■第67話 再集結編 師匠を支える小さな手
拠点の拡大により人手が分散し、師匠のオフィスが深刻な人手不足に。
過酷な日々を送る師匠を支えるため、さくやたちは再集結を決意する。
■ 深刻な人手不足
夕暮れ時の会議室に、数人のさくやが大きな地図を広げていた。湖面に反射する夕陽の光が窓から差し込み、地図の上にオレンジ色の影を落としている。湖を中心に現在の拠点が赤いピンで示されていて、それぞれの場所には小さな数字が書かれていた。
南西の拠点&師匠のコテージ:200人 南東の拠点&駅:150人 東の村&駅:200人 北の拠点&長大橋:100人 西の岩山&高地の拠点:350人
それに加えて、師匠の家やオフィス、農園&ジャム工房&花畑にも人員が配置されている。かつては一箇所に集まっていた千人のさくやたちが、今や湖周辺に散らばって活動していた。
「東の村、北の村との交流は徐々に行うとして、現状師匠のオフィスがどう考えても人手不足です!」
地図を指差しながら、さくやが眉を寄せて真剣な声で指摘する。その指先は微かに震えていて、心配の深さがうかがえた。
「湖へ進出する前は、常時七百人くらいが師匠のオフィスで働いてたんやで」
「今は二百人程度まで減ってしもた」
会議室の空気が重くなる。窓の外では、湖畔で作業を終えた仲間たちが夕食の準備をしている声が聞こえてくる。平和な日常の音だが、今は逆に問題の深刻さを際立たせていた。
「東の村や北の村、この高地への人手を無くすん?」
「それは師匠が許さへん。小さきものの世界をインフラで結ぶのがさくやの使命やて」
「ええ話やけどな…」
「でも師匠は忙しいんとちゃうの…」
「ひとりブラック企業やろな…」
最後の言葉と共に、全員が深いため息をついた。「ふー」という音が会議室に響く。
■ 師匠の過酷な日々
夜が更けた師匠のコテージでは、温かい明かりが窓から漏れていた。中では師匠が一人、大きなデスクに向かって設計図を描き続けている。コーヒーカップは既に冷め切り、周りには資料の山が築かれていた。
翌朝の会議室で、一人のさくやが震える手でペーパーを読み上げた。
「先月の師匠への依頼内容」
「都市開発計画の依頼が三件」
「道路整備計画の依頼が二件」
「橋梁、トンネル計画が三件」
「他社の設計レビューの依頼が五社」
「毎週末、相談会、学会、講演会への参加」
リストを読み上げるたびに、会議室のざわめきが大きくなっていく。
「とりあえず三ヵ月休み無しや」
「夜はコテージで一人、山のように計画図面を描いてる」
「しかも講演会や講義資料も自作…完全にひとりブラック企業やん」
短い沈黙が流れた。外では朝の鳥たちがさえずり始めているが、会議室の中は重苦しい空気に包まれている。だが、それも一瞬だった。
一人のさくやが立ち上がり、深く息を吸い込んだ。その瞳には決意の炎が宿っている。
「私たちは戻る!師匠のそばに!」
「だがしかし!」
「師匠は計画性の無い話は全却下!」
「くそ面倒なやつ!」
「主体性のある内部完結型!」
「主体性の無い外部依存型への変更提案は即座に却下!」
「なら、やることは明確!」
「私たちの再編や!」
会議室に響く「おー!!!」の声。それは決意と希望に満ちた声だった。
■ 師匠への想い
全員がうなずく中、窓際で小さく丸まっていたさくやたちも目を覚ました。まだ眠そうな瞳をこすりながらも、話の内容を理解して真剣な顔になる。
師匠は何も言わない。文句も愚痴も言わず、ただ黙々と仕事をこなし続けている。けれど、誰よりも忙しく、誰よりも全員を大切にしてくれているのを、さくやたちは知っていた。
あの日のことを、さくやたちは鮮明に覚えていた。迷子になって泣いていた時、師匠の大きな背中が見えた瞬間の安心感。複雑な設計図を前に途方に暮れていた時、師匠が優しく説明してくれた声。いつでも、師匠の背中が道しるべとなってくれた。
「師匠、いつも私たちのこと考えてくれてるもんな」
「夜中まで図面描いて、朝一で私たちの様子見に来てくれるし」
「文句も言わへんし」
「でも絶対しんどいと思う」
会議室の空気が、徐々に温かいものに変わっていく。心配と愛情が入り混じった、特別な空気に。
■ 再集結のプラン
夕陽が完全に沈み、会議室には温かい電気の明かりが灯った。それぞれの胸に"再集結のプラン"を描きはじめる。
師匠のために。全員のために。無策でも、力を合わせればきっとなんとかなる。
「各拠点の人員、どう配分し直そう?」
「師匠のオフィスを最優先や」
「でも他の拠点も大事やしなあ」
地図の上で、色とりどりのペンが踊る。人員配置図が何度も書き直され、最適解を求めて議論が続く。
「交代制にしたらどうやろ?」
「ローテーションで師匠をサポート」
「それええな!」
「師匠が倒れたら元も子もあらへん」
夜が更けても、会議は続いた。コーヒーの香りが会議室に漂い、時折誰かがあくびをするが、誰も席を立とうとしない。師匠への想いが、みんなを一つにしていた。
■ 夢の中の設計図
深夜になって、ようやく会議が終わった。疲れ切ったさくやたちは、会議室の床にそのまま横になった。毛布を持ってきてくれる仲間もいて、会議室は即席の寝室となった。
小さな体で一日の疲れを感じながらも、さくやたちの心は温かかった。夢の中では、湖周辺の橋や拠点を歩き回り、師匠と一緒に新しい設計図を描いている。
「……師匠、起きてるかな?」
誰かが寝言のように呟いた。きっと今も、師匠はコテージで図面を描いているのだろう。一人で、黙々と。でも、もう一人じゃない。
「明日、みんなで相談しよう」
「師匠を助ける方法」
「私たちにできること」
窓の外では、夜明け前の静寂が湖を包んでいる。でも、静かに、確実に、新しい一日の準備が始まっていた。小さな手で、大きな愛情を届けるために。師匠の背中を支えるために。
会議室の隅で、地図の上に置かれた赤いピンが、朝の光を待っていた。
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