夏祭りと三つの響き 第2話
モールに行った数日後、こっちに戻ってきた友達数人に誘われてカラオケとボウリングに行って、途中から別の子が合流するとは言われていたけどそれはその子達の出身中学校の友達、つまり友達の友達でなんとなく気まずくてちゃんと楽しめた気がしなかった。
こんなことなら家でギターを弾いてる方がマシだったなと反省しながら部屋でカップ入りのバニラアイスを食べていたらスマホに電話が掛かってきた。
スプーンをくわえながらスマホをひっくり返すと『水城叉音』の名前が見えたので慌てて出る。
「もしもしー!」
〈こんばんは〉
久々に話せると思ったらモヤモヤしていた気持ちが吹っ飛び、いかにも嬉しそうに出てしまった。
〈響、明々後日って遊べる?〉
「あー、一応大丈夫」
〈一応?〉
「明後日からうちの親、両方ともお兄ちゃんのところに泊まりに行くからいないんだよね、あーほら一人暮らししてる」
だから、普通に遊ぶなら大丈夫だけどなんか特別なことをするのは難しいかもしれない。
〈そうなんだ、明々後日にお祭りがあるんだけど、一緒に行かない?〉
「行きたい行きたい、この辺でやるの?」
〈お母さんの地元だけど県内、車で四十分くらいで送り迎えはしてくれるって言ってるから〉
「いいねー、昔からあるお祭り?」
〈うん、おっきい山車が出てくるからすごいよ〉
この辺でもお祭りはあるけど新興住宅地だから歴史があるわけじゃないし、昔からの伝統的なお祭りというのは見てみたい、何より叉音ちゃんの方からわざわざ誘ってくれたのが嬉しかった。
「そうだ、叉音ちゃん浴衣持ってる?」
〈持ってるけど、着るの?〉
「うん、一緒に着ようよ、せっかくのお祭りなんだから」
〈いいよ、じゃあ夕方の五時に響の家に迎えに行くから〉
「わかった、待ってるー」
電話を切り、ロクに満喫できなかった夏休み終盤に舞い込んできたこのいかにも夏らしく夏じみたイベントを叉音ちゃんと過ごせる喜びをひしひしと感じ、ベッドに大の字で寝転んでお祭りをどう過ごそうかと色々と考え始めた。
食べ物はりんご飴に焼きそばに綿飴、かき氷は外せない。あとはあったら型抜きも遊んでみたいし、浴衣を着るんだから一緒に写真も撮りたいな。
と、ここでふと『そういえば浴衣ってどこにあったっけ?』と気になった。
確か中二の時に着たはずだけど、そのあと見た覚えがない、それに当日はお母さんがいないから自分で着られるようにしておかないといけない。
勢いをつけてベッドから起き上がり、リビングで録画したドラマをソファーに座って見ているお母さんに聞いてみる。
「お母さーん、明々後日友達とお祭り行くことにしたんだけど浴衣どこにある?」
「えっ、親戚の子に貸してそのままでしょ?」
「なんで貸しちゃったの!?」
「去年ちゃんと聞いたじゃない、そしたら『使わないからいいよ』って言ったでしょ」
「そんなぁ……」
全然記憶にない、でもこう言ってるってことは多分本当なんだろうな……
「『着ていく』って言っちゃったんだけど」
「自分で言ったんだから自分でどうにかしなさい」
そう言って、ドラマを見るのを再開したお母さんの横にしゃがみ込んでどうしようかと考え込む。
さっき電話したばっかりだし、事情を話して普通の洋服で行ってもいいんだろうけど、すっかり浴衣気分になっているからそんな気にはとてもなれなかった。
「ねえ、浴衣返してもらってよ」
「そんな急に言われてもサヤちゃんに貸したんだから無理に決まってるでしょ」
この「サヤちゃん」というのは親戚で唯一同い年くらいの女の子でお母さんの妹の娘、つまりいとこなんだけど、飛行機の距離に住んでいるから直接会ったのは一回くらいで、明々後日だとギリギリ届くか届かないかだし、そもそもそんな急ぎで返してもらうのはさすがに無理か、こうなったら仕方ない。
「じゃあ明日買いに行くから付き合って」
「えぇ、浴衣じゃなきゃダメなの?」
「だって着ていくって言っちゃったし」
一応お小遣いでお金はある、ただ買うとしたら今日行ったモールになるからいいのがあるかどうかが問題だ。




