そうなの」
「そう、なのかな?」
「そうなのよ」
「その役目をみずからが率先してやると」
「その通り」
「まず、危機管理とは何かを、そしてあるべきグループの姿とは何かをここはみずからが身を呈してしめす機会だと」
「まあ、そうゆうことね」
「近い将来リーダーとなるかもしれない人間として、それにふさわしい資質をみせることもときとして必要であると」
「そこまでは思ってないかな~」
「まず第一に考えるべきは……」
「もういいわよ」
「わかった」
「よくまあそこまでいろいろとでくるわね」
わたしは笑った。
クレアも笑った。
「じゃあ部屋は別にしてよね」
とわたしはいった。
「ああ、そのホテルの近くにいくつかセカンドハウス的な目的のマンションがあるのね。そこも系列の会社が管理しているところだからだいじょうぶよ」
「柊エバーグリーングループ?」
「柊エバーグリーングループ」
「どんだけ系列の会社があるのよ」
「えっとね」
「数はいいから」
「そう」
「もうそこまで手配済みなわけね」
「うん」
「席は気が散るからはなれたところにしてもらうからね」
「いいよ」
「ねえ、夏の予定はなかったの?」
「ぜんぶキャンセルした」
「した。したんだ」
「話はこちらからしておくからね」
「そう」
「じゃ、そういうことで」
そういって彼女は電話を切った。
わたしはため息をひとつついてから、こう思った。
どうせお嬢様の気まぐれだから、2、3日で飽きて帰るだろうなと。




