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エピローグ ~大団円~

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。


 「…どうしてこうなった。」

 「ん~?何がです~?」


 まあ、何が、と言われれば、今の状況が、と答えるのだが。

 答えがそれだけではない事は明白だ。

 いったいどこでどう転んだら今のような状況が生じるのか、という事だ。


 とりあえず、迷っていても仕方ないし、この状況をなんとかする事も出来ないのだから、やるべきことは一つ、というか、出来ることは一つしかない。



 ―――目の前の『楸探偵事務所』のドアを開け。


 ―――今日のバイトにいそしむ。


 それだけだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 あの、嵐のような一週間から、半月。いや、体感的には嵐の最中に地震が起きて落雷が直撃しつつ吹き飛ばされたくらいのインパクトはあったんだが、とりあえず半月。


 俺はなんと普通に学校に学校に通っている。いや、当然と言えば当然なんだが。


 自分で言うのもなんだが、相当の怪我だったと思う。右拳骨折、左腕裂傷多数、病院搬送時出血性ショック、だったそうだ。それがどれくらいヤバイのか医者でも無い俺にはよくは分からなかったが、とりあえず、


 「搬送があと三分遅かったら助からなかったね。」


 だそうだから、けっこうやばかったんだろう。


 そんな状態だったにもかかわらず、何と俺の体は骨折を含めて一週間もすれば完治してしまった。なんか『異能』に目覚めちまうと人より回復が若干早くなるらしい。若干ってレベルなのか分からんが。



 「ちわーっす。」

 「おう、わーかだいしょー。今日もよろしくなー。」


 事務所のドアを開けた俺に、陽気に声をかけてくるのは、榎田。そういえばこいつもそうだ。



 俺と一緒に病院に運ばれたこのチビガキは、俺よりもう数段階天国に近かったらしい。もうちょい直接的に言えば、


 「生きてるのが不思議だったよ。」


 だそうだ。

 医者からそういう評価を受けたにもかかわらず、榎田は何と俺と同じ一週間で退院した。こっちは文句なしに言えるだろう。若干ってレベルじゃねーぞ。



 「さて、と。出社早々わりんだが、仕事の説明だ。俺がもう出なきゃならんし。で、そこで…」

 「榎田。直接的に言え。ヘタレから離れろ、森羅。」


 若干言い淀む榎田の言葉を引き継いだのは、柊。鋭い目つきで、俺を…もっと正確に言えば、俺の腕に絡みついた、ルリ女史を睨みつける。どうしてこうなったのだろう。



 俺とチビガキ、あと一歩病院にたどり着くのが遅かったらオダブツ、という状態でなんとか首の皮一枚つながったのは、間違いなく柊のおかげだった。

 柊はパルカをシェルターまで無理矢理連れて行った後、時間になっても爆発が起きない事を確認するとすぐにあの部屋に駆けつけ、全てを終えて倒れた俺を引き摺って工場内を走り抜け、全身ズタボロで死んでいるしか思えない状況だった榎田を担いで、出口に呼んだ救急車まで最短時間で送り届けたのだ。



 こいつがいなければ俺は (ついでにチビガキも)死んでいたのだから感謝するのは当然なのだが、退院して以来、正確に言えば学校に行った日からどこか、いや明らかに視線が冷たい。

 思い当たる理由と言えば…


 「え~?いいじゃないですか~、私も今日は俊也さんと一緒がいいです~。」

 「ちょっ、うで、まずっ、むねっ!!!?」


 …そう、ルリ女史と一緒にいるところを見られてからのような気がする。

 その女性らしい体のラインを存分に生かして、からみとった俺の腕に体を…所謂胸を押しつける。柊のスレンダーな体には無いであろう感触に、口から意味不明な言葉が出る。あばばば。


 「ヘタレ。その思考は、自殺志願と受け取っていいのだな?」

 「も~、駄目ですよ~、ぼ~りょくはんた~い!」


 一方は鋭い瞳で、一方はアルカイックスマイルで睨みあう。ってか、やべえよ、なんかバチバチ言ってるよ。こ、これが、視線の空中戦か!



