揺らぎ
「露香。・・・術者と繋がっていたのは、お前だな?」
景雪の静かな声に、露香は震える。
「ずっと、不思議に思っていた。なぜ、人知れず調査に乗り出した八雲が、あれほど早い時期に、命を狙われるはめになったのか」
「・・・殿」
「私は、噂が不確かなうちは、大事にはすまいと思って、誰にも話していなかった。・・・お前以外」
こんな人、平気で騙せると、思っていたのに。たとえ夫婦となっても、惹かれるはずがないと、思っていたのに。
「八雲を襲わせたのは、お前なのか」
厳しい目で見つめられて、今、自分の心は、こんなにも苦しい。あの、ほんわりとした笑顔を向けられる時、自分がどれほど安らいでいたのか、今更気付く。
気付いたところで、もう遅い。
・・・否、気付いていたのに、目を逸らしていたのだ。
自分が駒のひとつに過ぎぬということは、分かっていた。心のままに泣き叫ぶ赤子のように、自分を見てくれと叫ぶことは、露香には許されなかった。ならば、心を持たぬ駒になろう。―――そう決めた。決めたはずだった。しかし、自分はついぞ、心のない駒にはなり切れなかったのだ。
自分の覚悟など、この程度だった。自分はしょせん、この程度の女だった。
そして今、自分を見てくれた人の心さえ、失おうとしている。
そう思うと、視界が滲んだ。駄目だ、泣いてはいけない。どこまで愚かな女なのだ。これほどのことを仕出かしておいて、泣いて許されようなどと、嫌わないでほしいなどと、そんな虫の良い話が―――
「露香」
露香は、はっとして顔を上げた。
こらえようとして、零れてしまった涙を、長い指が掬う。
景雪が、間近に、困った顔を寄せていた。
「泣くな」
その声を聞いて、露香は、わっと泣き崩れた。
泣くなと言われても、無理だった。
「殿・・・景雪様! 隣国は、この国の神を、消すつもりなのです。巫女の娘を、獣の妖に食らわせて、神殺しの力を得るつもりなのです!」
景雪は戦慄した。
「そのために、術者を送り込んだのか・・・」
金門の国が、露香を輿入れさせたのは、元より、和平のためではなかったのか。
比咲神社の神がいなくなれば、守護をなくした苑枝の国に、妖魔が溢れる。十五年前の飢饉に匹敵する、否、上回るほどの被害が出るに違いない。
「朝桐殿が、危のうございます。今宵は、新月・・・きっと、獣が現れます・・・!」




