39 決意
何とかホテルに帰って来れた。腕は無くしたが、予定通りだともいえる。まぁ、本来の予定では王城は奪還していたはずだけど。プランBだ。
「ターニャ、腕は大丈夫。私の魔法では腕は元に戻らないよ。でもいつかレベルを上げれば魔力が上がって四肢の欠損も治すマキシマムリカバリーが使える様になるよ。取り敢えず今は魔素がほとんど無いからヒール使うよ。傷口は綺麗になるはずだよ。『ヒール』」
彩芽が血を止めてくれた。かなりの出血だったらしく眩暈がする。
「でも、マキシマムリカバリーは魔素が1000必要だから魔力も1000必要だよ。人類の最高が200ならとても無理だよ。どうしよう。」彩芽が嘆く。
「その点は後藤君なら大丈夫、魔力は十分足りてるから、後は魔素だね。」
「え、後藤ちゃん凄いね。で、後藤ちゃんにはいつ合わせて貰えるの、私三号さんなのに。今だに会えてないよ。」
「じゃ今から合わせてあげるわよ。」シフトするわよ。
――― 後藤 ―――
「俺が後藤だよ。魔素は魔力供与が有れば使えるけど供与できる人がいないな。」
って、手が痛い。痛すぎる。麻酔の魔法は無いか、ステータス表示を探してみると有った。『アナスィージャ』。MPは50だ。足りない。
「橘、ちょっと魔素貰っていいい。今MP10あるからMP40もらっていい?」
「いいよ、40位なら余裕よ。」
『アブストラクト』>『魔素40mp』念じるとMPが増えたので、『アナスィージャ』<『左腕』と念じると左腕の痛みが消えた。暫くはこの魔法のお世話になりそうだ。
ターニャは極度に披露している。手が切り落とされている、その上、精神的にも参っているだろう。敗北は初めてじゃないのか、しかも手も足も出なかったから。落ち込みが激しいだろう。
手は大丈夫だぞ、俺が元に戻してやるから。【そう、期待しないで待ってるわよ。あなたの事だから間違えて手を三本にしないとも限らないし。】大丈夫だよ。その時は切り落としてやるから。【あなたじゃ絶対切り落とせないわよ。その時は勇者リーダーに頼むわよ。】信用ないな。
「これからどうするんだ。橘は。城に帰る訳にもいかないだろ。」
「わ、私?私は二号さんするって決めてるから。」
「なにそれ?本気?」
「奥之院さんは?」
「なぜ呼び方変わったのぉ?私は後藤ちゃんの三号さんするって決まってるそうだよぉ。って後藤ちゃんはどこ?あなたはターニャ様でしょ?」一寸読解力が足りない娘らしい。
「それじゃ、みんなで一緒に逃げるか。どこへ逃げるとか決めてないけ、港町へ行きながら決めよう。」
「なぜ港町?」
「船が有れば違う大陸にでも逃げられるだろ?」
「おー、勇者の次は海賊するのね。船造らないと。」
「船は作る予定だよ。」
「その前に、ターニャの姉が外国に留学しているらしいから国に戻らない様に忠告しないと。だから次はセネルランドだ。」
コンコンとドアがノックされた。
「イサドヌインですが、よろしいでしょうか。」
「どうぞ。」
「お城が騒がしいようですが何かあったのでしょうか。」
「今日第二王女がクーデターを起こしたようですね。」
「ん?どうかされましたか?また敬語に戻られて。でも、クーデターですか。って腕は?腕は大丈夫ですか?どうされたんですか?無敵のターニャ様が。」
「これは前回の勇者にやられました。」
「では、前回の勇者は生きていたのですか。」
「今回のクーデターの為にデマを流したようですね。王も王女も王子も王妃も第二王女以外は幽閉されたようです。」
「なんか、他人事のように聞こえるのですが・・?」
「気にしないで下さい。それで、先刻助けに城へと赴いたのですがこの様です。首謀者は第二王女と考えていたのですが、ガラメデオン侯爵でした。今では王と自称しています。前の勇者はかなり力を付けていて、今のままでは勝てません。このまま此処に居ては捕まるのも時間の問題です。だから暫く旅に出ようと思います。イサドさんは腕のいい船大工を御存じないですか。」
