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■第37話 西の岩山編 雲を貫く翼

風に舞う小さな勇気が、空への扉を開く

揺れるゴンドラに託された夢は、雲を越えて昇っていく

師匠の想いを胸に、今日もまた一歩ずつ高みへと向かう


■中腹の岩棚での現状報告

中腹の岩棚で、強まる風にヘルメットの小さな飾りがカタカタと音を立てていた。銀色に輝く階段が足元から地上へと真っ直ぐ伸び、その美しさに改めて感動を覚える。

「ここ……けっこう高いですね」 「……岩、垂直だね……」

足元を覗き込むリトルさくやの目が、ちょっぴり怖そうに細められる。でもその表情には、疲れだけでなくしっかりとした達成感があった。50メートルまで登ってきた自分たちを、少し誇らしく思っているのだ。

岩壁を見上げながら、師匠へ無線で報告する。

「師匠ー、西の岩山・中腹まで到達しました。でも資材搬入が……高所すぎて厳しいです!」 「風も強いし、運ぶのが大変で…」

師匠からの返答は、いつものように簡潔だった。

「了解」

たったそれだけ。

リトルさくやたちは無線を見つめ、しばらく沈黙が流れた。

「……何が了解なんやろな」

一人がぽつりと呟く。

「確かに……問題解決してへんし」 「でも、なんか安心するよね」

その短い言葉に込められた信頼感に、リトルさくやたちはどこか安心した空気に包まれた。師匠の声には、いつも確かな方向性と温かい信頼が宿っている。

「師匠、きっと何とかしてくれますよ」 「うん、いつものように」

小さな声で語り合うリトルさくやたちの表情は、不安よりも期待に満ちていた。


■ゴンドラ計画、始動

「…ほな、あれ持ってくるか」

爆音社長が腕まくりをしながら、得意げに笑った。湖周辺から運ばれてきたのは、10人乗りの電動ゴンドラユニット。ケーブルで昇降する構造で、滑車は静音性抜群。衝撃吸収バネまで搭載された"リトルさくや専用"の最新機だった。

美しい白い塗装に、リトルさくやたちのサイズに合わせた座席。細部に至るまで、小さきものたちへの配慮が行き届いている。

「今度こそ完璧や!…………ちょっとまだ揺れるかもしれんけど」

最後にぽつりと付け加える爆音社長。その言葉に、リトルさくやたちの表情が微妙に曇った。

「また『ちょっと』ですか…」 「社長の『ちょっと』は信用でけへん」 「前回は『ちょっと煙が出るかも』って言って大変でしたよね」

苦笑いが広がる中、それでも彼女たちの目には期待の光が宿っていた。

さっそく、先行チームが中腹から岩壁へケーブルを伸ばす作業にかかった。揺れる作業台で、支柱を打ち込むたび、風がびゅうっと唸る。

「頑張って〜」 「落ちないでくださいよー」

下で見守るリトルさくやたちが、小さな手を口の形にして声援を送る。その声は風に乗って、作業する仲間たちの心を温かくしていた。

「……これで、資材も人も一気に行けるで」

爆音社長が満足そうに腰に手を当てた。


■初運行、そして……

初運行の時がやってきた。10人のリトルさくやが、恐る恐るゴンドラの座席に座る。白い座席に小さな体が収まると、まるで雲に包まれているような感覚だった。

「大丈夫ですよね…?」 「社長、ほんまに大丈夫ですよね?」 「動くときは言うたやろ?絶対やで?」

念を押すリトルさくやたちに、爆音社長は親指を立てた。

「任せとき!今度は完璧や!」

スイッチオン。ゆっくりとゴンドラが浮き上がる。最初の数秒は順調だった。座席に座った10人が、ふわりと浮く感覚に小さく息を呑む。

しかし——。

突然、予想外の横風が吹いた。ゴンドラが大きく横に揺れ、ケーブルから……

「あっ!」

ゴンドラが浮いた。文字通り、空中に浮かんだのだ。

「ぎゃあああああああ!!」 「飛んでる!私たち飛んでる!!」 「これゴンドラやない!気球や!!」

実は爆音社長、安全対策として緊急時の浮力システムを内蔵していたのだった。強風でケーブルに負荷がかかると、自動的に軽いヘリウムガスが注入される仕組みになっている。

しかし、横風のせいでゴンドラは縦ではなく横に流れ始めた。

10人のリトルさくやがぎゅっと手を繋ぐと、まるで……

「あっ、これ……」 「鯉のぼりみたい!」 「私ら、空泳いでる!」

風にたなびくゴンドラと、手を繋いで横一列になったリトルさくやたち。その光景は、まさに空を泳ぐ鯉のぼりのようだった。

「意外と……楽しいかも?」 「景色、すっごくきれい!」 「でも、どうやって降りるの?」

3分後、緊急着陸システムが作動し、ゴンドラはゆっくりと岩棚に降りてきた。全員がぐったりと座席に沈み込んだが、その表情には不思議な満足感があった。

「……なんか、飛べた気がします」 「鯉のぼりになった気分やった」 「社長、これはこれでありかも」

弱々しいながらも、前向きな声がちらほらと聞こえてきた。


■効率化と絆

結局、ヘリウムガスを調整して、ゴンドラは安定したケーブル搬送として機能するようになった。効率は一気に上がり、中腹には仮拠点が設けられ、上下で資材と人材の循環がスムーズになった。

「資材、5分で運べます!」 「人員交代も楽になりました!」 「これなら100メートルも夢じゃないです!」 「でも、たまに横に飛ぶのも楽しかったな」

岩場でキャンプを繰り返しながら、着実に登頂を目指していく。ゴンドラの導入により、作業効率は飛躍的に向上していた。

再び吊り上げられるゴンドラの中で、慣れてきたリトルさくやの一人がぽつりとつぶやく。

「……師匠が見たい景色って、どこにあるんやろうね」 「きっと、すっごく素敵なんでしょうね」 「ちゃんと届けたい……師匠の想い」

少し照れくさそうな顔で、でも真剣に。その横で仲間がにこっと笑ってうなずく。

「もうちょっと、頑張ろうな」 「うん、みんなでやり遂げよう」 「また鯉のぼりになったら、みんなで手つなごうね」

小さな手が握り合わされる。ゴンドラが揺れる中でも、心は確実に一つになっていた。


■師匠の眼差し

湖周辺の拠点に戻った爆音社長が、珍しく静かに言う。

「……あの鯉のぼりは計算外やったけど、この調子でいけそうやな、師匠」

師匠は答える代わりに、小さくうなずいた。そして、かすかに笑った。

「……鯉のぼりか。君たちらしいな」

岩山に沿って上がっていくゴンドラを、師匠はじっと見つめていた。その瞳に映るのは、小さな体で大きな挑戦を続け、時には空を泳ぐリトルさくやたち。

ゴンドラの中から聞こえてくる小さな笑い声。仲間同士で励まし合う声。

「がんばろー」 「おー!」

という元気な掛け声。それらすべてが、師匠の心を温かくしていた。

挑戦は続く。小さな手で、大きな夢をつかむために——。時には空を泳ぎながら。

銀色の階段とゴンドラのケーブルが、地上と空を繋ぐ希望の道となって、夕陽の中に美しく輝いていた。



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