祭りの前が一番楽しい! 第10話
「叉音ちゃん?」
名前を呼びながら毛布をめくると、叉音ちゃんは体育座りの格好で小さな体をさらに身を縮めて、膝の辺りに顔を突っ伏してソファーに座っていた。
「叉音ちゃん、大丈夫?」
「どうだった?」
「えっ?」
「…二人」
ああ、陽葵と海玲ちゃんの反応のことか。
「すごいびっくりしてたよ」
「……」
黙ってしまった。
いきなり学祭の話をするわけにもいかないし、とりあえずさっきの演奏の話をしようかな。
「二人のこと見てなかったんだ」
「怖くてずっと下見てた」
「そっか、まあわたしも最初の曲の後は難しくてあんまり見れなかったんだよね」
「曲に集中すれば気にしなくていいと思った…ごめん」
それであんな難しそうな二曲になったのか。
「あーなるほどね、まあちゃんと弾けたんだし結果オーライだよ」
伏せっぱなしだった顔を上げ、こちらに向けてくれた表情はホッとしていた。
おかげで安心したけど、なんて声を掛ければいいのか悩んでいると、叉音ちゃんの視線がわたしの背後に向かった気がし、振り返るとトーテムポールのように上に陽葵下に海玲ちゃんが頭だけを毛布の隙間から出してのぞき込んでいた。
「来て貰ってもいいよね?」
「……うん」
わたしが手招きすると二人は興味深そうに周りを見回しながら入ってきて、海玲ちゃんは座布団が置かれたビールケース、陽葵は床の座布団に腰掛けていた。
「秘密基地みたい、いーなー」
想像通りの陽葵らしい感想、一方で海玲ちゃんは演奏が上手くて感動したことを一生懸命伝えていて叉音ちゃんはうれしそうで恥ずかしそうにしていて、そこに便乗して陽葵がギターとフィドルはいつからやっているのかとかわたしとはどうやって仲良くなったのかとかを矢継ぎ早に聞き出そうとしていた。
叉音ちゃんは答えようと頑張っていたけど、やがて助けを求める視線をこちらに向けてくれたので手を掴んで引っ張りだす。
「はいはい、そろそろ片付けるから叉音ちゃん返してね」
ふたりも手伝うと言ってくれたけど、叉音ちゃんの部屋に持って行かないといけないから防音室の中で休んでいてもらって、二階の部屋と納屋を往復して楽器を運んでいく。
疲れはしたけど毎週畑仕事を手伝っていたおかげなのか、息が上がってバテるようなことは無かった。
三曲の演奏と片付けで結構時間を使った気がしていたけどまだ一時間ちょっとしか経っていなかった。
なので納屋に戻って陽葵と海玲ちゃんと話をして時間でも潰そうかと思っていたけど、よそよそしく「そろそろ帰るね」と言い、帰ってしまった。
多分叉音ちゃんがいっぱいいっぱいだったから遠慮してくれたのだろう。
「なんか気使わせちゃったみたいだね」
「うん」




