≪ 存在 ≫
あなたは・・・どこ?
コンクリート。何度来ても、屋上への階段は壁で閉ざされていた。
喜央が存在している事は分かった。けれども、どうやって会えば・・・。
「あっ、飛行機雲・・・・」
空を見上げ、人が作り出した雲を見て子供みたいに呟いてしまった。
虚無感・・・なのだろうか・・・?
あまりにも早過ぎたのがいけなけなかったのか?
でも、遅過ぎる方かもしれない。
元々、咲隼秀里は頭の切れる奴だ。
しょうがないと割り切る事も出来てしまう、自分が悲しい。
壊れる。あの時俺が言った言葉は適切だっただろうか?
壊れるのではない・・・元に戻るだけなのだけれど・・・。
また、空を見上げる。さっきの飛行機雲は消えてしまっており、青空が広がっている。
「こんなに、ここは・・・悲しい場所だったか・・・な?」
「会長さん。さようなら」
「さようなら」
生徒会長にもなると、知らない生徒からも挨拶をされる。
放課後。
ふと、窓越しに、空を見た。
「あ・・・飛行機雲・・・」
何だろう、この気持ちは・・・。
「屋上からは、もっと綺麗に見えるのだろうな・・・」
目の奥が熱くなる。涙が溢れ出しそうだ。
何でだろうか。会えないなら会えないで良いではないか。今までと変わらないではないか。
その・・・筈なのに。何んでこんなに悲しいのだ。
「ぐっ・・・ひっぐ・・・」
涙が・・・。
「屋上からの景色も・・・ここと大差変わらない」
えっ?
「何で・・・泣いてるんだ?」
私は振り返った。
「何んで・・・ここに?」
立っていたのは・・・。
「喜央・・・京助・・・」
唐突過ぎたのかもしれない。涙が、溢れる。
「な、なんで・・・ここに?」
私が、涙混じりに言ったのが面白かったのか、喜央は笑った。
「笑うな・・・」
私は急いで涙を拭い、目を擦った。
「泣いてる姿は初めてみたな」
そう言いながら、喜央は黒板の前へ行った。
「最近・・・授業出てないから黒板が懐かしいか?」
少し強張ったが、笑顔は作れた筈だ。
けれど、喜央の顔は、笑ってなかった。
「・・・どうした?」
「懐かしい・・・・か」
そう言い、喜央はこちらに振り返った。
「俺は、授業に何か・・・出た事ないよ」
悲しそうに、そう言った。
「えっ?」
私は言葉の意味を理解出来なかった。
何かの冗談を言っていると思った。
「どう言う・・・意味・・・」
「俺は、あの屋上から出た事がないんだ」
意味が・・・解らない。
「何だ・・・それ?面白くない冗談だぞ?」
喜央は、悲しそうな顔をしている。
「でも!今お前、ここに居るではないか!?この・・・教室に・・・」
「まさか・・・出れるとは思わなかったけどな。試してみるものだな」
笑顔を作っていたが、ぎこちなくて、直ぐ偽物だと判る。
「意味が解らない!だって、他の生徒はお前の事を知っていた!出た事がないのなら、知らない筈だ!」
叫んだ。否定する様に。意味を知ってしまったら、喜央までも消えてしまう様で・・・。
「生徒や教師が知っているのは・・・俺が『喜央京助』で『不良もどき』で『サボりの常習犯』ってだけだ」
「だって・・・」
「他の生徒・・・教師には、俺の顔、声、住んで居る家なんか・・・知らない。いや、解らないんだ」
意味が・・・解らない。
「俺は・・・」
言うな!!!
やめてくれ!!!
「俺は・・・存ざ・・・」
「やめろ!!!」
叫んだ。言葉を遮る為に。言って欲しくない。知りたくない。認めない。
「咲隼・・・」
「言うな!何も言うな!言わなければ・・・言わなければ・・・」
私が何を言おうとしているのか、喜央は気付いた様だ。
「もう・・・手遅れだ」
「手遅れなものか!まだ・・・まだ・・・遅く何か・・・ない・・」
涙が・・・。私の全てが流れ出ている様だ。
「俺は・・・」
「やめろ!!!」
遮ろうとした。けれども・・・。
「俺は存在しないんだ」
「いやああああああああ!!!!」
消えた・・・。喜央が・・・私の目の前で・・・。
簡単に、凄く簡単に。あっという間に、消えた。
「き・・・き・・きおぅ・・」
私は、誰もいない夕暮れに包まれた教室で、泣いた。
私の全てが・・・流れ出ている様な、もう全てが・・・悲しい・・・。
まとまってきた。やっと一息。
次ぐらいから話の核心がつかめると思うのですが・・・作者自身終わり方に悩んでいます。
どうしよう・・・。
えぇー次もよろしくおねがいします。




