■第70話 再集結編 新しい席、新しい景色
師匠のオフィスに二人の新しいアシスタントが加わる。
デスクの配置から始まって、日常の変化、そして新たな大プロジェクトへと物語は展開していく。
■ 始まりの一言
「デスクを……用意しないとね」
師匠のたった一言が、さくやの頭をフル回転させた。手にしたオフィスの見取り図をじっと見つめ、あれこれと想像を膨らませる。新入りの二人の席、そして──
「爆音社長の席も……いや、もう来てるかも?」
小さな体でせわしなく動き回る妄想の中のさくやちゃんたち。
「外にプレハブ建てる?」
一瞬浮かんだ案も、秒で却下。みんなの心の声が一致する。
「さすがにそれはないな……」
オフィス内の限られたスペースを有効活用するしかない。30センチの身長のさくやたちにとって、人間サイズのオフィス配置は一大事業だった。
■ 配置という名のパズル
オフィス内で一番目立つ位置──入ってすぐ左手にある師匠のデスク。新しい席はどこに?
「奥やな…」
理由は直感。小さきものの直感は、意外に当たるのだ。
奥のスペースに、新しい三つのデスクが並んだ。そのうち一つ──爆音社長用は天井まで届く防音パネルで完全に囲まれている。音量はもはや規格外。仕方ない、完全個室仕様である。
さくやたちが小さな脚立を使って配線作業を行い、人間サイズの家具を一生懸命組み立てていく光景は、なかなか微笑ましいものだった。汗をかきながらも、新しい仲間を迎える準備に一所懸命取り組んでいる。
■ 新しい仲間たち
そして、新入りの二人。さくやは勝手にこう呼んだ。
「JDさん」「OLさん」
そのまんまの呼び方だが、二人は笑顔で受け入れてくれた。ノリも悪くない。
師匠の指示は、いつも通り端的で簡潔だった。JDには勉強用資料やデータ整理を、OLには設計レビューや簡単なCAD業務を割り振る。
JDは最初、慣れない作業に四苦八苦していた。大学で学んだ理論と実務の違いに戸惑い、資料整理も時間がかかってしまう。
「あれ、この計算式、教科書と違う……」
「実際の設計では、安全率をこんなに取るんですね」
一方、OLは前職での経験を活かそうとするものの、土木設計の専門性に苦労していた。
「CADの操作は慣れてるんですが、この記号の意味が分からなくて……」
「以前の会社では建築だったので、道路設計は初めてなんです」
それでも二人とも、分からないことは素直に質問し、真摯に学ぼうとする姿勢を見せていた。
■ 小さな嫉妬という名の感情
さくやのモヤモヤは、日ごと膨らんでいく。二人が徐々に業務に慣れていく一方で、自分はずっと同じような雑用に追われている気がした。
勤務時間も違う。JDは大学を終えて夕方から夜まで、OLは朝から夕方まで。専用マグカップには、ʕ•ᴥ•ʔ マーク。タオルにも同じマークがびっしり。二人も微笑んで受け入れていた。
昼食時には、自然と二人の席が増える。爆音社長が顔を出すと、防音パーテーション越しに覗き込み──
「席できたのおおおお!?……ほぼ監禁部屋じゃねえかぁ!防音かよぉぉぉ!」
自覚はあるらしい。金髪を振り乱しながら防音室に入っていく姿は、なんだか可愛らしくもあった。
■ それぞれの日常
夜になると、さくやは日課としてJDをバス停まで送る。猫がてけてけ後ろをついて歩く。家族の迎えの車が来ると、茂みにさっと隠れる小さなさくや。正体を見せないのが、なぜか礼儀に思えた。
OLは真っ赤な車で通勤。爆音社長は「改造したい」とうずうずするが、OLは笑ってやんわり断る。
作業着やスーツの裏地にも、びっしり ʕ•ᴥ•ʔ マーク。二人とも最初は驚いていたが、今では自然に受け入れている。むしろ、そのマークを見るたびに微笑んでいるようにも見える。
さくやにとって、二人が自分たちの世界を受け入れてくれることは大きな喜びだった。でも同時に、複雑な感情も芽生えていた。
■ 溶け込んでいく日々
いつしか二人はオフィスに完全に溶け込んでいた。JDは最初の頃の戸惑いも薄れ、資料整理のスピードも上がってきた。大学で学んだ基礎知識が実務で活かされ始めている。
OLも前職でのパソコン操作の経験を活かして、徐々にCADの扱いに慣れてきた。分からないことは積極的に質問し、メモを取りながら着実に技術を身につけている。
さくやと笑い合い、爆音社長はよく二人を食事に連れ出すようになった。ケーキ屋の美人店主も、以前より頻繁に顔を出している。美人アシスタントが二人、常に師匠のそばにいるのを見に来ているのかもしれない。
さくやは、胸の奥に芽生える複雑な感情を「モヤモヤ」と片づけることにした。でも、本当はその感情に名前があることを、薄々気づいている。師匠を独占していた時間が減ったこと、二人が少しずつ上達していく姿への羨望、そして──
■ 秘密の共有
ある日、湖の存在を隠すのは限界になった。師匠はJDとOL、そして爆音社長を連れ、正式に湖の拠点を案内する。ジュウベェやレイナの姿も目にしたが、二人は全く驚かず、まるで当たり前のことのように自然に受け入れた。
「わあ、素敵なところですね」
「こんな世界があったなんて」
二人の反応は驚きよりも感動に満ちていて、さくやは胸の奥で静かに喜んだ。大切な秘密を共有できる仲間が増えた。この自然な受け入れ方こそが、二人が特別な存在である証拠だった。
■ 新たな計画
視察は泊まりになった。西の拠点には師匠のコテージと爆音社長の個室があり、二人の女性も同じく泊まることになる。
夜。師匠と爆音社長、そしてリーダー格のさくやたちが集まり、ある計画が静かに語られた。
「……この岩山に、トンネルを掘りたい」
静かな声。でも、その言葉には確かな希望の響きがあった。
「抜けた先には、きっと見たことのない新しい景色が待っていると思う」
爆音社長はニヤリと笑う。
「トンネル掘削機はすぐに開発するわ。西の拠点を拡充しといてな」
深夜まで話し合いは続いた。JDとOLも真剣に耳を傾け、時折質問を投げかけている。まだ経験は浅いが、熱意だけは十分に伝わってくる。彼女たちも、この新しいプロジェクトの一員として迎え入れられているのが分かった。
■ 複雑な心境
さくやは天を仰ぎ、ため息を混ぜつつも、少しだけ胸が高鳴っていた。
「いや、ほんと、人手不足が解消したと思ったら……これかよ……」
でも、不思議と嫌な気持ちではない。新しい仲間たちと、新しい景色を見に行く。そんな未来に、小さな期待を抱いている自分がいることに、さくやは気づいていた。
変化は時として不安を伴うけれど、それでも──きっと、素晴らしいものが待っているはず。師匠の瞳に宿る希望の光を見ていると、そう信じられる気がした。
JDとOLという新しい仲間が加わったことで、確かに自分の立場は変わった。でも、それは決して悪い変化ではない。むしろ、より大きなプロジェクトに挑戦できる可能性が広がったのだ。
夜空を見上げながら、さくやは小さく呟いた。
「また新しい冒険が始まるんやな」
星が瞬いているのが、まるで賛同しているように見えた。
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