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老兵の瞳に写る姿

ご覧いただきありがとうございます。

評価、ブックマークしていただきありがとうございます。


立て込んでおりまして更新が滞っております。申し訳ありません。

「いまです!」


ムバラクの声に反応したマーリンは、反射的に指を弾いた。

マーリンの操るリュール(人形)は青白い軌跡を描きながら大きく弧を描いて宙に逃れる。突進してきた敵機が空を切り通り過ぎた。


「できた!」


マーリンの口から安堵の声が漏れた。間髪を入れずムバラクから指示が飛んでくる。


「安心するのはまだ早い! 次が来ます! 備えて!」


敵機を操る男の怒りと興奮が入り混じったような声が通信から流れ込んだ。


「ちっ! 避けたか! 面白れぇ…。 二度も幸運が続くと思うなよ!お貴族様よォ!」


すぐに急旋回した敵機は、赤い軌跡を残しながら、鋭い勢いでマーリンへ襲い掛かった。

しかし、伝わる怒気に、マーリンが慌てることはなかった。


「…大丈夫。きっと、次は、もっとうまくできる。」


目前に迫った敵機の影を見定めたマーリンは、力強く指を動かした。

リュールは僅かに身をひるがえし、無駄のない動きで敵機をかわす。マーリンの口から、自然と自信があふれ出た。


「やった!」

「くそっ!!」


先ほどよりも速度の乗っていた敵機は、慣性に引きずられ大きく体勢を崩した。男の焦りが声に出た。


「やべッ!」


絶好の好機到来に、ムバラクの指示が飛んだ。


「反撃のチャンスです! 仕掛けましょう!」


マーリンの指が走り、魔力が一気に高まる。

リュールは腕部に装着された棒状の装備を引き抜いた。マーリンの魔力に反応して先端が淡く輝くと、瞬時に光り輝く刀身が姿を現した。


「なんだ!? 光でできたソードだと!?」


その蒼い輝きに怯む敵機を、マーリンの鋭い視線が射抜いた。


「今度は、こちらから行く!!」


マーリンの声に合わせてリュールのスラスターが輝きを増す。切り裂くように敵機めがけて鋭く加速し、瞬く間に距離を詰めた。


リュールが敵機と交差する刹那、マーリンの指が滑らかに動いた。流れるように振るわれた光り輝くソードは、美しい軌跡を描きながら敵機の四肢を切り飛ばす。


「お見事です! マーリン嬢!」


その声に、マーリンの表情がぱっと華やいだ。


「くそぉぉぉ!! やられた……!」


悔しさをにじませた男の、断末魔にも似た叫びが響いた。それに続くように、遠巻きに様子を見ていた賊たちの驚きの声が次々に流れ込む。


「どういうことだ!?」

「あれに乗っているのはフルールだろう!? フルールが人形使いだなんて話は聞いたことがないぞ!」


尻込みする賊たちの声を、すぐにヴュルガーの静かな怒鳴り声がかき消した。


「ひるむな! まぐれだ! 相手はたったの1機だ! こちらはまだ4機ある。 数で押せ! いくら新型と言えど、数で押せばいける!」


ヴュルガーの操る黒い人形がソード()を振り上げシールド()に打ち付けた。


「ソードを鳴らせ!」


打ち付けられたシールドから火花がほとばしり、その煌めきに鼓舞された賊たちは同じようにぶつけあう。――怒号が、一斉にマーリンへと向けられる。


「調子に乗るなよ、小娘がぁ!」

「すぐにそこから引きずり出してやるからな!」


胸の奥を叩きつけるような敵意に、マーリンは息を呑んだ。

しかし、怖気づく暇など与えない。ムバラクの力強い声が、マーリンの気持ちを引き戻す。


「マーリン嬢。貴女の動きを見て敵も本気になったことでしょう。ここからが本番です! 見たところマーリン嬢は剣術の基本が身についています。マニューバには()()無駄がありますが、 お教えした()()はできています。であれば、より|高度な動きを()()()()マスターすればいいのです。 大丈夫! マーリン嬢なら、できます!」


