第20話 東の村探索編 出発進行! 小さな鉄道が大きな未来へ
森の奥に、新しい村ができた。
湖と村を繋ぐには、道が必要だ。
師匠は地図を広げ、静かに言った――「鉄道を通したい」と。
■夢のような帰還
森がざわめいていた。
あの日、5日かけて辿り着いた東の村から──たった一日で戻ってきた。
白いヤマネコたちが道を知っていたからだ。
夕暮れの湖に、森の奥から音もなく現れた白い影。
その背中には、さくやたちが乗っている。
そして、その後ろには──
黒い装束の小さな影。
リトルジュウベェたちだった。
「おかえり、さくや」
師匠は静かに立ち上がり、変わらぬ声でそう言った。
ヤマネコの背中から降りたさくやたちは、くたびれながらも笑顔。
そして、ジュウベェを見ても、師匠は特に驚いた様子はなかった。
「いらっしゃいませ。長旅お疲れさま」
リトルジュウベェは、湖畔の朝靄のような澄んだ目で、師匠をまっすぐ見つめていた。
「拙者、リトルジュウベェと申すにござる」
深く、深く頭を下げた。
「お見知りおきを、願いたく候」
師匠は、少しだけ微笑んだ。
「……こちらこそ」
■報告会と小さな嵐
夜、湖の拠点で久々の帰還報告会。
さくやたちは次々と発表を繰り広げる。
・暗黒の森の実情
・白いヤマネコとの出会い
・洞窟を抜けた先の"サムライの村"
・リトルジュウベェとの出会いと村の困難
・畑の復興、城の修繕、そして友情
師匠は一言も口を挟まず、静かに耳を傾け続けた。
報告が終わる頃、時計の針は日付をまたいでいた。
「ジュウベェくんたちは……」
師匠は膝の上の地図をのばして言った。
「私の家に泊まろうか」
その言葉に、さくやたちはざわっ……と色めきだった。
「ええっ!?」
「ど、どこに!?」
「ちょっと待って、師匠!」
「ジュウベェ殿、こっちの方があたたかいにござるよ!」
「……嫉妬じゃないよ、してないよ!」
不機嫌という名の嵐が静かに吹き荒れた。
師匠は、少しだけ困ったような顔をした。
「……じゃあ、みんなで雑魚寝しようか」
「それがいい!!」
即答だった。
■爆音社長との会議
翌朝。
師匠が向かったのは、湖の北側にある爆音社長の作業所。
「呼ばれて飛び出て──うわっ!?なんやこの子!?」
ジュウベェの姿に爆音社長は驚いたが、すぐに椅子をぽんぽん叩いて師匠の話に耳を傾けた。
「東の村の再建、うまくいったようだな」
師匠は頷いた。
「でも、移動に五日もかかっている」
「ヤマネコがいれば一日だが、いつもいるとは限らない」
「物資も人も、行き来が容易ではない」
師匠は地図をひらき、赤いペンで点と点を結んだ。
「……鉄道を通したい」
爆音社長の手が、止まった。
「……なんやて?」
「小さきもの専用。専用の鉄道だ」
師匠は、地図を指差した。
「最低限の伐採で済む、環境と共存したルートを通したい」
「森を傷つけず、ヤマネコたちの領域を尊重し、それでいて確実に村と拠点を繋ぐ」
爆音社長は顎に手をやり、しばし考えた後──にんまり笑った。
「……おもろそうやなぁ!」
「やりましょうや、師匠!」
「鉄道なんて、めちゃくちゃロマンあるで!!」
■さくや鉄道構想発表
数日後。
湖畔の大会議室に、さくやとジュウベェがズラリと集合。
前列中央には爆音社長と師匠。
スクリーンには大きく映し出された路線案。
線路は山を縫い、川をまたぎ、やがて東の村へ。
その下には堂々とʕ•ᴥ•ʔのマーク。
「――これが、計画です」
師匠の一言に、室内はしん……と静まり返った。
続けて爆音社長が立ち上がる。
「この線路はなぁ……めっちゃ細いんや」
「小さきもの専用や!山ん中もスイスイやで!」
「でも大事なんは、こっからや」
爆音社長が、地図を叩く。
「鉄路っちゅうのは、通すだけじゃあかん」
「ちゃんと"通わせる"ことが大事や」
「ほんで今回は──車両も、つくる!」
「車両!?」
「電車くるの!?」
「かわいいやつ!?」
「拙者は、かっこいいのが良いにござる……!」
「ʕ•ᴥ•ʔマークつけましょう!」
「窓、大きい方がいい!」
「屋根は?」
「かっこよく!」
会場は、まるで祝祭のような盛り上がりに包まれた。
ジュウベェたちも、目を輝かせている。
「拙者、鉄道というものを、初めて知ったにござる……!」
「これは……すごいにござるな……!」
「村まで、これで行けるにござるか!?」
「拙者、感動したにござる!」
「切腹は……」
「やめろ!!」
全員が止める。
笑い声が、会議室に響いた。
■未来への一筆
その日。
師匠の書斎の窓から見える湖は、ふわりと風をうけ、波を立てていた。
師匠はペンをとり、計画書に一筆書き加えた。
「さくや鉄道。東の森線」
その隣に、小さくʕ•ᴥ•ʔマーク。
その名はまだ、誰も知らない。
でも確かに、それは走り出そうとしていた。
さくやと、ジュウベェと、そして"未来"をのせて。
師匠は、窓の外を見た。
湖の向こうに、森がある。
その奥に、村がある。
さくやたちが、命をかけて辿り着いた村が。
ジュウベェたちが、必死で守ってきた村が。
そして今、繋がろうとしている。
「……良い計画だ」
師匠は、小さく呟いた。
誰にも聞こえない声で。
でも、確かに言った。
窓の外では、ヤマネコたちが湖畔で休んでいた。
傷はまだ残っている。
でも、穏やかな顔をしていた。
この場所が、安心できるのだろう。
師匠は、そっと立ち上がった。
外へ出る。
湖畔を歩く。
ヤマネコたちが、師匠を見た。
警戒はしない。
でも、近づきもしない。
ただ、認めている。
そんな距離感。
師匠は、少しだけ微笑んだ。
「……ありがとう」
「さくやたちを、守ってくれて」
ヤマネコたちは、鼻を鳴らした。
風が吹いた。
湖が、揺れた。
森が、ざわめいた。
すべてが、繋がっている。
師匠は、それを感じていた。