 ルリ女史は、出頭した。

 もうちょっと詳しく言えば、森羅電気の武器――核兵器という大々的に保持、作製、輸入が禁止されている物騒な物を生産している、ということを、内部告発したのだ。

 その事は既にメディアに大騒ぎされ、国内でも大手の電機メーカー、森羅電気そのものが解散するという大事件に発展し、ルリ女史の父親にあたる代表数人が逮捕される事態となって収束した。告発者のルリ女史は警察からはおとがめなし、表面上はいつも通りだったが、その心境がどういうものだったのかは分からない。



 …いや、訂正だ。いつも通りでは無い。


 「え~?俊也さ~ん、何考えてたんですか~?」


 あれ以来、やたらとくっついてくるようになった。ホントに。なんか俺好感度上げるようなことしたっけ?そしてそれと反比例するように柊の機嫌が悪くなる。この場合は不可抗力だろ、せっかく心読んでんだし。


 「森羅の脂肪の塊が迷惑だ、と考えているんだ。」

 「え~。でも、私は、俊也さんと一緒、って言いましたも~ん。ね?俊也さん?」


 思考を捏造する柊と、なんか良く分からん事を言い出すルリ女史。


 と、後ろのドアがガチャン!といい音を立てて開く。

 それと同時に、すんごい力でルリ女史から、文字通り引っぺがされる。


 ルリ女史「が」引っぺがされるのでは無く、ルリ女史「から」引っぺがされる。


 そのままバランスを崩したところでタイを掴まれ、ガクガクと揺さぶるのは、


 「にーさんっ!待っててくださいと言ったでしょう!」

 「ででででもるるるルリさんががが」

 「にーさんの保護者は私です!森羅先輩なんかに負けないでください!!!」


 言わずもがな、我が妹。



 あの事件が終わった後、病院で目を覚ました俺を最初に迎えたのは、森音だった。正確には、その寝顔だが。


 あの後昏睡状態だった俺が目を覚ましたのは、火曜日の夕方だった。

 日曜日、俺のメールから何かを感じとった森音は日付が変わるまで外を探しまわり (女子高生としては不用心な限りだが)、寝ないで握りしめていた携帯電話に病院からの着信を聞き深夜にも関わらず駆けつけ、そのままつきっきりでベッドサイドにいたらしい。

 …月曜日も火曜日も学校あったはずだけど良かったのかな?


 そして目が覚めた後、まず抱きつかれ (しがみつかれ、の方がニュアンス的には正しい)、泣きじゃくられ、殴られて、説教され、最後に (限りなく拷問に近い)尋問された。

 洗いざらい喋らされた後 (当然その過程で数発殴られた)、森音は「自分もその事務所で共に働き、監視します。」といったのだ。



 その結果、森音は俺と同じように放課後ここに来るのだが、


 「まったくにーさんは!帰り路から腕組んで何やってるんですか常識を弁えてください!!」

 「う、うえ、死ぬ、た、た、タイはいってるお、首、くびk」

 「いいですか!私が待ってといったら待つんです!!!」


 俺は忠犬ハチ公かよ。待て、お手、じゃあるめえ。

 そしてその思考を読んで笑うな柊。そしてチビガキ、てめえはなんで笑ってんだコラ。


 「くくっ、んじゃあ、ルリ嬢、また今日もPCセキュリティデザインの依頼が三件。頼むぜ。」

 「え~、またですか~?もういくつ作ってると思ってるんですか~。俊也さんと一緒がいい~。」

 「これが資金源なんだよ。勘弁な。で、妹姫とレンの二人は、こないだの依頼があったやつな。」


 ぶーたれる (見た目的には形のいい眉が心配そうに顰められて、笑顔が曇っただけだが)ルリ女史をチビガキがなだめ、同時に柊と森音にも指示を出す。


 「浮気調査だろう。私の『読心』で終わりだろう。夜の俊也と一緒に行けるだろう。」

 「柊さん、そう言ってこないだ依頼の人に苛ついて小一時間説教してたからですよ、もう!」


 二人はリアルではともかく仕事ではなかなかいいコンビらしい。突っ走りがちな柊のブレーキが森音、というわけだ。


 「頼むぜ。んで、若大将、は、ふふっ、頼むぜ。んじゃな。」


 指示を口にしかけたチビガキが俺の横を見て笑い、そのまま脇を通り抜けて外に行く。どうやら彼の仕事はもう時間が無いらしい。


 と。


 俺の学生服の袖口がふと掴まれる。


 顔を向けると、そこには。


 「きょうのおしごと、わたしがせつめいするの。がんばるよ、としやのおにーちゃん。」


 上目づかいでこちらを見上げる、少女。俺と一緒に運命の鎖の束縛を解き、強く生きることを選んだ少女……なんていうとかっこつけすぎだろうか?少しだけ表情豊かになった顔をこちらに向け、今日の仕事への熱意を示す。


