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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第5章 祭りの前が一番楽しい!
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祭りの前が一番楽しい! 第9話

 深呼吸をしてからふたりで振り向き、叉音ちゃんの合図で演奏を開始した最初の曲はヤンキードゥードゥル(*注1)、日本では「アルプス一万尺」と言った方が有名だと思う。


 この曲は夏休み中のアコギの練習曲の一つだったのと、最初はふたり陽葵と海玲ちゃんが知っている曲がいいだろうということでわたしがリクエストした。


 難しい曲では無いし何度も練習していたから演奏は余裕で、陽葵と海玲ちゃんも手拍子をしながら体を揺らしてノッてくれていて、陽葵の方は後半アルプス一万尺の歌詞で歌ってくれていたけど、わたしは次からの曲が気になってどうにも心ここに在らずだった。


 演奏を終え、拍手を送ってくれるふたりに叉音ちゃんは一礼するといそいそと毛

布の壁の向こうへ消えていく。


「結構すごいじゃん、でもなんでアルプス一万尺なの?」

「いやアルプス一万尺じゃなくてヤンキードゥードゥルなんだけど……まあわたしのリクエスト」

「へー」


 と、分かっていなさそうな表情の陽葵と、なんだかうれしそうな顔をしている海玲ちゃん。

 なんでこんなにうれしそうなんだろう?


「どしたの?」

「水城さんと百合川さんがちゃんと友達やってるみたいでなんか安心した」


 そういえば海玲ちゃん、叉音ちゃんがひとりなの気にしてるみたいだったっけ。


 演奏中はあまり集中できていなかったけど二人が純粋に喜んでくれているからほっとしていたのも束の間、防音室から出てきた叉音ちゃんにふたりを目を丸くしていた。


 まあ、アコギをフィドルに持ち替えてきたんだから当然の反応だ。


 意地が悪いのか天然なのか、この渦中に自分も飛び込むのだからいつまでも叉音ちゃんに呆れているわけにはいかない。




 次に弾いたのは「オレンジ・ブロッサム・スペシャル(*注2)」で、カントリーフィドルの一番代表的な曲。


 わたしの伴奏は簡単にアレンジしてくれているのについていくので精一杯だし、こちらを見守っている二人はギターが弾けると思い込んでいた叉音ちゃんがフィドルの速弾きをしているものだから完全に固まってしまっていた。


 よほど驚いたようで、演奏を終えても固まったまま。そんなふたりを気にとめていないのかそんな余裕がないのか叉音ちゃんはアンプとエレキギターを引っ張り出してきて次の曲の準備をはじめた。


「ちょっとどうなってんのよ!?」


 と、ようやく動いた陽葵に詰められてもこれが叉音ちゃんなんだから仕方がない。


 矢継ぎ早の質問にしどろもどろになりながらなんて答えようか悩んでいると、準備ができたので叉音ちゃんの方に逃げる。




 三曲目であり最後の曲はわたしがここで一番最初に聴いた「双頭の鷲の旗の下に」で、こちらもいっぱいいいっぱいになりながらどうにか弾き切った。


 流石に叉音ちゃんも疲れた様子で、肩で息をしながらしばらく下を向いていると思ったら防音室に戻ってしまった。


「ヒビキより上手いじゃん!」

「…まあね」


 陽葵は出会ってすぐの頃にわたしの動画チャンネルを教えたら「メチャ上手い!」と褒めつつ速攻でクラス中に広めてくれたからなんとも微妙な心境なんだけど、まあ叉音ちゃんじゃ相手が悪いか。


「なんであんなに上手いのに出たくないの?」

「それなぁ…」


 問題はそこなんだよなぁ……


「あの…水城さんさっきから向こうに入ったままだけど、大丈夫?」


 海玲ちゃんが叉音ちゃんが入っていった毛布を指さしている。


「うん、見てくるね」


 少しひとりにしてあげようかと思っていたけど、そろそろ様子を見に行こう。

(*注1)ヤンキードゥードゥル(Yankee Doodle)アメリカ独立戦争時の愛国歌

(*注2)オレンジ・ブロッサム・スペシャル(Orange Blossom Special)カントリーフィドルおよびブルーグラスの代表曲の一つ

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