序章 始まりの少女
序章 始まりの少女
一人の少女が歩いていた。
部活帰りですっかり日の暮れた夜空の中、街灯の明かりを追いかけるように、歩いていた。
周りには誰一人としていない、駅前にしては不気味な静寂。
チカチカと点滅する街灯の明かりが、淋しさの色をより濃いモノへと移し換えていく。
ただ、独り。
かつ、かつ、とローファーの足音を立てながら、駅に向けて歩いて行く。
異様な静けさと淋しさ、それが少女の脚を少しずつ早いモノへと変えていく。
そして、そこで別れ道が現れた。
片方は普段使う、明るい大通りの道。
片方は普段使わない、暗く細い近道。
少女は迷うことなく、細い道へと入っていた。
この静けさが怖くて、少しでも早く帰りたいと急いで、脇道を歩き始めた。
――かつ、かつ、かつ、
民家に囲まれた狭い道の中では、足音がよく響く。
――かつ、かつ、
人一人分の幅しかない、狭い道。
――かつ、
足元もはっきりと見えない程、暗い道を歩く。
――ぴしゃ、
その時、足音が変わった。
水溜りを踏んだ時の様な、液体の弾ける音。
それが耳に伝わった。
いつの間にか歩く事を止め、両足が水溜りの中に浸っていた。
どこからかともなく込み上げてくる、鉄錆のような不快な臭い。
民家しか周りにないここではあり得ない臭いに、脚を止めていた。
――かつ、かつ、かつ、
すると、少女の背後から足音が聞こえてきた。
――かつ、かつ、
少女の元へと近寄って行く一つの足音。
――かつ、
それが、真後ろから鳴った。
――ぴちゃ、
背筋が凍った。
背中に息が掛る程すぐ近くに、何かがいる。
刺すように冷たい気配、それが何なのか確かめる為に、振り返る。
ゆっくり、ゆっくり。
そして、シルエットが見えた。
黒く長い髪、伏し目がちに下を向いたセーラー服を纏った少女。
それを見た瞬間、心臓が跳ね上がった。
引かれるように、後ろへと後ずさる。
その度、ぴちゃ、ぴちゃ、とイヤな音が耳へと伝わる。
距離を詰めるように、セーラー服の少女が前へと歩む。
薄暗い路地裏、雲に覆われていた月明かりが降り注ぐ。
綺麗な黒髪の下に隠れていた容貌、病的な程、白い肌。
そして、その肌を染め上げるのは、幾つもの紅い水滴。
表皮を撫で、下へと流れ行くそれが、水溜りへ落ちた。
――ぽちゃん、
やたらと大きく聞こえてしまうその音。
そして、その水滴が加わったモノを見て、更に脈が速くなる。
足元にあったのは、月明かりに照らされ、赤黒く光る血溜まりだった。
そして、この臭いが血だとわかってしまった瞬間、吐き気が込み上げてきた。
涙で滲む目元、その目でセーラー服の彼女を見つめる。
目の辺りから流れ出る、紅い液体。
止めどなく、永遠と滴り落ちる。
白かったであろうセーラー服も、紅く染め上げられ元の色がわからなかった。
だらり、と垂れている両腕。
掌にべったりと血を付けた腕が彼女の方へと向けられた。
そして、セーラー服の少女が静かに口を開いた。
「…………くせに」
底冷えするような冷徹な声の後に、少女の断末魔だけが響き渡った。
…………