 横から「おにーちゃん禁止です!」という森音の非難が聞こえる。

 それが聞こえたのか、外でチビガキの笑い声が響く。

 「かっこいいぞヘタレ。」と言わんばかりの半笑いを浮かべる柊がみえる。

 能天気にこちらに手を振るルリ女史がいる。


 そうして、俺は。


 今日も、下らない運命と戦う、気合を込めて『覚悟』を決めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「さて、これにて一件落着ですね。」


 そんな平和な事務所を、離れた場所から監視する二人の影。

 一人は、黒ずくめの服装をした表情の見えないニット帽の男。


 「貴様は、これで本当にいいのか?」


 黒ずくめ男が、もう一人に問いかける。


 そして、もう一人は。

 車椅子に腰掛けて足に毛布をかけて。顔には、張り付けたような笑顔と、眼鏡。


 「ええ…。彼らはもう、一人前です。私という保護者なしでも大丈夫ですから。」


 心なしかいつもより嬉しそうな、そしてほんの少しの寂しさを含んだような笑顔。



 『貴様は、あの時、なぜ勝ちを諦めた?』

 金曜の夜、シンの命を奪うはずだったコウの打ち下ろしは、この男によって遮られた。圧倒的な力で振り下ろされたそれを受け止める、同様の力。

 『貴様の『異能』は、なんだ?』

 受け止めたまま問われた言葉。それに答えた後の、最後の問いかけ。


 ―――『貴様の『最善』で、『姓無』はどう映る?』



 あの後、試しに説明した作戦は単純。テロリストの護衛をするフリをして、隙を見て「『新兵器』の顧客データの書類を盗み出す」。顧客データがネットから奪えなかったシンは、恐らく文書にて保管されていると推測していて、それは正解だった。

 柊と別れた後、ゼツはそのデータを探し出してシンに渡した。それをネタにシンが相手からゆすり取った口止め料は、『姓無』の雇い料金などとは比べ物にならない大金だったのだ。


 「もう一度問う。本当にいいのか?」

 「ええ。あの子たちより、姓無というやんちゃな子供たちの方に、保護者は必要でしょう。」


 そう言って、またいつもと変わらない笑みを浮かべるシン。本来ならあの地下で死んでいたのだ、今更断る理由は無い、とシンは思う。あの後、『姓無』の医者の女性、チユの治療を受けていなければ、到底左脚断裂などでは済んではいなかったのだ。

 そして。

 妹に生きろと言い続けた自分だ。無駄に死ぬなどは出来るわけがない。


 決意を、殺人鬼と共に生きる覚悟を決めたシンの横顔を、黒ずくめの男は無言で見つめる。

 

 しばらくの沈黙ののち、黒ずくめの男は、ゼツは口を開いた。


 「……そうか。ならば。歓迎しよう。シン、ようこそ、『姓無』へ。」

 「ええ。これから、よろしくお願いしますね、ゼツ。」


 二人は、身を翻して、去って行った。




 ちょうどその瞬間に、事務所の人間がふと窓の外を見上げたのは、単なる偶然だったのかもしれないし、特別な何かによるものだったのかもしれない。


 これにて、一件落着です。


 …ラストの、男二人は書くかどうか迷いました。物語的にはどう考えても蛇足ですし (笑) ただ、次回作の予定としてちょろっと使うことになったので、こんな形になりました。すみません (泣)


 ヘタレストの一週間、いかがだったでしょうか?小説など書くのは初めてのことで、難しいことの連続でしたが、最後まで楽しんで書けました。俺って幸せ者だなぁ、と思っています。

 この物語のテーマは『覚悟』、ネタとしては「き、貴様なぜ生きている!?」「ご、ごめんなさい!」をしたかった、という感じですね。


 この物語を書いて、あるいはほかの方の小説を読んで、ネット小説の素晴らしさを知りました。自分のこんな小説を、お気に入り登録してくれた人、感想をくれた人、評価してくださった人、そして8606というレビュー、1953というユニークになってくださったすべての人たちに感謝を…。

 そしてもしよろしければ、厚かましいですが感想や評価の一つでも、よろしくお願いします。まってます!!!


 あ、最後に。

 この物語は、実際の人物、団体、国名、および作者のヘタレ具合には、一切関係ありません。ほ、ほんとですよ?

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