マーリンは胸の奥でくすぶった気持ちを振り払い答えた。


「応用編はぶっつけ本番ということね。……わかったわ、やってみる! 指示を頂戴!」


マーリンの答えに、バラクは短くふっと息を漏らした。


「よろしい。僭越ながら、この老兵の戦い方をマーリン嬢にご教授しましょう。準備はよろしいか!」


「いつでも!」


力強く答えたマーリンは、ソードを構える自分の姿を心に描く。 そのイメージに呼応するように、指が軽やかに躍った。



「おい! さっきから、どんどん動きが良くなっていくぞ!」

「はやい! 早くて追えない!」

「くるな! くるな! ぐわぁぁあ!!」


それからは、一方的な展開となった。 マーリンの鋭いマニューバと剣技に、敵たちは次々と落とされていく。 ヴュルガーの表情に、焦りの色が見え始める。


「すまん! あとは頼んだ!!」


最後の敵機が戦闘不能になり、残るはヴュルガーだけとなった。


「まさか、4機の人形が倒されるとは……。だが、これ以上好き勝手にはさせない。 本当は無傷で手に入れたかったが……仕方がない。」


ヴュルガーの指が不穏に動く。操る黒い人形(ナイトホーク)が、リュールへ銃口を向けた。

リュールのコクピットを『ピ、ピピー』という音が支配する。


「な、何!?」


突然のことに、マーリンは目を開く。


「ロックオンシグナル!! いかん!」


ムバラクが叫ぶと同時に、銃口が火を噴いた。発射された弾頭が、目にもとまらぬ速度でリュールに迫る。


「くっ!」


マーリンはスラスターに魔力を送り込む。リュールが長い尾を引きながら大きく宙を舞う。しかし、弾頭はまるで吸い寄せられるように軌道を修正し、距離を詰めてくる。


「振り切れない!?」


加速の圧に耐えながらもマーリンは機転を利かせた。リュールのソードを握る手を手首から先だけで高速回転させ、振り回した。

追いついた弾頭がソードの先端に触れた瞬間、モニターの景色が一面真っ白に染まる。その直後、劈くような『ドーン!』という爆音と強烈な衝撃がコクピットを揺らした。

マーリンは驚きと恐怖で声をあげた。


「きゃぁぁぁ!!!」


やがて、白光が薄れ、色が戻り始めたモニターに、ムバラクの切迫した声が叩きつけられるように響いた。


「…マーリン嬢! 大丈夫ですか!? 返事をしてください!」


マーリンはキーンと痛む頭を押さえながら、声を発した。


「うぅぅ……助かった……の?」


マーリンの声に、ムバラクのほっとした声が響く。


「よかった……。」


しかし、その声をかき消すように、ヴュルガーの苛立ちまじりの声が耳に入る。


「チッ! 身体の一部でも飛ばせば怖気づくと思ったが……ソードを盾にするとはな。」


