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篝(かがり)  作者: 涼玉兎
四 炬火(たいまつ)
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24/29

揺らぎ

「露香。・・・術者と繋がっていたのは、お前だな?」

 景雪の静かな声に、露香は震える。

「ずっと、不思議に思っていた。なぜ、人知れず調査に乗り出した八雲が、あれほど早い時期に、命を狙われるはめになったのか」

「・・・殿」

「私は、噂が不確かなうちは、大事にはすまいと思って、誰にも話していなかった。・・・お前以外」

 こんな人、平気で騙せると、思っていたのに。たとえ夫婦(めおと)となっても、惹かれるはずがないと、思っていたのに。

「八雲を襲わせたのは、お前なのか」

 厳しい目で見つめられて、今、自分の心は、こんなにも苦しい。あの、ほんわりとした笑顔を向けられる時、自分がどれほど安らいでいたのか、今更気付く。

 気付いたところで、もう遅い。

 ・・・否、気付いていたのに、目を逸らしていたのだ。

 自分が駒のひとつに過ぎぬということは、分かっていた。心のままに泣き叫ぶ赤子のように、自分を見てくれと叫ぶことは、露香には許されなかった。ならば、心を持たぬ駒になろう。―――そう決めた。決めたはずだった。しかし、自分はついぞ、心のない駒にはなり切れなかったのだ。

 自分の覚悟など、この程度だった。自分はしょせん、この程度の女だった。


 そして今、自分を見てくれた人の心さえ、失おうとしている。


 そう思うと、視界が滲んだ。駄目だ、泣いてはいけない。どこまで愚かな女なのだ。これほどのことを仕出かしておいて、泣いて許されようなどと、嫌わないでほしいなどと、そんな虫の良い話が―――

「露香」

 露香は、はっとして顔を上げた。

 こらえようとして、零れてしまった涙を、長い指が掬う。

 景雪が、間近に、困った顔を寄せていた。

「泣くな」

 その声を聞いて、露香は、わっと泣き崩れた。

 泣くなと言われても、無理だった。

「殿・・・景雪様! 隣国は、この国の神を、消すつもりなのです。巫女の娘を、獣の妖に食らわせて、神殺しの力を得るつもりなのです!」

 景雪は戦慄した。

「そのために、術者を送り込んだのか・・・」

 金門の国が、露香を輿入れさせたのは、元より、和平のためではなかったのか。

 比咲神社の神がいなくなれば、守護をなくした苑枝の国に、妖魔が溢れる。十五年前の飢饉に匹敵する、否、上回るほどの被害が出るに違いない。

「朝桐殿が、危のうございます。今宵は、新月・・・きっと、獣が現れます・・・!」


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