「船大工ですか?ル・ブレーハと言う港湾都市をご存知ですか。そこで私の友人がシップヤードを経営しています。そこで望みの船を建造してもらえるでしょう。もし外国迄行く必要があれば、特に別の大陸へ行く必要があれば荒波にも強い少々巨大な船を建造する必要があるでしょう。」
「いえ、それほどのお金はありません。」
「このままガラメデオンの支配が続けば、この国が、ひいては私の会社がどうなるか分かったものではありません。自己の為に目先の事だけ考え税を重くすると言う暴挙に出て、民の暮らしに負担をかけ、ひいては経済が回らなくなるでしょう。そしてその結果民の暮らしが悪くなり徴税額も少なくなるがために更に税を重くすると言うデススパイラルになるのではないでしょうか。だからこそ、ガラメデオン王の支配を打倒する必要があり、その為にはターニャ様が必要です。ターニャ様には軍を率いて王城を、この国を取り戻して頂きたい。だから、ターニャ様にとって此れからは力を付ける為の雌伏の時です。その為に必要であれば費用はこちらから全て捻出しましょう。思いのままの船を注文して下さい。まぁ、そのシップヤードのオーナーは私ですから、それほど金は掛かりませんよ。船は私の奢りという事で気にせずお受け取り下さい。」
「本当に有難うございます。絶対に国を取り戻します。」
「それと逃亡の為の馬車を用意します。それに隠れ王都を脱出する方が良いでしょう。すでに王都の門は兵士が配備されていると思われます。」
「それなら大丈夫です。明日ネス川沿いのレ・リュミーと言う村落に馬車と食料を用意して頂けないでしょうか。俺達はそこまで『転移』の魔法で転移しますので。」
「転移の魔法が使えるのですか?それは凄い。そちらの賢者様が使えるとは思えませんがどなたが。」
「そうか、イサドさんは『鑑定』のスキル持ってるんでしたね。俺ですよ。俺が使えます。」
「『鑑定』してもよろしいでしょうか。」
「いいですよ。遠慮して『鑑定』してないから分からなかったんですね。」
「ええ、王族の方に勝手に鑑定するなど不敬罪ですからね。」
「ホントですね、今はすっからかんですが340に増えましたね。以前は15位でしたから。ん?どうされたのですか、この攻撃力は?28しかありませんよ。以前は3000超えてたのに。弱すぎますよ。」
「弱すぎて済みません。ちょっとした事情がありまして。」
「まぁ、お気になさらずに。では明日昼までには用意させます。ただの商隊の装って王都を出てレピビエッテでお待ちしております。食料を一度お持ちしてその後は誰にもここへは来ないようにさせます。誰か来たら敵だという事です。お気を付けを。それから、商隊の隊長には私の部下を付けます。シップヤードへの取次や、宿の手配等も致しますので。旅に慣れた有能な奴ですので安心して下さい。ただ、戦闘力はあまりないので勇者様方、ターニャ様の事も併せてくれぐれもよろしくお願いします。
では、私はこれで。今度会う時は王城が奪還される時であることを祈っております。」
ターニャにシフトした。
――― ターニャ ―――
「イサド、気を付けて行って来るわ。次は強くなって帰って来るから誰にも負けないわよ。」
「突然普通に戻られましたね。もう一度鑑定しても?おー戦闘力が戻ってますね。なるほどそう言う事ですか。」
「イサドも気を付けて、ガラメデオンが何か言って来るかも知れないし。犯人蔵匿で逮捕されない様に。アニックにも元気でと伝えて。じゃぁ、元気でね。」
「ターニャ様もお元気で。御両親や御兄弟の事は何かわかりましたらシップヤードへ手紙を送りますので。それと、部屋を四階に用意しました。この部屋はこのままにして追手が来たら逃げたと思わせるようにしましょう。」
イサドに案内されて四階の部屋へ移った。401号室で真下の部屋だった。
その後、イサドは帰って行った。
もう会えないかもしれないけど、絶対に帰って来る。
絶対に取り戻す、全て・・・
――― 第一部完 ―――