頭を振ったマーリンは指を動かした。リュールは壊れたソードを捨て、新たなソードを引き抜く。

いまだに戦意を失っていないその姿にナイトホークのソードが、まっすぐに向けられる。


「所詮、温室育ちのお貴族様だ。 すぐに折れる。」


マーリンは呼吸を整え、身構えた。


「…行くぞ!!」


その声とともにマーリンの視界からナイトホークの姿がパッと消えた。


「えっ…消えた!?」


身を乗り出したマーリンはきょろきょろと周囲を見回した。


「ど、どこ!?」


「…ここだ。」


しかし、次の瞬間には、稲妻のような赤い軌跡が目前に迫っていた。モニターを覆うソードを振り上げる黒い影にマーリンは思わず声をあげた。


「うそっ!!」


正確無比なナイトホークの一撃がリュールの手元をかすめる。 切り落とされたソードの先端が、宙へと弧を描いて舞った。


「ソードが!」


「いくら威力が高かろうが、使われる前に破壊してしまえばどうということはない。……次は頭だ!」


目の前の恐怖に、マーリンはとっさに目を瞑り、頭を手で庇う。


しかし、振るわれたソードは頭ではなく、無防備な胴体を打ち付けた。火花が散り、リュールが弾き飛ばされる。


「ぐうぅぅっ…!!」


激しい衝撃がマーリンの身体を貫き、頭の中が真っ白になる。思考が飛ぶ。何も考えられなくなる。リュールは無防備な姿をさらした。


「マーリン嬢! 止まってはダメです! 動いて!」


「後ろが、がら空きだぞ。」


一瞬にして背後に回り込んだナイトホークのシールドが、背中からリュールを弾き飛ばす。


「はぐっぅぅ…!!」


次々に襲い掛かる衝撃、身体が揺さぶられ、思考が追いつかない。マーリンの表情が絶望に染まってゆく。


「そんな……追えない……! ほかと人形のはずなのに……動きが、違いすぎる!」


「次は、脚だ。」


マーリンの意識が脚元へ向く。その瞬間、ナイトホークの振るうソードがリュールの腕を打った。衝撃がマーリンを貫く。ムバラクの焦りに満ちた声がコクピットに響いた。


「奴の言葉に耳を傾けてはダメです! 落ち着いて相手の動きを見き分けてください!」


攻撃は休む間もなくマーリンに襲い掛かり、そのたびに身体は激しく揺さぶられた。 いつ、どこから来るのか分からない底冷えする死の恐怖に、マーリンの精神は瞬く間に削られていく。


「はぁ、はぁ……、うくっ……次は、どっちからくる!?」


迫りくる黒い恐怖に、マーリンの思考は塗りつぶされてゆく。


「マーリン嬢! 落ち着いて!焦れば相手のペースに引き込まれます。ヴュルガーは直撃を避け、人形ではなく貴女だけをじりじりと消耗させるつもりです。 まずは、距離を取ってください!」


