■第50話 地底探索編 地下の楽園と音楽の民
森に響く謎のリズム
異文化との朝食交流
隠された地下都市への招待
■森に響く謎のリズム
──ぽこぽこぽこ、たんたんたん、しゃんしゃんしゃん。
どこか懐かしくて不思議なリズムが、まだ眠たげな森の空気に静かに染み渡っていく。光苔のやわらかな光に照らされたキャンプ地で、リトルさくやは寝袋の中でもぞもぞと身をよじった。
「んー……なんか、ぽこぽこ聞こえる……」
目はまだ閉じたまま、耳だけがそのリズムに自然と揺れる。木琴みたいに澄んだ音と、手のひらで叩く太鼓の低い響きが混ざり合って、まるで森の中で小さな音楽会が開かれているみたい。
「誰やろ?朝からご機嫌やなぁ……」
ゆっくり目を開けると、昨夜まで賑やかだった白トラ一家も、黒豹たちもどこかへ消えていた。
「あー、そうそう、昨日の夕方な…」
血まみれになって草むらから「ただいま〜」って顔で戻ってきたとき、リトルさくやは寝袋ごと飛び跳ねたのだった。
「笑顔で帰ってきたけど、口に羽根ついてたやん!何食べてたん!?」 「でも、問いただす勇気はない」 「想像したくもない」
■異文化交流の朝食
代わりに現れたのは、茶色い美しい肌にくるくるパーマ、大きな瞳がキラキラ輝く小さな人たち。昨日、象の背から優雅に降りてきた彼女たちだった。
「……お、おはよう……?」
恐る恐る声をかけると、彼女たちはぱぁっと花が咲くような笑顔を浮かべ、リトルさくやの前に何かを差し出してきた。
丸くてふっくら、蒸したてらしいもちもちのパン。それと、香り豊かなスパイスがぷんぷん効いたカレーのようなシチュー。
「これ、食べていいん?」
ひと口かじってみると、じんわりと温かく、香ばしい香りとスパイスの優しい刺激が口の中いっぱいに広がる。
「……うわぁ、めっちゃ美味しい!!これなん!?すごい!」 「手作りやな」 「朝食のレベルが違う」
食べ終わる頃には、リトルさくやの顔はすっかり笑顔になっていた。言葉は通じないけれど、ジェスチャーや笑顔だけで、気持ちがしっかり伝わるのが不思議。
そのとき、一人の女の子が自分の胸を指差して言った。
「マケダ」
なるほど、きっと名前やろう。
「マケダちゃんか」 「自己紹介してくれたんやな」
リトルさくやも自分を指差して、
「さくや」
すると、マケダの子たちも次々と自分を指差しては、
「マケダ」 「マケダ」 「マケダ」
「え、みんなマケダなん?」 「まさか、全員同じ名前?」 「おんなじやな」
■踊る朝の広場
朝の広場では、マケダたちが木琴や小太鼓を楽しそうに叩き、くるくる踊りながら笑い合っていた。
ぺたぺたと足を踏み鳴らし、ひらりひらりと回って、時おり片足で軽やかに跳び、すーっと横にスライド──その動きは全部がリズムに乗って、見ているだけで心が自然に弾んでくる。
「音楽が体に染み付いてる感じやな」
リトルさくやも思わず、そろりそろりと手を叩いてみる。
「ぽこぽこぽこぽこ……あ、手が勝手にリズム刻んでる!」 「体がうずうずしてきた」 「これ、中毒性あるな」
身体が自然にリズムに染まる感覚に、思わずにっこり笑みがこぼれる。
■秘密の地下都市への招待
そんなリトルさくやの手を、一人のマケダがそっと取った。くいっと優しく引っ張られて、連れて行かれた先には、あの大きな象の親子がゆったりと佇んでいた。
穏やかな表情で、ばっさばっさと大きな耳を振る象の足元に、マケダたちがぞろぞろ集まってくる。
足元の大きな岩に軽く手を添えると──
ゴゴゴ……ズズッ。
岩がゆっくりと横に動いた。
「……えっ!?動く岩!?いや、これ扉やん!?」 「隠し扉やった」 「まさか、ここに秘密の入り口が」
石の陰から現れたのは、螺旋状のトンネル。松明を手にしたマケダが先頭になって降りていく。
リトルさくやは少し躊躇したけれど、好奇心が勝って後に続いた。
「まあ、ここまで来たら最後まで見てみよう」 「でも、迷子になったらどうしよ」
■地下に広がる桃源郷
階段は石を丁寧に削って作られていて、天井は高く、岩の隙間から差し込む自然の光が足元をふんわり照らしている。どこからか水音がぽたりぽたりと響いて、ひんやりした空気が頬を撫でていく。
「建築技術、なかなかのもんやな」
螺旋をぐるぐる降りきった先で目に飛び込んできたのは、想像をはるかに超える広さの地下空間だった。
「うわぁぁぁぁぁ……」 「これ、完全に都市やん!」 「地下にこんな文明が隠されてたなんて」
天井にぽっ
かり開いた自然の採光窓がいくつもあって、そこから射し込む柔らかな光が美しい畑を照らしている。
畑には小麦みたいな黄金の穀物、つるをぐんぐん伸ばす野菜、大きな葉っぱの植物が整然と並んでいる。石造りの家々は美しい彫刻のように配置されて、三角屋根に丸い窓、扉は樹皮で装飾されている。
「完全に自給自足できる環境やな」 「設計が計算されてる」 「これ、何世代もかけて作ったんやろな」
水路がくねくねと町中を通って、清らかな水音がさらさらと響く。マケダたちは裸足で水に足をぴちゃぴちゃ浸して、気持ちよさそうにきゃっきゃ笑っていた。
■音楽に包まれた村
そこへ、通路の奥からまたもやマケダたちがぞろぞろと行列を作ってやってくる。
ぽこぽこ、しゃんしゃん。
手に小さな太鼓や木の実で作ったシェイカーを持って、踊りながら笑いながら──
「音楽が生活に完全に根付いてる」 「これ、文化の違いやな」 「私らより人生楽しんでるんちゃう?」
白トラ一家はいつの間にか広場の草むらに戻って、のんびりまったりとくつろいでいる。子トラたちは転がって遊び、母トラは丸くなって気持ちよさそうに眠っている。
父トラはリトルさくやをじっと見つめて、小さく「うん」とうなずいた。まるで「どうや、ええやろ?」と言ってるみたい。
「白トラさんも知ってたんや」 「案内役やったんやな」 「動物のネットワーク、侮れんな」
音楽は、村の空気も、土の匂いも、水の音も、光の揺らぎも、すべてと混ざり合って、リトルさくやの心まで優しく温かく染めていった。
「居心地ええなあ」 「時間の流れが違う気がする」 「ストレス社会とは無縁やな」
──ここが、マケダの村。小さくて、でも、確かに生きている美しい世界。
「師匠に報告するとき、また信じてもらえん案件や」 「でも、素晴らしい発見やな」 「この平和な世界、大切にしたいわ」
そして、新しい家族ができた気がした。
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