その光の隣で
自室に戻ると、変化した付喪神たちで、占領されていた。今、屋敷がごたごたしているので、気を使う必要はないと判断したようだ。わいわいとして、こちらはすでに、宴会の様相を呈している。
「なんだ、八雲、篝と一緒に居てやらないのかい?」
八雲は苦笑いした。
「支度やら何やら、屋敷中ばたばたしていてな。俺はどうも邪魔なようだから、一旦逃げてきた」
木蘭が、それを聞いてからからと笑う。そして、悪戯っぽく目を眇めて、美しい顔を寄せてくる。
「八雲、あたしらの姫を泣かせたら、承知しないよ。―――銀が」
頷きながら、笑顔が引きつった。銀を怒らせたら、洒落にならない気がする。あの白銀の目で、冷たく睨まれるのは、もうこりごりだ。
もっとも、泣かせるつもりは、毛頭ないが・・・と思いながら、銀の方をちらりと窺う。
銀も八雲を見ていて、目が合った。逸らされるかと思ったが、彼は珍しく、八雲の顔を見ながら、口を開いた。
「・・・そうだな」
そして、本当に珍しく―――八雲の前では初めて、彫り物と見まがう整った顔に、微笑を浮かべた。
「泣かせたら、承知しない」
言葉とは裏腹に、銀色の瞳は、優しかった。
虚を突かれた八雲に、違う方向から声がかかる。
「八雲。お前、祠を建てる気はないか」
振り向くと、にやにや笑う金色の神がいる。
「あまり、人の来ない所が良いな。庭の隅が良い」
「庭・・・とは、うちの庭ですか?」
「当たり前だ。縁もゆかりもない人間に祀られて、何が面白いんだ」
「あんたは、考え方が妖寄りだよ」
木蘭が呆れた声で言った。しかし、彼女もやはり、楽しんでいる。
「ああ、時折、自分が神だったか、妖だったか、分からなくなる」
稲荷が、本気とも冗談ともつかない相槌を打った。
「ゆえに、神だと忘れないように、祀っておいてもらおうという話だ。どうだ? 八雲」
そして、底の見えない金の瞳を、不敵に細め、歌うように言う。
「お前たちの末裔を見届けるのも、また一興だ」
*****
今夜は雲がなく、細い月がよく見える。
「八雲」
隣に来た篝が、寄り添うように腰を下ろした。彼女は、変わらず、八雲をそう呼ぶ。
いつか、あの隠れ村で、二人で月を眺めたな。
そう言って、彼女の細い手に、自分の手をそっと重ねる。
そうね、と言って、篝が笑う。
八雲を真っすぐな目で見つめて、篝が笑う。
これからも、未熟で甘い自分は、迷い、悩み続けるのだろう。
薄れていく兄の面影を、時折思い出しては、惑いながら、生きていく。
それでも、先の見えない闇を恐れて、足を止めたりはしないだろう。
傍らに、暗闇を照らす炎が、燃えている。
完
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
架空の国ということでごまかしていますが、設定に加えて時代考証その他、つっこみどころは多々あったかと思います。にもかかわらずお付き合いくださった方、本当にありがとうございます。
そのうち、スピンオフ、後日談など集められたらいいな、と思っております。もし興味を持っていただけたら、よろしくお願いいたします。
高校時代の友人たちに、感謝をささげます。
Pfirsichちゃん。イラストくださってありがとう。ほんとに嬉しいです^^