距離を取ろうとマーリンが指を動かす。


「そうはさせない。」


しかし、まるで心を読んだかのように黒い影がマーリンの行く手に立ちふさがる。逃れようとしても、黒い影は常に目の前にあった。


振り払えない恐怖に、大きく回避するしかないマーリンは、幾度となく急旋回を強いられる。 急な旋回のたび、身体の内側が引き裂かれるような感覚が走り、せき込んだ。


「ごほっ!ぐう! ぅぅぅ……!!」


こみ上げてくる不快感を必死にこらえながら、マーリンは指先に神経を集中させようともがいた。


「マーリン嬢! それではだめです! 急激な方向転換は控えてください! もっと大きく動くように心がけてください!」


「くっ……わかっ、てる……でも、そんなこと、言われても……!」


マーリンは歯を食いしばり、薄れそうになる意識をつなぎとめた。喉の奥から声が漏れる。


「このままじゃだめだ! このままじゃ!!! なんとかするんだ!」


この一瞬を越えなければ。とにかく耐えなければ。 そうでなければ、自分が正しいだなんて胸を張って言えない―― マーリンは必死にそう自分に言い聞かせていた。


そんな心の内をあざ笑うかのような声が耳を刺す。


「いくらあがいても無駄だ。あきらめろ。今なら命だけは助けてやる。……命だけは、な。」


マーリンはその声に、強く首を横に振った。


「……もういい。相手が悪い。これ以上は危険だ! 援護します! すぐに後退してください!」


マーリンは頑なにその声を拒んだ。


「だめ! そんなことしたら……!!」


「しかし…!! このままでは! 貴女が!」


マーリンの悲痛な声がコクピットにこだまする。


「……私は! 正しいことをしなくちゃならないのよ! たとえ!……刺し違えてでも!!」


「マーリン嬢!! やめなさい!!」


ムバラクの叫びは、もはやマーリンには届いていなかった。見えていたのは自分の()()()を阻むモノそれだけだった。

マーリンはヴュルガーをきつく睨みつけると、最後の一本となったソードを構える。


「捨て身の覚悟で来るか……いいだろう。ならば、お遊びはここまでだ。 そろそろ終わりにさせてもらう。」


ナイトホークの構えたソードに魔力が流れ込み、白刃が赤黒い光を放ち始める。ヴュルガーの冷たい声が響いた。


フルール()・デスポワールの名に恥じることなく、華々しく宇宙(そら)に散れ。」


鋭い切っ先が、リュールの胸元(コクピット)へと向けられた。


「……行くぞ!!」


その声を合図に、二人の指が動く。向かい合う人形は同時にスラスターを輝かせた。二人の距離は、みるみるうちに縮まってゆく。


()()()()()()()を狙った鋭い一突き、それを見定めたマーリンは。


(―――あなたの狙いは、わかってる!)


ヴュルガーの思惑を見透かしたマーリンは、指を滑らせた。 リュールはそらした半身を正面へ戻し、あえて身体の中心(魔力変換炉)をさらけ出すように動く。


「まずい!!」

(変換炉を破壊するわけにはいかない!!)


意表を突かれたヴュルガーは、慌てて勢いを殺し、切っ先をわずかにそらした。 次の瞬間、二つの人形は激しくぶつかり合う。 リュールの片腕が千切れ飛び、そらされたソードは硬いショルダー装甲を突き破った。


大きく映し出されたソードを横目に、マーリンは声を張り上げた。


「これで!! チェックメイトよ!!」


リュールは未展開のソードをナイトホークの腹部装甲(魔力変換炉)へと勢いよく突き立て、無理やりねじ込む。


マーリンは両手を強く握り、ソードへありったけの魔力を送り込んだ。膨大な魔力を受けた刃先が激しく脈打ち、真蒼の刀身が一気に展開された。


放たれた光の筋がナイトホークを突き抜ける。流れ込んだ魔力が変換炉へと一気に押し寄せた。


「魔力が! 流される……!!」


ヴュルガーは叫んだ。

マーリンの魔力は、ナイトホークの変換炉に満ちていたヴュルガーの魔力を押し流した。それでもなお止まることを知らない奔流は処理しきれず、魔力がナイトホークに張り巡らされた伝達路を逆流していく。

やがて、行き場を失った魔力が内側から装甲を食い破り、青白い光が縦横無尽に噴き出した。


「ぐぉぉぉぉぉ…!!!!」


まばゆい光に飲み込まれたヴュルガーの断末魔が宇宙(そら)に轟く。

音声はそこで途絶えた。魔力の光に内側から破壊されたナイトホークは、至る所がズタズタに切り裂かれ、崩れ落ち、完全に沈黙した。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ、んく……やった、のね……はぁ……。」


