定めた心
「朝桐殿・・・よう、ご無事でいてくださいました」
露香は涙ぐんだ目で、夫の近侍を見つめた。隣で、景雪が、二人を見守っている。
「許せとは申しませぬ。さぞ、お怨みのことでしょう」
「お方様」
八雲は、困ったように微笑した。
「私は、良いのです。こうして、生き延びております。・・・護りたかった者も、なんとか、護り切ることが出来ました」
濡れた瞳が、見開かれる。
「・・・朝桐殿は、人が好すぎます」
八雲と景雪が、同時に苦笑する。
口元を引き締め、八雲は静かに、露香御前を見返した。
「お方様。・・・私を襲った者たちは、皆、命を落としました。術者の男も、獣を縛った報いを受け、命を落としました」
露香は瞑目し、頷いた。
「承知しております。・・・わたくしの業は、深い」
再び開かれた目には、真摯な光が灯っていた。
「朝桐殿。どれほどの時がかかるとも知れませぬが、わたくしは、苑枝と金門の仲を、善きものにしていきたい。そのために、尽力したいと思います。―――樟井景雪の、妻として」
「まあ、三男と傍流の姫では、出来ることなど限られようがな。こういうことは、少しずつだ」
景雪が、闊達に笑う。
「八雲。よくやってくれた。・・・本当に、よくやってくれた。ありがとう」
「もったいないお言葉です、景雪様」
*****
向かい合って正座する息子を見据える。灯台の火が、端正な顔を照らし出している。良い面構えになってきたな―――と、頭の隅で、ちらと思う。常盤は、ゆっくりと口を開いた。
「覚悟は決まったか」
「はい」
八雲が背筋を伸ばした。
「継ぎませぬ」
「なに?」
潔く言い切られ、常盤は目を見開く。
「お許しください、父上。私は、家は継ぎませぬ」
八雲は、うっすらと微笑した。
「ですから、隠居なさるのは、竜樹が元服するまで、待っていただけませんか」
息子の思惑を悟って、常盤は声を上げて笑った。この清々しい目をした若者が、自分の子かと思うと、心が朗らかに広がっていく気がした。
・・・八雲の目は、常盤に、懐かしい人を思い起こさせる。
(我らの息子は、なかなか面白い男に育っておるぞ、美鶴)
左様でございますね、と笑う妻の声が、聞こえるようだった。
「お前を頼りにするであろうな。支えてやってくれ」
「はい。・・・それから、父上。もうひとつ」
「何だ。申せ」
「妻を娶りたいのですが」




