表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第5章 祭りの前が一番楽しい!
44/63

祭りの前が一番楽しい! 第2話

「これ、どう?」


 十分くらいが経ち、テーブルの反対側の椅子でアコギを適当に弾いていたわたしにクルッと180度回して見せたタブレットの画面には三曲のリストが動画のURL入りで書き出されていた。


 ・Cannonball Rag(*注1)

 ・12th Street Rag(*注2)

 ・Foggy Mountain Breakdown


 三曲で全て見覚えがある。

 三曲目はこの前バンジョーで弾いてくれたフォギー・マウンテン・ブレイクダウンで二番目も動画サイトの動画を見せてもらった事がある。


 さらに最初の曲は───


「最初のってキャノンボール・ラグだよね? わたしが今練習してる」


 この曲は前に叉音ちゃんにトラヴィスピッキングの練習曲の候補として聞かせてもらって現在練習中、最近はいい感じに弾けるようになってきた。


「うん、今から新しいのを三曲だと大変だから知ってる方がいいと思ったから」

 確かに、ただそれだと気になることがある。

「この二番目の……」


 画面を指さしたところで前に教えてもらった「12th Street Rag」の日本語名が思い出せなくて固まってしまう。


「12番街のラグ?」

「そうそうそれ、叉音ちゃん弾けるの?」


 前に見せてもらった動画ではとてつもなく正確な速弾きをしていて、自分が弾けるかどうかなんて微塵も考えられず、ただただ「凄いなぁ」思っていた記憶がある。

 なのでいくら叉音ちゃんとは言え、本当に弾けるのかどうかが気になってしまった。


「この曲、最初に弾けるようになりたいと思って練習した曲なんだ」


 そう言いながら、叉音ちゃんは口角を上げて初めて見る自慢げな表情をし、それが妙に子供っぽくて新鮮だった。


 おもむろにいつも使っているエレキギターを取り出すと上半身と右足でリズムを取り、長い指がフレットを駆け回って相変わらずのすさまじい速さかつ正確な演奏を始めた。


 わたしは最初にそこの窓から納屋を覗いた時のように圧倒されながら眺めていたけれど、弾き慣れているのか表情は楽しげで本当に好きなのが伝わってきた。

 曲の終わり際は「双頭鷲の旗のもとに」の時のように倍速再生のような速弾きを披露してくれ、最後にはスッキリとしたような表情で締めてくれた。


 相変わらずの演奏で前に見た動画の完コピを披露してくれ、何よりもうれしそうで楽しそうな叉音ちゃんに感嘆の拍手を送る。


「いやー、相変わらず凄いよ叉音ちゃん!」

「ありがとう」


 照れくさそうにしながらも喜んでくれている。


「それで、最後はフォギー・マウンテン・ブレイクダウンだよね。バンジョーも弾くなんて大変だね」

「えっと…こっちはフィドルも弾きたい」

「えっ、フィドルも!?」

「バンジョーを弾いてフィドルのソロも弾こうかと思ってる」


 叉音ちゃんならそれも出来るんだろうけど「マジかよ」という感想が最初に出てきた。


「っていうかそれだとすごい量にならない、楽器?」


 エレキにアコギにバンジョーにフィドル、叉音ちゃんが弾ける楽器を全部持っていくことになる。


「…お父さんにお願いしといた」

「そっか」


 本人があんまり仲良くないと言っていたのに自分から頼んでくれたのに驚くと同時に、本気で自分がやりたいことをやろうとしている熱意というか執念のようなものが見えた気がした。


「よし! そんなことやったら本番は絶対盛り上がるよ、がんばろう!」

「うん」


 不安もあったけど、わたしにはこのまま叉音ちゃんの背中を押して突っ走ることしかできない。

 だから少し無理やり元気に盛り上げて見せたら微笑みながらうなずいてくれた。




 こうしてわたしの方も足を引っ張らないように今まで以上に練習をする決意を固めていたのだけど、前に家でずっとアコギの練習をしていたら家族からクレームが来たからそこをどうにかしないといけない。


「なら、土曜日はうちに泊まって練習していったら?」

「え、いいの?」

「夏休みの時はおじいちゃんもおばあちゃんも喜んでたから大丈夫だと思うよ」


 たしかに畑を手伝うと二人とも喜んでくれるし、叉音ちゃんのお父さんはもちろん、お母さんも”初めての友達”ということでわたしのことはかわいがってくれている。


 ここで叉音ちゃんに練習に付き合ってもらえるならそれが一番いいだろうけど、問題はウチの親を説得できるかで、性格的に多分反対されるだろうけどその時はその時でなんとかなるだろうと憂鬱であり気楽に構えていた。




 帰る前、叉音ちゃんの家族に泊まって練習したい事を叉音ちゃんと一緒に伝えると想像通り了承してくれ、軽い足取り───何ならスキップ混じり───で家に帰ってわたしの家族にもそれを伝えたら想像通り反対された。

 とは言え、すでに水城家の了解は取り付けたし畑仕事を手伝うから邪魔になることはないし学祭の準備なんだしと、説得というかゴネてゴリ押しで認めさせて、おかげで土曜日は畑仕事、日曜日は叉音ちゃんと練習に励めた。


 ただ、平日は行けないし叉音ちゃんの家にいけないし、わたしの家でも練習ができないからこうして学校までアコギを持ってきて帰り道に外で練習しているのだ。

(*注1)キャノンボール・ラグ(Cannonball Rag)トラヴィス・ピッキングの代表曲の一つ

(*注2)12番街のラグ(12th Street Rag)1914年に作曲されたラグタイム曲 叉音が弾くのはRoy Clarkのコピー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