マーリンは大きく肩を上下させる。

しかし、すぐに周囲に視線を走らせた。目的のものを視界に納めたマーリンは他には目もくれずにらみを利かせる。


その視線の先には、ヴュルガーとナイトホークを失ったことを知り、宙域を離脱するため徐々に速度を上げていくレッドコメットの姿があった。


「逃がさない!。」


肩に突き刺さったままのソードに手をかけたリュールは、それをぎこちなく引き抜いた。逃げるレッドコメットを追うため魔力を高めたマーリンを、ムバラクの声が止める。


「マーリン嬢……もう、十分です。あとは、我々にお任せください。」


「だめよ! まだ……、終わってない!」


「貴女の……!! リュールの状態を、よくごらんなさい!!」


ムバラクの大きな声に、息を呑んだマーリンはモニターへと視線を向ける。そこにずらりと並ぶ赤いメッセージを見た瞬間、肩の力が抜け、シートに倒れこんだ。


「ごめん…リュール……、キャプテン。あとを、お願い…。」


マーリンの言葉を受け、ゆっくりと頷いたムバラクはメインスクリーンに向かって口火を切った。


「全班に告ぐ! 人形部隊の脅威は排除された! これより敵艦の制圧に移る! 警報を鳴らせ! 反応炉出力最大! レーザー砲、シャッター開け!」


そして、指先をぴんと伸ばして帝国式敬礼を取ったムバラクは、声高らかに号令を発した。


「――シャルンホルスト! 最大船速! 目標、敵艦レッドコメット! アボルダージュ《突撃》!」


その声にシャルンホルストのメインエンジンが一斉に青白い火を噴いた。船体は一気に加速し、瞬く間にレッドコメットの後方へと躍り出る。


「レーザー砲! 一斉射! 撃てー!!」


シャルンホルストから、八本の光が一斉にレッドコメットへと放たれた。レーザーは青白く輝くエンジンノズルに直撃し、ノズルを横一文字に断ち割る。次の瞬間、レーザーの熱にやられたレッドコメットのエンジンは完全に沈黙した。しかし、レッドコメットが停止したわけではない。


「主舵! 敵艦の正面に出る!」


シャルンホルストはレーザーを放ちながら、そのままレッドコメットの艦首へと回り込んだ。レーザーの集中照射を受けた艦首の装甲板が赤熱し、燃え上がるような赤に染まっていく。


やがてレッドコメットは徐々に速度を落とし、シャルンホルストの目と鼻の先で完全に停止した。クルーの一人が声をあげる。


「敵艦の停止を確認! 制圧班、順次発進!」


その声とともに、シャルンホルストから制圧班を乗せた救命艇が次々と発進していく。レッドコメットの甲板へ強硬着艦した救命艇のハッチが開き、制圧班が一斉に飛び出した。


「突入ー!!」



それからほどなくして、ムバラクの元へ通信が入った。


「……シャルンホルスト。こちら制圧班。賊は投降した。繰り返す、賊は投降した。我々の勝利だ!」


それを聞いたブリッジのクルーたちは一気に沸き上がり、互いを褒めたたえ合った。その歓喜の渦の中で、ムバラクはひとり大きく息を吐き、メインディスプレイを見上げる。


そこには、レッドコメットの甲板で仲間たちに囲まれ、フルール・デスポワールの掛け声とともに称賛を浴び、花が咲いたような笑顔で喜び合うマーリンの姿があった。


その姿をじっと見つめていたムバラクに、クルーの一人が静かに声をかけた。


「キャプテン……ご報告したいことがあります。」


声に振り返ったムバラクは、目深に被ったクルー帽の下からわずかに覗くブロンドの髪を見た途端、表情をより険しくした。

しかし、クルーはムバラクの表情など気にも留めず一方的に報告を始めた。


「こちらの被害ですが、怪我人が数名出ています。いずれも突入時の転倒による軽傷とのことです。」


ムバラクは黙って頷いた。

クルーはそのまま、ゆっくりとメインスクリーンへ視線を移した。


「しかし、積み荷の試作機はあの通り中破しています。加えて、レーザー砲の過度な使用により、本船の反応炉がオーバーヒートしました。」


ムバラクは低くうなり声を漏らし、問いかけた。


「む……反応炉か。自力での航行は可能かね?」


「いいえ、しばらくは無理です。」


「そうか……。では、近傍の星系にえい航艦の要請をしたまえ。」


「了解しました。」


用は済んだとばかりに視線を外したムバラクに、クルーは口を開く。


「それにしても、一時はどうなるかと…。あなたのお蔭だ、キャプテン。」


その口元が、わずかに弧を描いた。


「……少し、口が過ぎました。報告は以上です。」


クルーは深々と頭を下げ、静かにブリッジを後にした。


解放されたように息を吐いたムバラクは、後ずさるようにキャプテンシートへ身を沈め、ゆっくりと視線を上げた。


視線の先、船長帽のつばの向こう側に映るのは、いまだ勝利の喜びに酔いしれる者たちの姿。


「……貴女はやはり、たいしたお方だ……。しかし……。」


そして、その中心にいるのは、それを成し遂げた希望(レスポワール)として、讃えられる少女。


視界の端には、片腕を大きく損傷した人形(リュール)が、ただ静かに立っていた。


「自分の信じた、正しいことか……。」


修羅場を潜り抜けてきた老兵の瞳に映るのは、華やかな容姿の奥に、得体の知れない危うさをひそませた少女の姿だった。

ここまでお読みいただき有り難うございました。

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