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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ


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第4話 ご主人様の教えとやかましい番犬たち

【――特務防衛局(とくむぼうえいきょく)灰原小隊(はいばらしょうたい)・専用訓練室。】


「……違う。魔力の流れが逆よ、駄犬。アダムカドモンのサーバー群から事象を引っ張ってくる前に、あなたの血が勝手に物理法則を書き換えようとしているわ」


ピシャリと、冷徹な声が訓練室に響く。

純白の制服を身に纏った灰原蛍は、腕組みをしながら、防衛局の標準支給品である剣型デバイスを握らされている俺を、氷のような瞳で睨みつけていた。


「悪い、隊長……いや、マスター。どうもこのデバイスを通して外部から力を借りるって感覚が、親父のガラクタ以上に理解できない」


「理解しなさい。今のあなたは特務防衛局のデータベース上、私の個人的なツテで引き抜いた、無名の特待生ということになっているのよ」


蛍はコツコツとヒールを鳴らして俺に近づき、俺の持つ剣型デバイスを指先で弾いた。


「いい? 人間には魔力を扱う適性があるけれど、得意不得意のムラが大きすぎる。だから、魔力さえあれば誰でも一定の事象を引き起こせるようにデバイスという道具に落とし込んだの。それがこの世界の魔術よ」


「……」


「地下で眠る(アダムカドモン)の死骸。その脳には膨大な知識と魔法陣が保存された深層データベースがある。このデバイスの内部には神の肉体の複製品が素材として組み込まれていて、それを使うことでアダムの脳と共鳴し、刻まれた魔法陣を読み込んで魔術を起動する」


蛍は俺の手からデバイスを奪い取ると、スライド式の外装をカシャリと外した。

中には、鈍く光る人工的なパーツと回路がぎっしりと詰まっている。


「武器型デバイスを構成する素材は、大きく分けて三つ。


物理的な事象の固定や防壁に優れ、頑丈で魔力消費の少ない【骨格系】。


エネルギーの放出と変換に優れるが消費の激しい【血管系】。


索敵や罠、魔術の軌道変化など、精密な魔力操作に特化した【神経系】。


……この素材を組み合わせることで、例えば骨格系+血管系なら、ただの剣ではなく斬撃を飛ばせる剣になる。魔力は術者自身のものを消費するけれど、事前にデバイスへ溜め込んでおくことも可能よ」


そこまで一気に説明し、蛍は冷ややかな目を俺に向けた。


「でも、あなたは違う」


彼女の言葉に、俺は自分の手のひらを見つめた。

薄い皮膚の下には、今も冷たい銀色の流体が蠢いている。


「あなたはデバイスも魔法陣も必要としない。自身の銀の体液を変形させるだけで、深層の魔術をノーモーションで引き出せる……理外の外にいるのよ」


「もし、あなたの正体が研究開発部にバレたらどうなると思う? 彼らは悪意や狂気からではなく、人類を救うための正しい判断として、無限に特級デバイスを抽出できる資源としてあなたを解剖台に縛り付けるわ…………だから、偽装するの」


蛍は外したデバイスの中身――共鳴用の複製品パーツやリミッターの回路を、無造作に叩き壊した。

そして、ただの剣の柄になったそれを、再び俺の胸に押し付ける。


「なっ、何するんだよ!?」


「ただの柄にしたのよ。これからは、あなたの銀の血で武装を創り出す時、必ずこの柄を起点にして発生させなさい。そうすれば、はたから見れば特殊な高出力デバイスを使っているように誤魔化せる」


蛍は破壊したデバイスの柄を、再び俺の胸に押し付けた。


「あなたは私の狗。防衛局のシステムから隠し通し、一番効果的な盤面で、私の最高火力を叩き込むための隠し武器として使い潰してあげる。……分かったら、もう一度術式構築のフリからやり直しなさい」


「……ああ、分かったよ。マスター」


俺がダミーの柄を握り直し、体内の銀の血を柄の先に集中させようとした、その時だった。


「隊長ォ!! なんですかあの特待生って! 俺は聞いてないッスよ!!」


バンッ! と乱暴に訓練室の扉が蹴り開けられ、鋭い三白眼を持った大柄な男が、ズカズカと踏み込んできた。

防衛局の制服を着崩し、背に身の丈ほどもあるデバイスを背負った男――黒鉄 獅狼(くろがね しろう)だ。


獅狼は俺の姿を視界に捉えるなり、あからさまに敵意を剥き出しにして睨みつけてきた。


「おい、野良犬! お前みたいなスラム上がりのガキが、ウチの冷血鬼隊長のコネで入隊だと? ふざけんな、俺は絶対に背中を預けねえからな!」


「……キャンキャンうるさい番犬だな。俺も、お前みたいに暑苦しい奴は苦手だ」


「あぁん!? やんのかコラ!!」


俺と獅狼が胸ぐらを掴み合いそうになった瞬間。


「あはは。獅狼くん、ダメだよー。新しい子といきなり喧嘩しちゃ」


ひときわ場違いな、のんびりとした柔らかい声が割って入った。

いつの間にか訓練室の隅に、防衛局の制服の上にゆるいカーディガンを羽織った女性――穏田(おんだ) のどかが立っていた。

彼女の手には、四人分の温かいお茶が乗ったお盆が掲げられている。


「ほらほら、黎くんも獅狼くんも、お茶淹れたから一息つこ? 隊長も、あんまりしごきすぎると嫌われちゃいますよ〜」


「の、のどかさん……! す、すんません! 俺、別に喧嘩とかじゃ……ッ!」


先ほどまで俺に牙を剥いていた獅狼が、のどかの姿を見た途端、耳まで真っ赤にして直立不動になった。

その分かりやすすぎる態度に、俺は思わず毒気を抜かれて溜め息をついた。


「……なんだ、この部隊」


「言ったはずよ。私の手駒だと」


呆れる俺の隣で、蛍は冷たくお茶のカップを受け取りながら、ふいっと視線を逸らした。


――こうして、愛を知らぬ俺と、冷徹なご主人様、やかましい番犬、そして優しいお姉さんの、奇妙で騒がしい日々が幕を開けたのだ。

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